Sportiva注目アスリート「2022年の顔」第6回:玉井陸斗(飛び込み)(第5回:佐藤心結(ゴルフ)女子ツアーに現れた「大器」>>)スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せてくれるのか。「20…

Sportiva注目アスリート「2022年の顔」
第6回:玉井陸斗(飛び込み)

(第5回:佐藤心結(ゴルフ)女子ツアーに現れた「大器」>>)

スポルティーバが今年とくに注目するアスリートたち。その才能でどんな輝かしい活躍を見せてくれるのか。「2022年の顔」と題して紹介する。

※   ※   ※ 



東京五輪の大舞台でも立て直して入賞を果たした玉井陸斗

 昨年、14歳で東京五輪に初出場した飛び込み男子高飛び込みの玉井陸斗(JSS宝塚)は、その大舞台で、予選16位から準決勝では8位に順位を上げて決勝に進出。決勝では準決勝の得点を18.30点上回る431・95点で7位入賞を果たした。同種目では2000年シドニー五輪で5位になった、同じクラブの先輩・寺内健以来の入賞という偉業だった。

 小学1年から飛び込みを始め、2019年4月の日本室内選手権では12歳7カ月ながらも474.25点という高得点で史上最年少優勝を果たして注目された。同年8月の世界選手権は年齢制限のために出場できなかったが、その後9月の日本選手権では室内選手権よりも難易度を落とした構成で臨んだものの、世界選手権4位相当の498.50点を出して優勝した。

 コーチはレジェンド・寺内を育てた馬淵崇英氏。その寺内に次いで日本飛込界の、新たな歴史を作る逸材として注目されるようになった。

 そして2020年2月の国際大会派遣選考会でも、日本選手権より1種目だけ難易度を落とした構成で臨んで458.05点を出して優勝。東京五輪出場権獲得のラストチャンスとなるワールドカップ東京大会の出場権を獲得した。

 しかし、新型コロナ感染拡大の影響で大会は中止。五輪自体も1年延期になった。2021年5月に東京五輪プレ大会も兼ね、改めて開催されたワールドカップでは、予選の5本目終了時点で準決勝進出圏外の19位タイながら、ラストの5255B(後ろ宙返り2回半2回半ひねりえび型)をきれいに決めて91.80点を獲得。15位に順位を上げて準決勝進出18名までに与えられる出場権を獲得した。決勝では8位と勝負強さを見せつけた。

そして、その勝負強さは、東京五輪でも存分に披露された。

【14歳とは思えない精神力】

 18人が通過できる予選は、1本目の407C(後ろ踏切前宙返り3回転半抱え型)をしっかり決めたあと、4本中3本で大きなミスをして、5本終了時点で21位と準決勝進出が危うくなった。だが自信を持つ5255Bで臨んだラストの6本目は、ノースプラッシュの91.80点を出し、持ち直したものの、374.25点で16位というヒヤヒヤのスタートだった。

しかし準決勝は大きなミスを2種目だけに抑え、8位で決勝へ進出。12人で戦う決勝ではミスがあったものの、最後の5255Bを堅実に決めて7位を確保した。この五輪での経験を玉井は前向きに振り返った。

「7位でしたが、この大会で今できる最大の演技はできたと思います。5本目に失敗した307C(前逆宙返り3回転半抱え型)は、予選と準決勝で回転が足りない落ち方をしていたので、それを修正しようと思って回転しすぎるくらいの意識で頑張った結果なので、悔しいとか悔いが残るというのはないです。4本目まではいい流れで、5本目は悪い演技になってしまいましたが、落ち込むというより、思いきりやった結果だと捉えています」

 また、予選から準決勝、決勝と調子を上げられたことについては、「五輪という舞台にだいぶ慣れてきたからなのではないか」と答え、度胸を見せる。そして580点台で金と銀を獲得した中国選手や、548.25点で銅メダルのイギリスの選手との差についてはこう分析していた。

「飛び出しで踏み切った時の姿勢がきれいだからこそ、入水がうまくいくのだと思う。自分はそこがまだまだなので、パリ五輪まであと3年しかないですが、近づけるように頑張りたいです」

 玉井の予選落ちはまったく考えていなかったという馬淵コーチは、予選はハラハラドしたと苦笑する。だが毎回修正を重ね、予選より準決勝、準決勝より決勝と安定していったのは大きな収穫だった。

「14歳でありながら、決勝であの6種目を飛べるのは、自分の経験上でもなかなか想像がつかないことです。難しい技、雰囲気、プレッシャーなど......、なかなか落ち着くことすら難しいと思いますが、まだ海外経験も少ないなかでよく集中し、修正しながら最後まで自分の演技をまとめて、入賞できたと思います。本人も次のパリ五輪ではメダルが獲れるという自信がついたのではないかと思います」

【課題は入水】

 しかし、馬淵コーチは世界の上位で戦うためには、まだまだ入水前の体の伸ばしと、入水の感覚や精度をもっと上げるのが課題だと言う。

「彼の場合は演技の前半部分は非常にいい演技ができていますが、後半の安定と入水の仕方や感覚などに問題があり、不安定な動きになっています。今は入水部分が大きな採点要素になっていて7~8割はそこが点数に反映されているので、いかに体を伸ばして飛沫を立てないように入水するかが非常に大切です」

 それでも難易率3.7の109C(前宙返り4回転半)を最高に、6種目の難易率合計が21.1というのは、東京五輪優勝のガオ・ユアン(中国)や、3位のトーマス・デイリー(イギリス)などの上位選手と比較しても、同じか上回るくらいのトップレベル。14歳にしてそこまで高い難易率の種目構成を組めること自体が、彼の素質の高さを物語っている。

 これまで寺内とともに五輪のメダル獲得を目指して戦ってきた馬淵コーチは、五輪のメダルへの思いを、「獲れるまでやりましょうか。メダルなくしては辞められないですから」と冗談っぽく笑う。その言葉には「玉井でメダルを」という気持ちもにじみ出る。

 そんな玉井の新たな第一歩は、今年5月に福岡で開催される世界水泳でのメダル獲得だ。2001年に同じ福岡で開催された世界水泳では、尊敬する先輩の寺内が3m飛び板飛び込みで、世界水泳飛び込み競技日本初のメダルとなる、銅メダルを獲得している。

 それに続く結果を出すのがパリ五輪へ向けた玉井の第1歩目の目標だ。

(第7回:森敬斗(プロ野球)「今のままでは行き詰るよ」>>)