中村俊輔 FKインタビュー 後編 (前編:6位~10位はこちら>>)日本随一のFKの名手である中村俊輔選手が、これまで見てきた世界中のサッカー選手のなかから、歴代フリーキッカーのトップ10を選出する。今回は5位~1位を発表。各キッカーに対す…

中村俊輔 FKインタビュー 後編 
(前編:6位~10位はこちら>>)

日本随一のFKの名手である中村俊輔選手が、これまで見てきた世界中のサッカー選手のなかから、歴代フリーキッカーのトップ10を選出する。今回は5位~1位を発表。各キッカーに対する深い解説にも注目だ。

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中村俊輔が

「ザ・フリーキック」と評するベッカムのキック

5位:ロベルト・バッジョ(イタリア/元ユベントス、元ブレシアほか)

 バッジョも典型的な10番タイプの選手です。ブレシア時代に対戦した時は、ベテランでキャプテンをやっていて、アンドレア・カラッチョロという長身FWの周りを動くようにプレーしていました。サッカーをものすごく知っていて「これがイタリアのファンタジスタか」と思い知らされた存在でした。

 全盛期と比べれば肉体的な衰えは多少あったと思いますが、一瞬のイマジネーションとキックは衰えていませんでした。引退したシーズンも12得点も決めていて衝撃的でした。

 バッジョのFKを見て「FKはPKと同じようなものだな」と思いました。彼がボールをセットすると、その纏うオーラだけでもう入りそうな感じがする。イタリアのGKは最高峰のレベルですけど、それを手玉に取るように逆を突いたり、「ここだ!」という時に決めてしまうんです。キッカーとしてという以上に、選手としてちょっと次元が違うと感じました。

 当時は今のように、リーグで使うボールが統一されていなくて、各ホームチームでボールが違う時代でした。だからチームによってボールの縫い目も違えば重さも違うし、なんなら大きさも違ったんじゃないかと思います。

 ピッチがぐちゃぐちゃなところも多かったですし、今のようにバニシングスプレーもなかったので、壁はどんどん近寄ってくる。それを「壁を下げろ」とレフェリーにアピールしたら、こっちが遅延行為でイエローカードをもらったり。

 だから笛が鳴ったらすぐに蹴らなきゃいけないし、キッカーにとっては本当に難しい時代だったと思うんですけど、バッジョはそのなかでもバシバシ決めていました。

 ありがたいことにセルティック時代のマンチェスター・ユナイテッド戦で決めたゴールをよく取り上げてもらいます。ただ、僕のなかではあのセリエA時代に、レッジーナで決めたFKのほうが難しかったし、価値があると思っているんです。2002-03シーズン、ホームのローマ戦で、GKが構えている側のファーサイド上に決めたFK。これが個人的には一番好きなゴールです。

4位:リオネル・メッシ(アルゼンチン/パリ・サンジェルマン)

 メッシは、元々はフリーキッカーではないと思うんです。でも在籍当時、監督だったジュゼップ・グアルディオラに言われたのか、いつの間にかフリーキッカーとして確立してきた、という印象です。

 蹴ったあとに軸足の足首がちゃんと流れていて、そういうセンスは元々ずば抜けたものがあるんだと思います。

 弾道やキックの質にはそこまで驚くものはないけど、シュートも含めてすごくパンチ力がある。実際にペナルティーアークの外くらいの距離では 内転筋の強さを活かして"チョン"と当てる感じで蹴り、多くのFKを決めています。

 普通に蹴っても決められるキックの質を持っていながら、GKが構えていないタイミングで急に蹴ったりする時もあって、その抜け目なさも「10番」だなと思います。そういうゴールは相手の精神的ダメージも大きくて、1点以上の重みがあることをよくわかっている。そうしたところも彼から学ぶところがあります。

3位:デビッド・ベッカム(イングランド/元マンチェスター・ユナイテッドほか)

 ベッカムは子どもの頃からキックがうまくて、フォームが出来上がっていたんだと思います。彼のキックの特徴は、蹴る前の最後の一歩が大股なところです。

 大股で軸足を踏み込むことで、蹴り足のバックスイングを大きく取って、インパクトを強くしている。手も大きく振りかぶって、全身を大きく使っています。普通、あれだけ大きなモーションの蹴り方をすると、インパクトがずれる場合が多いんです。でも小さい頃からたくさん練習して、あの蹴り方が自分のなかで確立されているからずれることがないんだと思います。

 ボールに関しては、カーブの質がとにかく高い。彼が蹴るカーブは、距離が長くなって曲がれば曲がるほど、ボールスピードが上がっていく感覚になります。バックスイングを大きくしてインパクトを強くすると、そういった球質になるんです。

 球質だけでなく、本当に綺麗な曲がり方をします。あの美しさはマネできないです。助走ですごく角度をつけてボールに向かうので、インパクトの時に足がボールの斜め下からグッと入るんですね。それで、ボールに対して足の甲全面を使ってインパクトできるようになる。だから、あれだけ曲がりながら伸びていくボールが蹴ることができるんです。本当に無駄のない"ザ・フリーキック"という感じですよね。

2位:アンドレア・ピルロ(イタリア/元ミラン、ユベントスほか)

 ピルロのFKは、ボールスピードもあり、25mの距離くらいならカーブで狙い、それ以上になると無回転のブレ球で狙う。本当に多彩なキックを持った選手でした。

 ユベントス時代には、まるで風船を蹴るようにインステップのつま先でボールを足に乗せるようにして、無回転ボールを蹴っていたことがありました。あれはちょっとマネできないですね。実は実際にやってみたんですけど、足首を痛めたので諦めました。

 直接決めるだけではなく、味方に合わせるFKでのアシストも多い。ゲームの流れを読みながら蹴ることができるし、蹴る種類も多彩なので、彼のセットプレーで勝つ試合が多かった。そうなると、味方がセットプレーにものすごく執着してくれるようになります。

「あいつが蹴るならいける」「点を決められる!!」と、みんな頑張るんです。そうやってキッカーと合わせる人たちの間でパイプができてくると、相手にとってセットプレーが脅威になる。だからキッカーの質というのは本当に大事なんです。

1位:ジュニーニョ・ペルナンブカーノ(ブラジル/元リヨンほか)

 ジュニーニョ・ペルナンブカーノはFKでの得点数が一人だけ異常で、ちょっとえぐいですよね。3大リーグでも、あのブレ球を見てみたかったです。

 彼の蹴ったボールが、風船みたいに左右にブレながら飛んでいくのを初めて見た時は衝撃的でした。ブレ球は枠を大きく外したり、壁に当ててしまったり、失敗しやすいキックなのに、彼は枠に行く確率もほかの選手とは次元が違いました。あれはそれまでのFKの概念を変えるほどの影響があったと思います。

 彼の最大の特徴は、足首がガニ股のように自然と開くことです。普通はインサイドキックやインフロントキックでFKを蹴ろうとすると、角度をつけた助走から腰を捻って足の内側に当てる形になります。だけどジュニーニョのようにナチュラルに足首が開いている人は、腰を捻らなくてもインステップキックを蹴るように脚の前の筋肉の力をそのまま使って蹴ることができる。だから、すごく強い縦回転のボールが出るんですね。

 助走も真っ直ぐ入って、足の振りも真っ直ぐ。骨盤も前を向きながら足首だけ横に向ければいいだけ。これはそういう身体の特徴を持っていないとできないですね。ジュニーニョでもう一つ特徴的だなと思うのは、FKになった途端の顔つき。まるで獲物を狙うような顔になるんです。キック精度だけではなくて、メンタルの部分もすごいと思います。

 自然と開く足首と、獲物を狙うメンタルの二つの面が自分にはないし、絶対にマネができないというところで、ジュニーニョを1位にしました。
(おわり)

中村俊輔 
なかむら・しゅんすけ/1978年6月24日生まれ。神奈川県横浜市出身。桐光学園高校から97年に横浜マリノス入り。その後レッジーナ(イタリア)、セルティック(スコットランド)、エスパニョール(スペイン)と欧州で活躍し、2010年に横浜F・マリノスに戻ってプレー。17年からジュビロ磐田、19年からは横浜FCでプレーしている。日本代表国際Aマッチ98試合出場24得点。これまで数多くのFKを決めて、観衆を魅了してきた。