2021年12月に行なわれた最終予選会に出場し、今季米女子ツアーの出場権を獲得した渋野日向子。いよいよ戦いの舞台を"世界"に移す渋野の可能性について、村口史子プロに話を聞いた――。今季から米ツアーに挑む渋野日向子 202…

2021年12月に行なわれた最終予選会に出場し、今季米女子ツアーの出場権を獲得した渋野日向子。いよいよ戦いの舞台を"世界"に移す渋野の可能性について、村口史子プロに話を聞いた――。



今季から米ツアーに挑む渋野日向子

 2021年の師走、渋野日向子選手は米女子ツアー2022年シーズンの出場権をかけた最終予選会(Qシリーズ)に参戦。見事にツアーカードを手にして、今季はアメリカを主戦場として戦うことになりました。

 計8日間144ホールにわたる長丁場の最終予選会では、1週目の第1ラウンドで2オーバー、81位タイと出遅れ。2週目の第3ラウンドでは、その日だけで7オーバーの大叩き。ファンの方々は気が気でなかったのではないでしょうか。

 それでも、最終ラウンドで復調し、最終的に20位という結果を残して予選会を突破。「よく耐えたな」というのが、率直な感想です。

 最終日の彼女のプレーからは、何が何でも米ツアーの出場権を手にするんだ、という強い気持ちが伝わってきました。心が折れそうになっても、その気持ちだけは失うことなく、目の前の一打に集中していたと思います。

 こうして、渋野選手が最後に"らしさ"を貫くことができたのは、一昨年から取り組んできたスイング改造が今、ようやく"馴染んできた"からではないでしょうか。よく振れていますし、自分の武器になりつつありますからね。実際、日本ツアーでは2年ぶりの優勝を果たしました。

 ただ、振り返ってみれば、2021年も渋野選手にとっては試行錯誤の一年だったように思います。ドライバーをはじめとするショットに関しては、飛距離よりも正確性を重視したスイングへの改造に取り組み、ショートゲームに関してもアプローチのバリエーションを増やす努力をしていましたが、シーズン当初はなかなか結果が出ませんでしたからね。

 とりわけアプローチに関しては、高さを出す打ち方にもチャレンジ。そうした技術が求められていない状況でも、あえてその打ち方を試して、失敗するようなシーンが何度か見られました。

 また、パッティングに関しても、自信を失っている時期があったように思います。渋野選手らしい思いきりのよさが見られず、それがそのまま結果につながっている試合もありました。

 とはいえ、それもワンランクアップするための過程のひとつだったと言えます。

 プロゴルファーというのは誰もが、常に上を目指して、新たなことにチャレンジしていきます。そうすると、ひとつの課題をクリアすると、また次の課題が生まれる。それで、うまくいかなくて、自分のゴルフが崩れてしまうこともあります。でも、そういうことを繰り返しながら、少しずつ、一歩ずつ、上達していきます。

 そこでは、自分がどこを目指しているのか、しっかり把握しておくことが大事ですが、渋野選手はそれができる選手。今回のスイング改造においても強い意志を持っていて、自分が定めた目標に向かって突き進めるタイプ。そしてその成果の一端が、日本ツアーの終盤戦、今回の最終予選の結果に表われたと言えるのではないでしょうか。

 先にも触れたように、スイング改造が順調に進んでいるなか、10月にはスタンレーレディス、樋口久子 三菱電機レディスと2勝。いずれもプレーオフの末の勝利で、凡人とは異なる勝ち方でした。それには、いやはや「やっぱり"もっている"選手だなあ」という感想しか抱けませんでした。

 特に三菱電機レディスでは、2打差で迎えた最終ホールで奇跡的に追いついて、プレーオフ1ホール目のセカンドショットが圧巻でした。3Wを振り抜いて、ピン3mに寄せた一打は渋野選手の魅力が存分に詰まっていました。

 JLPGA2020-2021シーズンのメディア賞『ベストショット』部門に輝いた一打でしたが、どうしてあの位置にボールが止まったのか、なぜ"ここしかない"という真っ直ぐなラインにつけられたのか、プロが見ても不思議に思うショットでした。

"ここぞ"という場面で、意を決したら躊躇せずに打つ。その一打にかける集中力がとにかくすごい。勝負勘が冴え、決して逃げない。そういう姿勢が、渋野選手の最大の武器。新たなスイングがフィットし出して、その武器も再び輝き出したように思います。

 2019年、日本人選手として樋口久子さん以来となる、海外メジャータイトルの全英女子オープンを優勝。その時は、渋野選手は米ツアーで戦う権利を得ながら、それを放棄しました。

 しかしその後、米ツアーでもスポット参戦するなかで、自分よりもうまい選手、世界中のすばらしい選手たちを目の当たりにし、「アメリカに行きたい」と思うようになった。彼女の向上心、上昇志向が、こうした決断を促したのだと思います。

 そして、いよいよ今季はアメリカが主戦場となります。カギを握るのは、やはりアプローチでしょう。昨年は4月から6月にかけて長期の海外遠征を敢行しましたが、そこで苦しんでいたのも、アプローチでしたから。

 米ツアーを経験している上田桃子選手や申ジエ選手、テレサ・ルー選手などは皆、ロブショットがうまいですよね。つまり、高く、ふわりと上げるアプローチが米ツアーで戦ううえでは求められるわけです。

 ゆえに、彼女たちは手首やヒジを柔らかく使えています。一方で、渋野選手はややヒジをロックした状態でアプローチを打ちます。個人的には、もう少し手首やヒジを柔らかく使って打てるようになれば、さらによくなるんじゃないかなと思っています。

 ともあれ、アメリカでは練習場でも芝の上から打てますし、彼女の向上心があれば、問題ないでしょう。練習すればするほど、うまくなるだろうし、アメリカで通用するアプローチも体得していけると信じています。

 また、舞台がアメリカとなれば、時差もあるし、西海岸と東海岸では芝の違いもあります。長時間の移動や食事、言葉の問題もあります。ただ、そういったことも、彼女なら対応できると思っています。

 英語が話せなくても、あの笑顔できっと、どんな選手ともうまくコミュニケーションをとってしまうのではないでしょうか。ラウンド中、同組の選手たちに日本のお菓子を配ったりするシーンがすぐに見られたりして。そうして、海外の選手に日本語を覚えさせてしまうぐらい、いつの間にか親しまれている存在になっているような気がします。

 海外の選手たちは、メジャー大会ともなれば重たい雰囲気を醸し出していて、コース上でラウンドリポーターを務める私とすれ違ったりすると、戦闘モード全開で近づけないオーラをバンバン出している選手もいたりします(苦笑)。

 その点、渋野選手はとても前向きに、楽しんでプレーしていて、その場にいて応援したくなる選手。だから、海外のゴルフファンからも愛されます。

 結果、多くのギャラリーが彼女に声援を送り、彼女もその応援が後押しとなって気分が乗って、いいプレーを見せます。そうやって、彼女らしいゴルフを続けていけば、自ずと結果がついてくるのではないでしょうか。