キャプテン田村優に声をかける横浜キヤノンイーグルス・沢木敬介監督 ラグビーの国内新リーグ、「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE(ジャパンラグビーリーグワン)」が7日に開幕する。ディビジョン1には12チームが属し、ふたつのカンファレ…



キャプテン田村優に声をかける横浜キヤノンイーグルス・沢木敬介監督

 ラグビーの国内新リーグ、「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE(ジャパンラグビーリーグワン)」が7日に開幕する。ディビジョン1には12チームが属し、ふたつのカンファレンスに分かれてホーム&アウェイの総当たり戦で順位を競い、上位4チームがプレーオフを行なって優勝を決める。横浜キヤノンイーグルスは、カンファンレスAに入り、初代王者を目指して戦うことになる。

 そのチームを指揮するのが、沢木敬介監督である。

 2020年にチームの指揮官に就任し、1年目はコロナ禍の影響により、リーグ戦6試合、プレーオフは準々決勝で敗れ、5位という結果に終わった。2年目、新しいリーグで指揮官は、どんなチーム作りをしていくのだろうか。

【組織への愛情がチーム作りの原点】

「僕は、チーム作りで大切なのは、組織に対する愛情だと思います」

 沢木監督は、そう語る。

 サントリーで現役を引退後、2012年からサントリーでヘッドコーチ、14年には日本代表のコーチングコーディネーターを務め、2015年W杯の南アフリカ戦、史上最大のアップセットの実現をサポートした。その後、サントリーサンゴリアスの監督、サンウルブズのコーチを経て、キヤノンイーグルスの監督になった。さまざまな経験とノウハウを持つ指揮官の言葉は、シンプルだが深い。

「チームメイトがお互いを知り、知る努力をする。チームとして何かを始める時は、そこからじゃないですか。相手のことを知れば、情がわき、それが積み重なっていくと組織への愛情が生まれてくると思うんです。ただ、僕は選手だけではなく、チームに関わるスタッフなど全員がチームに対する愛情を持っていないといけないと思っています」

 愛情を持つには相手の考え方など理解し、チームのカラーや方向性を作り、全員が協力し合うことが必要になる。それらを確立するために沢木監督は、あるプランを導入した。

「昨年からブランドリーダーというのを作っています。外国人選手を含めて5名ほど選出しているんですが、何をやるのかというと、これまでイーグルスは、どういうチームなのか、どういう文化があるのか、統一感を持ってやっていなかったんです。そこで彼らが中心になって選手ミーティングをして、イーグルスの新しいブランドを作ろうと意見を出し合っています」

 ブランドリーダーたちは、たとえば合宿の際は、頻繁にミーティングを開き、アイデアを出し合った。もちろん、今も継続して進行している。ただ、沢木監督は、新しく生み出すだけではなく、チームには企業風土も重要だと考えている。

「新しいブランドを作るうえで、企業風土は大事です。キヤノンの企業理念に『共生』があります。それを堅苦しく考える必要はなくて、たとえば僕らがいい試合をして、ファンと喜びを分かち合うのも共生だと思うんです。そういう部分を根っこに持っていくことで、自分たちらしいブランドができるのかなと思います」

【体力テストで選手の性格も把握】

 沢木監督のシンプルな思考は、選手を理解し、把握するための方法論にも及ぶ。最初に選手に課したのは、簡単な体力テストだった。

「一番最初の練習の前に、選手全員に『これをやります』と体力テストのターゲット(目標値)を送っておいたんです。いい準備をしてくる選手はターゲットをきってくるし、何も考えないで練習にくる選手はタイムがきれないんですよ。そこで見たかったのは、ひとつの練習として手を抜かず、真剣に臨んでくる選手が何人ぐらいいるのか。また、強いチームを倒すためには、フィジカルが必要なので、実際に体力的にタフな選手がどのくらいいるのか、ということです」

 選手を見極めると、次はキャプテンを選び、スタンドオフの田村優を指名した。

「キャプテンに必要なのは、まずパフォーマンスです。プレーでチームを引っ張るのがリーダーですから試合に出て、チームを牽引し、勢いを与えられる存在でないといけない。田村は、あまり感情を出さないですけど、そういう選手です」

 日本代表のスタンドオフでもあり、プレー面でも精神的支柱としてもチームの軸になれる存在だ。ちなみに田村は、今シーズンもキャプテンになっている。

【目指すラグビーとは?】

 
 チームは、昨年の夏頃から始動し、夏合宿などを経て、チーム作りを進めてきた。沢木監督はキヤノンのスタイルとして、スピード感を活かした攻撃的なラグビーを標榜している。

「ボールが動かない守備ばっかりのラグビーを見ていても面白くないと思うんです。チームのスタイルをファンが支持してくれることでチームはできていくと思うんですよ。ではどういうラグビーが支持されるのかというと攻撃的なラグビーだと思うんです。ボールを動かしながら前進することをベースにしたラグビーをやっていきたいですね」

 昨年は、コロナの影響で試合数はリーグ戦わずか6試合、プレーオフ2試合で終わった。そのなかで目指すスタイルは、完成の域には届かなかった。

「1年で、劇的な変化を求めるのは難しい。これまでの習慣ややり方を変えるには実戦と時間が必要です。ただ、手応えも感じています。自分たちのスタイルをやりきろうという思いが芽生えてきました。それを維持させるためには選手にちょっとした成功が必要になります。それが昨年、ひとつ勝っていくごとに確かなものになっていった感じがあります」

【地域密着の取り組みも】

 結果を出すために、沢木監督の日々の生活はラグビー漬けだ。土日が試合だとすると、その10日前には相手チームの分析を終えて、練習に落としこんで試合の準備をする。もちろん映像で分析し、データも見る。息抜きに近所のジムに行くが、バイクをこぎながらもラグビーの試合を見ている。24時間、ラグビーから離れられないのだ。

「違うことをしながらラグビーのことを考えるだけでリフレッシュになるんですよ(笑)」

 もしかすると指揮官が選手やスタッフよりも一番、ラグビーとチームに愛情を感じているのかもしれない。

そういう指揮官に率いられたチームが新リーグでの戦いに臨む。

 2015年W杯で南アフリカを撃破し、ラグビー熱が高まったが、その勢いを国内リーグに活かせなかった。だが、2019年日本で開催されたW杯で再び、人気が着火し、今やラグビーは日常に定着しつつある。そこからさらにラグビーを日本のスポーツに根づかせるためにリーグワンの理念でもある地域密着を進め、ファンを獲得していく取り組みなどが求められる。

「これからはただ試合を見せるだけではなく、いかにファンを獲得していくのかを常に考えていかないといけない。たとえば、欧州などのラグビーには面白いローカルルールがあるんです。前の週のMVPがピンクのパンツを履くんです。その選手がトライしたらファンはお菓子をもらえるし、5分間だけピンクのボールが出てきて、それをトライするとサポーターはビールが無料になるんです。だから、めちゃくちゃ盛り上がるんですよ(笑)。日本の試合でやるのは難しいけど、試合前とかハーフタイムとかに、そういう遊び心のある演出というか、ゲームがあるといいですね」

 遊び心のある演出やイベントは、今や試合には欠かせないものになりつつある。Jリーグの川崎フロンターレは、前例のないイベントやハーフタイムショーでファンを楽しませている。イーグルスもそういうノウハウを得て試合前、試合後も楽しめる環境作りをしていく努力が必要だろう。

 ただ、その前にチームが勝たないとファンは盛り上がらない。今シーズン、横浜キヤノンイーグルスの目標はどこに設定しているのだろうか。

「まずはトップ4の壁を崩すこと。それが現実的なうちの目標です」

 沢木監督の狙いはチーム作り同様にシンプルで、ビッグマウスは必要ないのだ。