インタビューでパリ五輪挑戦を明言「私の集大成にしようと決めています」 12月8日、東京五輪女子1万メートル代表の新谷仁美はスポーツブランド、アディダスとのパートナーシップ契約に基本合意したことを発表。「最大の目標であるパリの舞台を目指すうえ…

インタビューでパリ五輪挑戦を明言「私の集大成にしようと決めています」

 12月8日、東京五輪女子1万メートル代表の新谷仁美はスポーツブランド、アディダスとのパートナーシップ契約に基本合意したことを発表。「最大の目標であるパリの舞台を目指すうえで、心強いパートナーができたことは非常にうれしい」と、明確に「パリ五輪」を目標に掲げた。

「アディダスとともに達成する、最大の目標がパリ五輪。もちろん、その過程には世界大会のタイトルという目標もありますが、パリ五輪を私の集大成にしよう、と決めています。所属先のチームから駅伝のオファーがあれば競技を続行するかもしれませんが、個人としての、プロとしての陸上人生はパリで終わりかな」

 パリまでに、もう一つ達成したいと目論むことがある。5000メートル、1万メートル、ハーフ、マラソンの4種目日本記録の樹立だ。

 新谷は2014年に一度引退し、4年間会社員として働いた後、2018年、陸上界に復帰。復帰後、わずか2年の間に、1万メートル、ハーフマラソン(混合)で日本記録を樹立。ハーフマラソンの1時間6分38秒という記録は、日本記録を実に14年ぶりに塗り替えた。

「私は1時間、2時間以上、ずっと走っている、というのが単純にイヤで、マラソンとかハーフとか、距離が長くなれば長くなるほど、私はすごく抵抗感があった。せっかちで神経質だから、30分が限界。ドラマだって長時間観ていられないのに、1時間以上走るなんて無理だよ、走りたくないと思っていたんです。それが、コーチと初めてヒューストンハーフマラソンにチャレンジしたとき、抵抗感が薄らぎました」

 1万メートル、5000メートルばかり走る自分にとって、ハーフは「リラックスしてできる競技だった」と話す。復帰以来、新谷は挑戦を続ける。ハーフマラソンは、コーチから提案された新たなチャレンジだった。

「1万mやハーフで日本記録を出してもビジネスにはならない」

「何よりゴール後が楽だった。脚は疲れているのですが、こんなにもハァハァしなくて(息切れなく)走れるの!? と驚きました。私はペース配分をまったくしない人間なので、1万メートルや5000メートルのレースも、最初から全力で走っちゃうんです。レース時に時計をつけていないのも、それが理由です。

 私、スタート前はいつもすっごく緊張して、もう泣きそうになるんですが、どうしてそこまで追い込まれるかと言うと全力で走るから。30分間、全力で走るって、表現のしようがないほどの恐怖なんです。しかもトラック競技はタイムが正確に出るので、結果が丸わかりだし、みんなに走る姿を見られているし、当然結果も出さなきゃいけない。何もかも、イヤでイヤで仕方がないというプレッシャーのなかスタートするので、恐怖心しかありません。

 一方、1時間以上走るハーフやマラソンは、なるべく力を温存しなければならない競技。スタート時から怖がっていたらそれだけで疲れて長時間走れないよってコーチに言われ、非常にリラックスして走れた。それが好印象として残ったことがよかった」

「これから4種目で、日本記録、だそうよ」。これが、ヒューストンハーフマラソン後、コーチと新たに決めた目標だった。

「実はそれ以降も、マラソンなんてチャレンジする必要がない。2種目の日本記録を持っていたら十分でしょう? と思っていました。でも、1万メートルやハーフで日本記録を出しても、ビジネスにはならないんです。日本記録でものになるのは、100メートルかマラソンだけ。ならば、専門外の種目も記録を出していかないと、と考えました。

 この話の流れで言うと、『じゃあ、5000メートルで記録出しても意味ないじゃん?』と思われるかもしれませんがそこは、私のモチベーションを上げるため。やっぱり4種目、日本記録を出した人っていないので、達成できれば特別感がある」

「陸上は嫌いだが、走ることは仕事。生きるために必要だから走る」。よく新谷はインタビューのなかで、こう発言している。4種目に対しても、「正直、走りたいか走りたくないかと聞かれれば、走りたくない」。しかし、チャレンジをすることで、自分の商品価値を上げたい、と話す。

今年以降5000mとマラソンに挑戦「一瞬でもいい。4種目日本記録を達成したい」

「私を商品として扱いたい、と考えてくれる企業さんが出始めるなか、やっぱり自分で価値を上げていかないとダメだ、とすごく思いました。単純にサポートしてもらって終わり、ではなく、こちら側がサポートしたい、と思わせる選手になるよう動かなければならない。そうなるとイヤイヤ言っている場合じゃありません。

 私は部活動ではなく、仕事で走っている人間です。好きな洋服を買って、生活を守り、楽しみながら生きていくためには、(ビジネスとして)いろいろと考えながらこの仕事に取り組む必要がある。これは、どんな仕事も同じだと思います。

 2021年はチャンスがあったのですが、私自身が(レースに出場することができず)逃してしまった。2022年以降、5000メートルとマラソンを走る。後に塗り替えられても、一瞬でもいい。4種目日本記録を達成したい」

 勝ってなんぼのプロ世界で、求められる以上の結果を残すべく、チャレンジを続ける。これが仕事人、新谷の生き様だ。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。