日本の社会人ラグビーユニオン(15人制)の頂点を争う舞台として、2003年から行なわれてきたトップリーグ。それに替わり、新たな全国リーグとして「リーグワン」が1月7日に幕を開ける(選手のなかに新型コロナウイルス陽性者が確認されたために開幕…

 日本の社会人ラグビーユニオン(15人制)の頂点を争う舞台として、2003年から行なわれてきたトップリーグ。それに替わり、新たな全国リーグとして「リーグワン」が1月7日に幕を開ける(選手のなかに新型コロナウイルス陽性者が確認されたために開幕戦は中止)。

 参加24チームが3部に分かれ、ディビジョン1は12チーム、ディビジョン2とディビジョン3は各6チーム。ディビジョン1はふたつのカンファレンス(6チームずつ)に分かれ、各上位2チームがプレーオフに進出して優勝を争う。



「微笑み貴公子」と呼ばれるダミアン・マッケンジー

 新リーグが開幕するにあたり、すべてのチームは「地域名」を冠し、ホストスタジアムを定めて、より地域に密着した存在になることを目指している。ホスト&ビジターで対戦し、各チームが興行権を有してホストの試合を運営するなど、トップリーグよりもさらにプロ的なリーグとして生まれ変わった。

 そのため、優勝を争う強豪チームは単なる選手層の強化だけでなく、観客の集客も考慮し、世界的に名だたる外国人選手を獲得した。そこで今回は、スポーツファンの耳目を集めるであろう新加入選手5人を紹介したい。

 まず、ついに始まる「リーグワン」で最もファンが見たいと思っている選手は、東京サントリーサンゴリアスに加入したSO(スタンドオフ)/FB(フルバック)ダミアン・マッケンジー(ニュージーランド/26歳)だろう。

 身長177cm体重78kgと、見た目は決して大きい選手ではない。だが、ラン、パス、キックといったスキルにずば抜けた選手で、オールブラックスの一員として40キャップを誇る。プレースキックを蹴る前のルーティンに微笑むことから、日本では「微笑み貴公子」とも呼ばれて人気のスター選手だ。

 2019年ラグビーワールドカップはその年の4月に右ひざを負傷し、残念ながら参加することができなかった。ただ、2021年のニュージーランドの国内リーグで111点を挙げて得点王に輝くなど、その得点能力はおそろしく高い。

 マッケンジーは「日本の速い展開のラグビーは自分に合う」と自信をのぞかせ、東京サンゴリアスの田中澄憲GMは「我々のアタッキングラグビーに一番フィットする選手だと思います。ラグビーをやっている子どもたちみんなが間近で見られることで勇気をもらえる」と期待を寄せている。

【トヨタはビッグネームを獲得】

 オールブラックスの先輩SOボーデン・バレットは昨季、サントリーサンゴリアスに所属。最後のトップリーグは準優勝に終わり、残念ながらチームを優勝に導けなかった。後輩のマッケンジーがアタッキングラグビーを進化させて、サンゴリアスをリーグワン初代王者に導くことができるか。

 そのサンゴリアスに勝って最後のトップリーグ王者となり、今季のリーグワンでも優勝候補である埼玉パナソニックワイルドナイツにも、ファンが楽しみにする大物選手が加入した。2019年ラグビーワールドカップにも出場したWTB(ウィング)マリカ・コロインベテ(オーストラリア/29歳)だ。

 昨季のトップリーグでは、2019年ワールドカップでも大活躍した日本代表WTB福岡堅樹がリーグMVPに選ばれる活躍を見せた。だが、福岡は医師になるために順天堂大学医学部に進学して引退。決定力の低下が懸念された。

 その穴を埋めるために獲得したのが、オーストラリア代表42キャップを誇るコロインベテだ。2019年にはオーストラリア最優秀選手「ジョン・イールズ・メダル」に選ばれたフィジー出身の選手。体格を活かした突破力、100mを10秒台で走るスピードを兼ね備えたランナーで、トライ量産へ期待がかかる。

「今までと違う環境でプレーしたい、違う国で新しい挑戦したいと思った。日本の文化に惹かれていますし、ワイルドナイツでもたいへん恵まれたコーチとラグビーができている。自分のできるベストを尽くしてこのチームのために貢献したい」(コロインベテ)

 一方、強豪チームながらトップリーグで優勝に手が届かなかったトヨタヴェルブリッツは、武器であるFW陣をより強化するために世界的なビッグネームをふたり獲得した。

 まずひとりは、2019年ラグビーワールドカップで南アフリカ代表の優勝に大きく貢献し、世界最優秀選手に輝いたスプリングボクス58キャップのFL(フランカー)ピーターステフ・デュトイ(29歳)。そしてもうひとりは、ニュージーランド代表41キャップのLO(ロック)パトリック・トゥイプロトゥ(28歳)だ。

【サバティカルでの日本挑戦】

 日本でプレーする7人目の世界最優秀選手となったデュトイは、スプリングボクスでは「機関室の心臓」と称された選手。身長200cm体重114kgながら豊富な運動量を誇り、LOとしてもプレーできる高い身体能力が魅力だ。

「2019年以来、日本に戻って来られてうれしい! このような機会は今後の自分の人生にとって大きなものになるだろう。ヴェルブリッツの成功に自分の力が役に立てば光栄だ」(デュトイ)

 身長198cm体重124kgのトゥイプロトゥはブルーズのキャプテンを務めるなど、リーダーシップとフィジカルに長けた選手。2021年のスーパーラグビー「トランス・タスマン(ニュージーランドとオーストラリアの全10チームがクロスオーバーで対戦)」では全勝優勝に貢献。ニュージーランド協会の許可を得て、サバティカル(※)での日本挑戦となった。

※サバティカル=ニュージーランド協会がオールブラックスのトップ選手の海外流出を止めるため、リフレッシュや金銭的な理由で1年ほど海外でのプレーを認めるという制度。

「家族をニュージーランドにおいて単身で日本に来たが、非常にすばらしいクラブだと聞いていたので楽しみだった。毎日充実している。まずは初戦が楽しみだし、全力で臨みたい」(トゥイプロトゥ)

 ヴェルブリッツには昨季ニュージーランドに挑戦した日本代表No.8姫野和樹も在籍し、今季から共同キャプテンとしてチームを引っ張る。世界的なFWが揃ったヴェルブリッツは優勝候補のひとつと言えるだろう。

 そして最後の5人目は、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安に加入したオーストラリア代表73キャップのFBイズラエル・フォラウ(32歳)だ。

 身長194cm体重103kgの大型BKのフォラウは、13人制ラグビーを17歳でプロデビューした選手。その後、オージールールズ(オーストラリアンフットボール)での活躍を経て、2013年から15人制ラグビーに転向した。

【ダークホースとなり得る存在】

 スーパーラグビーで頭角を現し、すぐにオーストラリア代表にも選出。2014年、2015年、2017年と国内の年間最優秀選手賞である「ジョン・イールズ・メダル」を3度も受賞している世界的な選手だ。

 ただ2019年に同性愛を嫌悪する発言が問題となり、オーストラリア協会から登録を抹消された過去を持つ。フランスで13人制ラグビーに復帰したのち、今季シャイニングアークス東京ベイ浦安で15人制ラグビーに再び挑戦する。

 元オーストラリア代表のチームメイトが多く日本でプレーしていることもあって、フォラウは「リーグワンに挑戦したい」と思ったという。豪快なランが魅力で、ハイボールキャッチに強く、3つのフットボールで活躍してきた経験値も高い。オーストラリアを代表するアスリートだけに、シャイニングアークスを上位に押し上げる原動力になるかもしれない。

 トップリーグのレベルが年々上がっていくと同時にワールドカップが開催されたことで、日本ラグビーは世界に大きなインパクトを与えた。今回紹介した5人を筆頭に、彼ら外国人選手たちの存在はリーグワンを発展させる一助となるだろう。