今春のセンバツでベスト4に進出し23年間チームを率いてきた永田裕治監督から、大角健二監督の新体制となった報徳学園(兵庫)。センバツ後初の公式戦となる春季県大会を迎えた22日、初戦の相手は最速146キロのストレートを持つエース翁田大勢を擁する…

今春のセンバツでベスト4に進出し23年間チームを率いてきた永田裕治監督から、大角健二監督の新体制となった報徳学園(兵庫)。センバツ後初の公式戦となる春季県大会を迎えた22日、初戦の相手は最速146キロのストレートを持つエース翁田大勢を擁する西脇工だった。

■永田監督勇退で託されたバトン 新指揮官が考える“報徳野球”とは

 今春のセンバツでベスト4に進出し23年間チームを率いてきた永田裕治監督から、大角健二監督の新体制となった報徳学園(兵庫)。センバツ後初の公式戦となる春季県大会を迎えた22日、初戦の相手は最速146キロのストレートを持つエース翁田大勢を擁する西脇工だった。初回に1死一、三塁の好機を作りながら無得点に終わったものの、3回に篠原の2点適時打などで3点を先制した。その後、5回に1点、7回に2点を加点するなど最後まで相手に流れを渡さず7-1で初戦突破した。だが、試合後の報徳学園のベンチでは大角新監督の怒号が響き渡った。

「出来ることをきっちりやるのが報徳の野球。なのに、ずっと試合に出ている選手が最後に足を引っ張っていました。経験のある選手がそんなことをしているようでは……」。試合後の囲み取材で、初采配した試合を振り返るなり新監督の表情が曇った。

 7-1とリードして迎えた9回の表の守備で、6番・岸本凌太の左方向の強い当たりをサードの池上颯がはじいた。だが、ベースカバーに入るはずのショートの小園海斗の消極的な動きが指揮官の目に留まった。試合後、ベンチを引き上げようとした時に、勝利の余韻に浸ることもなく指揮官は容赦なく辛らつな言葉を小園に投げつけた。以前から熱血かつ厳しい指導で選手たちを鼓舞してきた大角監督だからこそ、いても立ってもいられない場面だった。

■自身も報徳学園で甲子園出場、一時は消防士を目指すも再び高校野球の道へ

 監督交代を正式に告げられたのは今年の1月中旬。永田前監督から「話がある」と呼び出され、春以降に自分に監督のバトンを託されることを知った。

 状況を飲み込むのに少々の時間を要したが、部長として4年間、永田監督とタッグを組んでベンチで選手を見つめてきた経験がある。ベンチ入りした13年から「気がついたことがあればどんどん指示をしてくれたらいい」と言われていたこともあり、当時から何かがあれば助言をしていたため「監督になったからといって、特にどうこうというのはなかったです」と、監督として迎えたこの日も試合は普段通りの心構えで臨めたという。

 報徳学園時代は4季連続で甲子園を経験し、3年時は主将を務めた。立命館大では1年からリーグ戦に出場しプロも目指したが、3年時にケガのため現役続行を断念した。大学卒業後は消防士を目指して猛勉強をしようとしたが、「母校の練習を手伝って欲しい」と恩師でもある永田監督に声を掛けられた。野球人生の後半はケガで思うようにプレーが出来なかったため、野球に関わらないでいようと腹をくくっていた矢先の出来事だった。

 悩みに悩んだが、恩師の言葉を受け入れ現在の道に。コーチ就任当時は事務職員だったが、母校を指導しながら通信課程で教員免許を取得し、社会科の教師としても教壇に立つ。

■永田前監督からかけられた言葉、大角監督が考える“報徳野球”

 永田前監督からは「好きなようにやればいい」と言われていた。前監督は普段の練習ではちょくちょく顔を出すことはあるが、練習には一切関与しない。助言を受けることもないが、だからと言って練習スタイルを大きく変えたところもない。報徳学園は部活も含めた完全下校時間が夜8時半と決まっているため、練習時間を長くすることは出来ないが「(バットを)振る時間は前より長くなったと思います」と指揮官。この日の試合では2番だった永山裕真を1番に、不動の1番の小園を3番に置くなど打順を変え、“テコ入れ”もうまく機能した。

 かねてから課題だった打撃力アップに重きを置きつつ、「最後の最後の守備のカバーも含めて、勝ちにこだわるプレーを貫かないと」と守備などの細かいプレーにも徹底的にこだわる。それが伝統校のプライドでもあり、大角監督の“報徳野球”でもある。

 試合後は選手同士できっちりミーティングを行い、課題を話し合った。「このままでは夏に勝てるチームではないですね。夏は厳しいだけでなく負けられない試合ばかり。夏は(エースの)西垣だけでは勝てないので、他の投手も経験させながら投手層を厚くしていけたら」と指揮官は前を向く。

 この日は永田前監督もスタンドで教え子たちの勇姿を見つめた。「みんな、自信を持って戦っていましたね。(センバツでの経験が)大きかったんでしょう」と、大角監督の初陣の勝利に賛辞を送りつつ「このまま春を勝ち抜いて(近畿大会で)大阪のチームと試合をして欲しい(開催地の大阪から3校が出場するため)。強いチームと試合をして、何かを掴んでくれたら」とエールを送った。新体制の古豪が、センバツの経験を糧にまずは幸先の良いスタートを切った。伝統にさらなる伝統を重ね、夏の頂へ進んでいく。

沢井史●文 text by Fumi Sawai