箱根駅伝での快走が期待される、東京国際大3年・山谷昌也 今回の箱根駅伝は、過去最大級の嵐が吹き荒れそうだ。 その中心になりそうなのが、東京国際大だ。 前々回の箱根駅伝は5位、前回は10位と2年連続でシード権を獲得。今シーズンの出雲駅伝では初…
箱根駅伝での快走が期待される、東京国際大3年・山谷昌也
今回の箱根駅伝は、過去最大級の嵐が吹き荒れそうだ。
その中心になりそうなのが、東京国際大だ。
前々回の箱根駅伝は5位、前回は10位と2年連続でシード権を獲得。今シーズンの出雲駅伝では初出場初優勝の偉業を3区の丹所健(3年)から独走状態で達成し、東京国際大強しを印象づけた。続く全日本大学駅伝では、箱根駅伝を見すえた区間配置でイェゴン・ヴィンセント(3年)を3区におき、5位に入賞。8区間中2区間で区間賞を獲り、改めて力のあるところを証明した。東京国際大はもはやダークホークではなく、青学大や駒澤大など駅伝強豪校が警戒する実力校に成長している。
東京国際大の今回の箱根駅伝の目標は「往路優勝、総合3位」である。
チームの軸は、大エースのヴィンセント、日本人エースの丹所、山谷昌也(3年)の3人だ。エントリーされた区間配置を見ると、1区山谷、2区ヴィンセント、丹所は補欠だが当日変更で3区に入るだろう。3区までに主導権を握り、4区、5区で逃げきる戦略だが、それが容易に計算できるほど、この3人の爆発力はハンパない。
山谷は今回、初めての箱根になる。
1年時は、エントリーメンバー発表後に右膝を故障し、前回大会の時はエントリ―直前に右足の足底を故障した。
「1年目は、伊藤(達彦)さんや強い先輩方とヴィンセントがいて、自分の実力不足もあって走れなかったというのがあったんですが、2年目は1年間Aチームでやってきて、箱根に向けて自信を持って練習してきました。そういうなかでケガをしてしまい、本当に悔しくて......。自分の希望である1区を丹所が走った悔しさもありました」
3年生となった今シーズン、「絶対に箱根を走る」と誓ってスタートしたが、トラックシーズンは、不調が続き、苦しんだ。
「今シーズンは、とにかくケガに気をつけて練習を継続していくという気持ちで入ったんです。でも、前半は思うような練習ができず、関東インカレもスタートラインに立った時に自信を持てないままレースをしてしまって......本当に苦しい時期が続きました」
調子が上がらず、苦しむ山谷の気持ちを奮い立たせてくれたのが、同学年の丹所だった。
「自分が苦しい時や心が折れかけた時、丹所の活躍が自分のモチベーションになりました。自分が調子を取り戻すことができたのは、丹所のおかげだと思っています」
山谷と丹所は仲間であり、ライバルでもある。山谷は丹所のことを「1年目から大舞台で外さず、安定感がすごい」と評し、丹所は山谷のことを「圧倒的なスピードがある。あの能力があれば自分ももっと上にいける」と言い、お互いを認め合っている。ライバルは自己の成長に欠かせないものだ。このふたりに引っ張られて堀畑佳吾や宗像聖ら他の3年生も力をつけてきた。
山谷が復調のきっかけをつかんだのは、夏合宿だった。
当初は、Aチームでの参加だったが、練習についていけず、大志田秀次監督にBチームの合宿参加を直訴した。メニューを含め設定タイムがAチームとは異なるが、集団で決められたペースでやりぬくことを目的にした練習のなかで、徐々に調子を取り戻していったのである。
出雲、全日本とふたつの駅伝を駆け、いよいよ箱根に臨むことになる。
箱根では1区を熱望し、その思いが大志田監督に通じたのか、1区に配置された。1区は、スピードランナーが揃う激戦区で、駅伝の流れを作る非常に重要な区間だ。それゆえ、各チームは唐澤拓海(駒澤大)、吉居大和(中大)らエース級の選手を配置している。
「1区は、一昨年のようにハイペースになるのか、昨年のようにスローペースになるのかわからないですけど、大事なことは集団のなかで落ち着いて流れに乗って走り、六郷橋まで我慢してラスト、自分の持ち味であるスピードが出せれば区間上位を狙っていけると思います」
山谷がトップあるいは、トップと僅差で入ってくれば2区のヴィンセントでトップに立てる。そこで後続を引き離して、3区の丹所につなぐ。他チームの展開にもよるが、出雲の時のように丹所でさらに差を広げられれば、東京国際大にとって理想的な展開になる。
そういう意味では2区でトップに立ったあとの丹所の仕事が極めて重要になる。「練習が継続的にできているので、非常に成長した」と大志田監督は語るが、今シーズンの丹所はエースらしい結果を残してきた。5000m、1万mともに自己ベストを更新し、全カレ5000m3位、出雲3区2位で優勝に貢献し、全日本6区区間新で区間賞を獲得、東国大に「丹所あり」というところを見せた。
「今シーズンは、ここまで90点をあげてもいいかなと思います。春から順調に結果を出してきて、あまり失敗せずに試合に臨めているのが大きいですね。自分はセンスがあるわけじゃないので、継続的に練習をして力を伸ばすタイプ。ケガしないのが大きいかなと思います」
丹所は箱根駅伝に2度出場するなど、過去大学駅伝は5回経験しているが今の自分の成長につながった大会が前回の箱根だと言う。
「前回の箱根は、自信があるなかで臨んだ結果、1区14位という情けない結果に終わってしまって、そこでもっとがんばらないといけないと思えた大会になりました。その悔しさをバネに頑張った結果が今につながってきているんだと思います」
丹所のよさは、淡々と同じペースでタフな走りを実現できるところだが、一番は練習の成果を試合でしっかりと発揮するところだ。100%の力を試合で発揮するのは簡単なことではなく、多くの選手が悩むのだが、丹所は大きなレースはほぼ外さない。
「前回の箱根の時、いい練習ができていたので、自分の力を100%出せれば目標の区間5位は狙えました。でも、14位に終わったので何が足りなかったのかというとピークに合わせることができなかったんです。そこで、今シーズンからは監督やコーチに言われたままの練習をするのではなく、自分の体と相談しながら疲れていると感じたら距離を少なくしたり、考えて練習するようにしました。そのおかげで大事な試合で100%の力を発揮できているんだと思います」
監督にとって、試合で100%を発揮できる選手の存在ほど心強いことはない。
丹所は駅伝を戦ううえで戦略的核になる存在だが、出雲が終わったあと、足底を痛めて2週間ほど休足の時間を過ごした。大志田監督は肝を冷やしたはずだが、バイクやプールで心肺機能を落とさずに練習した結果、逆に疲労がとれたのか、全日本で区間新を出す好走を見せた。
そして、今回、3度目となる箱根は補欠登録だが、当日のメンバー変更で3区を走ることが予想される。
「2区のヴィンセントがトップで来ると思うので、自分で決めたペースを守って、日本人最高記録を目指して、チームを勢いづけられる走りができればと思っています」
丹所は、いつもどおり淡々とマイペースで刻み、後続との差を広げていくだろう。
ヴィセントという大エースをはさむ丹所と山谷の走りが、東京国際大の命運を握ることになる。ここでトップに立ち、キープできれば後続の選手も「いける」と自信を持って走れるだろう。昨年の創価大は、往路優勝を果たしたあと、多くが「復路は落ちる」と予想した。だが、その予想に反して、復路も一気に駆け抜けた。駅伝は「流れ」というが、それを体現したのが前回の創価大だった。東京国際大も1区山谷、2区ヴィンセント、3区丹所で完璧な流れを作ることができれば、往路優勝、総合3位はもちろん、それ以上の結果が見えてきそうだ。