京産大との準決勝、途中出場した帝京大主将・細木康太郎 ここまで苦しむとは。関西王者・京産大の「ひたむきなラグビー」に圧されながらも、帝京大が13点差をひっくり返し、4季ぶりの決勝進出を果たした。そこに底力と修正能力が垣間見えた。 新年2日の…



京産大との準決勝、途中出場した帝京大主将・細木康太郎

 ここまで苦しむとは。関西王者・京産大の「ひたむきなラグビー」に圧されながらも、帝京大が13点差をひっくり返し、4季ぶりの決勝進出を果たした。そこに底力と修正能力が垣間見えた。

 新年2日の晴天下の国立競技場。ラグビーの全国大学選手権準決勝。帝京大はラスト2分、やっとの思いで決勝トライを奪った。37-30の逆転勝ち。試合終了のホイッスルが鳴ると、安ど感からだろう、主将のプロップ(PR)細木康太郎は背を芝につけてゴロリと寝転んだ。

 直後のピッチ脇でのインタビュー。細木は「ほんと......、80分間、苦しいゲームでした」と漏らした。荒い息遣い。

「自分たちの強みである、フィジカル、コンタクトの部分で、少し受け身になってしまったところがあって......。でも、ゲーム中に修正して、原点に立ち返ることができた。勝つことによって、メンバー全員、いやメンバー外の選手も自信を持って次に臨めるゲームになりました」

 FW(フォワード)勝負だった。力と力、技と技、互いの意地とプライドがぶつかった。とくにスクラムだった。10点ビハインドの後半20分、背番号18の細木が、同じ4年の奥野翔太に代わって途中出場した。敵陣ゴール前のマイボールのスクラムの場面だった。

 細木は昨年11月の明大戦で足を痛めて途中退場、その試合以来の復帰戦となった。殊の外、スクラムにプライドを持つ主将は、周りの選手からこういった声をもらった。

「スクラム、押せるぞ!」
「いけるぞ!」
「ペナルティー、とってくれ!」

 細木の述懐。

「みんなの顔だったり、掛け声だったり、ここが勝負だといった感じだった。何ひとつ、負ける気のしない空気感で。"ヨシッ、押して、ペナルティーをとろう"となった。声を掛けられて、僕のなかで一段階、ギアが上がって、スクラムに集中できました」

 対する京産大のスクラムは伝統として、組む際、帝京大など多くのチームとは違い、右プロップ(3番)の左腕がフッカーの右腕の上でパックする変則タイプ。これに対抗するためには、よりフロントローが結束して、右プロップがしっかりと組み込んで前に出ることがカギとなる。

 もちろん、帝京大はその京産大スタイルを分析済みだった。細木の交代直後のスクラム。ヒットして主将が前に出る。相手を押し崩す格好となり、いきなりコラプシング(故意に崩す行為)の反則を奪った。

 スクラムを選択し、またガチッと組み込む。組み直し。立て続けにコラプシングの反則を奪う。またまたスクラムを選択。右の細木サイドが前に出たところで、SH(スクラムハーフ)の李錦寿が右サイドに持ち出して、左中間に飛び込んだ。これはもう、スクラムがもたらしたトライだった。

 ゴールも決まり、3点差に追い上げた。もうイケイケだった。細木が入ったことで、SO(スタンドオフ)の高本幹也は戦い方を少し、変えた。こう、打ち明ける。

「スクラムを中心に相手を崩していこうとプランを変えました」

 その後もスクラムとなれば、押して反則をもらった。後半32分。同点PG(ペナルティーゴール)が決まる。その後、相手のシンビン(10分間の一時的退場)をもらい、ラスト2分、WTB(ウイング)ミティエリ・ツイナカウヴァドラが右隅に飛び込んだ。

 苦しんで、苦しんでの勝利。泥臭い猛練習に裏打ちされた京産大の気概もあっただろうが、帝京大は2トライを先取したことで、どこかに気の緩みが出たのかもしれない。前半は、"らしく"ない展開だった。

 だが、後半、帝京大は原点に戻った。ひるまず、たゆまず、迷いなく。1年間積み上げてきたフィジカル、コンタクト力、フィットネスには自信がある。そこで真っ向勝負。タックル、タックル、またタックル。加えて、ラグビーナレッジ(理解力)も高い。

 いわば修正能力だ。ディフェンスの際の立ち位置を微妙に変えるオフサイドケアなど、規律にも細心の注意を払うようにした。前半9つ(相手は6つ)犯した反則が後半はゼロ(相手13)だった。

 岩出雅之監督は、「昭和的ですけど」と苦笑いを浮かべた。「後半は、学生に魂が入ったんじゃないかと思います」

 かつて大学選手権9連覇を遂げた常勝軍団も、ここ3年間、大学日本一から遠ざかっている。うちベスト4が2回ながらも、新聞には<低迷>という文字が躍った。

 記者会見。岩出監督はメディアを見ながら少し笑う。

「決勝に出られなくて、低迷とか言われて。ま、そう言うのは、みなさんのほうなので」

 スポーツ紙の記者から、「9連覇のチームと比べて?」と聞かれると、岩出監督はぼそっと漏らした。

「そう、比べなくてもいいのかな、と」
 
 もちろん、学生チームは毎年、新たな布陣で大学日本一を目指して日々、努力している。監督の口癖が『本気・根気・元気』。会見ではこう、言った。学生への信頼感がにじむ。

「後半は、根気強く、前半の分を取り戻すプレーをやってくれたんじゃないでしょうか。何とか勝たせていただいて、学生たちがもう一歩、タフになったんじゃないかと思います」

 さあ決勝だ。相手は、4季前と同じく明大となった。先の対抗戦の対戦では14-7で勝った。ただ、後半は防戦一方だった。

 意気込みを聞かれると、細木主将はこう、言葉に力を込めた。

「明治大学さんだからといって、僕らが変わることはなくて、帝京大学としてのプライドを持って、1年間積み上げてきたものをゲームにすべて出すだけです」

 ひな壇の隣に座る岩出監督はこうだ。

「そのとおりです」

 記者からどっと笑いが起きた。63歳の名将はこう、続けた。

「プレーの芯の部分をしっかりするのが大事だと思います。学生たちにはまだまだ未来があるので、自分たちの成長を実感できるようなゲームにしたいなと思います」

 そういえば、帝京大OBの日本代表SH、流大がこう、ツイートしている。

<このクロスゲームを経験した帝京はまた一段と強くなったと思う!京産のプレーは本当に感動しました>

 同感である。あとひとつ。細木のキャプテンシーを軸とした最上級生の結束力が、帝京大を4季ぶりの大学日本一に押し上げていく。