10区では8位で襷をもらったものの、ゴール時点では11位となりシード権を失った東海大 箱根駅伝10区、東海大にまさかの出来事が起きた。 ラスト1キロの地点、10位をなんとかキープしていたが、うしろから猛追してくる法政大に飲み込まれ、11位に…



10区では8位で襷をもらったものの、ゴール時点では11位となりシード権を失った東海大

 箱根駅伝10区、東海大にまさかの出来事が起きた。

 ラスト1キロの地点、10位をなんとかキープしていたが、うしろから猛追してくる法政大に飲み込まれ、11位に後退。そのまま差を広げられて、シード権を失った。

「これも駅伝。残念です」

 両角速監督は、そう言って悔しさを噛みしめた。

 3年前の第95回大会は黄金世代と3本柱を擁して初優勝を果たし、前々回大会は2位、前回大会は5位ながら3区では一時トップに立つなど力のあるところを見せた。今大会も1区の市村朋樹(4年)が3位で襷(たすき)を渡し、その後を期待させたが2区から低迷し、一時は17位まで順位を落とした。頂点を極めてからわずか3年でシード権を失うことになったのは、なぜか。

 出足は悪くなかった。

 1区の市村が区間3位で2区の松崎咲人(3年)に襷をつなぎ、いい流れを作った。大エースの石原翔太郎(2年)が不在のなか、その役割を担った松崎だが、強者揃いの2区で区間17位と落ち込み、順位を16位に下げた。駅伝は、よく「流れ」が重要と言われるが、ここで1区のよい流れが断ち切られ、3区、4区も低調に推移し、4区終了時点で17位。トップの青学大とは7分10秒もの大差がついていた。

 この時点で、目標は当初の6位内ではなく、シード権確保に切り替わった。

 10位早稲田大とのタイム差は、2分38秒、山の5区で、果たしてどれだけ詰められるか。期待のルーキー吉田響(1年)が区間2位の走りで順位を10位に押し上げ、なんとかシード権をキープできるところまでたどり着いた。

 復路は、7区の越陽汰(1年)が区間3位の好走で8位に順位を押し上げて、そのまま9区まで順位をキープした。ラストの10区を残して11位法政大との差は、1分22秒差。アンカーの吉冨裕太(4年)がこのまま走りきることができればシード権は、死守できる。「夏ぐらいまでは戦力になるかどうかという選手だった」(両角監督)という吉富だがラストチャンスを掴んだ。4年生として最後の走りになるが、シード権を後輩に残すことを第一に考えていたはずだ。序盤は順調だったが、徐々にペースが乱れ、何らかの異変が起きているようだった。

「低血糖症でした。筋グリコーゲンを貯蔵しておくように指示しておけば、こういうことにはならなかった。私のミスです」

 レース後、両角監督はそう語ったが、残り1キロ地点で法政大にかわされた。吉富は区間19位の走りでフラフラになりながら11位でフィッシュ。

 東海大は、7年間、守り続けてきたシード権を失うことになった。

 今シーズンの東海大は、黄金世代や3本柱と言われた強力な世代が抜け、戦力ダウンは否めない状況だった。それでもトラックシーズン、市村が好調を維持し、エースの石原も関東インカレ1万mで2位になるなど個では好調だった。

 最初の誤算は、ルーキーたちの出遅れだった。優秀な選手が入学してきたが、故障している選手が多く、チーム練習に参加することができずにいた。

 また、チーム戦力を向上させるためには、3、4年生ら中間層の底上げが急務だったが、なかなか思うように進まなかった。

 その要因のひとつに、チームスタイルの変化が挙げられる。

 これまで東海大といえば「スピード」だった。スピードを強化することでロングにもその力を活かして、結果を出してきた。だが、スピード強化を図り、20キロにも対応するチームの強化方針は黄金世代や3本柱らタレント揃いの世代がいたからこそのもので、彼らが卒業していった今シーズン、強くするためには距離型に転換していかざるをえなくなった。

 ここで歪みが生じた。

「スピード強化をして、勝てていたのはタレント揃いのところが正直ありました。ただ、それは長続きしないだろうなっていうのは思っていました。強化という点で、東海はこうだっていうのを作っていかないといけないので、スピードから距離を踏む方向に取り組みを変えてきたのですが、それに対応できない上級生と対応している下級生でちょっと差が出てしまった。その取り組みが箱根に向けて定着できなかったことが大きかったと思います」

 本間敬大キャプテンら今の4年生は、黄金世代と3本柱が融合し、初優勝した姿を見てきた世代だ。先輩たちが強くなっていくプロセスを理解し、だからこそ自分たちもという思いが強かった。それゆえ、上の世代との力の差を感じながらもチームの方向転換になかなか納得できなかったのだろう。スピードを主体にしてチーム作りをしてきたにもかかわらず、それを放棄するのは、それまでの先輩や彼らがやってきた取り組みを否定することにもなりかねないからだ。

 駅伝にフォーカスすれば、大エース石原の戦線離脱が非常に大きかった。それは、他校でいえば駒澤大の田澤廉(3年)や青学大の近藤幸太郎(3年)が抜けるようなもので、チームの軸を失ったことで駅伝戦略について大幅な見直しを余儀なくされた。

「全学年を通して石原頼みみたいなところがあって、彼が戻ってこられない時にチームとして、どう戦うんだろうかっていうムードが出てしまった。エースがいなくて、松崎がその役を担ったわけですが、その負担が大きかったですね」(両角監督)

 もし、石原が2区にいれば......1区の市村が好走しただけに違う展開になっていたはずだ。それだけエースの存在は大きいということだが、個々の選手に目を配れば、光明もあった。

 5区の吉田は1年生ながら区間3位(70分44秒)というすばらしい走りで復路を駆ける選手に勢いをもたらした。両角監督も「70分はきれるかなと思っていたんですけど、それくらい山の適性を持っています。このままうまく強化していくと、これからが楽しみですね」とその実力を認めている。また7区を駆けたルーキーの越陽汰(1年)も区間3位(63分09秒)と堂々とした走りを見せた。夏の終わりまで故障が長引き、出雲駅伝、全日本大学駅伝には絡めなかったが実力はピカイチゆえにようやくその片鱗を見せ、来年への期待が膨らんだ。

 チームには、今後が楽しみな1年生が多数おり、今回は箱根を走れなかった喜早駿介、佐伯陽生、溝口仁、松尾昂来ら2年生も力を持っている選手が多い。次回の箱根ではシード権はもちろん、上位を狙えるぐらいには選手は揃っている。

「復路で多少盛り返すことができた。底力はあると思いますので、再起といいますか捲土重来を目指して頑張ります」

 両角監督は、悔しさを噛みしめながらそう言った。

 来シーズン、東海大は全日本大学駅伝、箱根駅伝ともに予選会を戦うことになる。

 エースの石原はすでにランニングを始めており、いずれ戻ってくるだろう。だが、チームに距離型の取り組みを本当に定着させていくのか。両角監督自身は「スピード重視の駅伝をしたい」と考えているようだが、その理想を捨てて現実路線に舵を切り、割りきった指導をしていくのか。

 来季は、東海大の「これから」を左右する極めて重要なシーズンになる。