箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、東京国際大学・大志田秀次監督が語る出雲での快挙 毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜くのか――…

箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、東京国際大学・大志田秀次監督が語る出雲での快挙

 毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜くのか――。「THE ANSWER」では、強豪校に挑む「ダークホース校」の監督に注目。2020年の箱根駅伝で総合5位と躍進した東京国際大学の勢いが止まらない。伝統校を脅かす存在となるなか、駅伝部の大志田秀次監督に今年10月の出雲駅伝で初出場初優勝の快挙を達成した要因や、充実の一途を辿るチームの状況について聞いた。(取材・文=佐藤 俊)

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 東京国際大が大きく注目されるようになったのは、伊藤達彦(現Honda)が表舞台に飛び出してきてからだろう。当時、学生ランナーのトップに君臨していた東洋大の相澤晃(現旭化成)を追う存在として頭角を現し、2年前の箱根駅伝2区における両者の戦いは記憶に残るレースとして今も語り継がれている。「あの時は伊藤のチームでした」と大志田監督は語るが、出雲駅伝で優勝した今季のチームは、伊藤が4年生の時のチームとは少し雰囲気が異なる。

――伊藤選手がいた時と、どういうところで違いを感じますか?

「一人ひとりが持ち味をしっかりと出せるようになってきて、例えば丹所(健/3年)がいなければ山谷(昌也/3年)が『僕が2区を走ります』と言える選手が増えてきているということですね。伊藤の時は、伊藤がダメなら僕が代わりますというのが誰もいなくて、伊藤の走りができるのは伊藤だけでした。そういう意味では、今の3年生の学年はみんなレベルが高いですし、お互いをカバーできるので、チーム全体の力は上がったと思います。ただ、伊藤が持つ大学記録を2人とも破っているのですが、まだ本当の強さにはなっていない。本当の強さというのは、レースや大会での結果ですが、まだ、そこに至っていない。あと1年でどのくらい伸びるか、ですね」

――今の3、4年生は伊藤選手を知る世代ですが、かなり影響を受けていますか?

「今の4年生は入学時、14分50秒ぐらいで入ってきた選手たちです。3年生は入学時、14分30秒前後の選手が多かったのですが、実は伊藤も14分32秒で入学してきました。4年生は伊藤のレベルを現実的に捉えられていませんでしたが、3年生は『伊藤さんがあの記録であそこまで成長したのだから』という視線で見ていますし、憧れが強いです。彼らにとって伊藤は教科書のような存在ですが、今の1年生にとって3年生は伊藤のような存在だと思うんです。1年生は、どうしても楽な方に行きたがるので、3年生を見て勉強してほしいなと思いますね」

合宿で走りをチェック「いろんなところを鍛えないといけないと分かった」

 今年の1年生は、すでに佐藤榛紀が出雲駅伝で2区4位、全日本大学駅伝で1区10位と駅伝デビューを果たし、白井勇佑も出雲駅伝の4区を5位で走り、優勝に貢献した。箱根駅伝のエントリーメンバー16名には白井をはじめ、倉掛響、冨永昌輝ら3名の1年生が入った。

――駅伝デビューを果たした佐藤選手、白井選手など1年生が順調ですね。練習は、どのような感じで進めていったのでしょうか?

「基本的には水曜日がポイント練習、土曜日にレペティショントレーニング、日曜日に距離走をして、あとはフリーです。練習で大事にしているのは、しっかりとポイント練習に動けるように合わせてくるということです。この日の練習に上手く合わせられないと、試合にも合わせることができないという考えなので、そこは選手にいつも伝えています。月曜日と木曜日は朝もフリーなので選手は各自ジョグを入れたり、体幹やったり、休養して体のメンテナンスをしていますね」

――今季、何か新しいトレーニングを導入しましたか?

「今年は合宿で走りをチェックしました。つま先に近いところで走ったり、体幹はもちろん、腕やいろんなところを鍛えないといけないことが分かりました。シューズの進化で早く走れるようになってきていますが、同時に怪我も増えています。そういう部分を鍛えることで怪我を予防したり、軽傷にできたりするんじゃないかなと思って取り組みました」

――夏合宿は、何か変化を取り入れたりしたのでしょうか?

「うちの大学は、夏休みが8月頭から1か月しかないので、集中してやらないといけないんです。そのため前までは走り込みを中心にやっていたのですが、9月に入るとどっと疲れが出てしまい、練習が試合に連動していませんでした。今年の夏は、走り込みもしましたが、スピード練習やクロカン、坂の練習を入れるなど内容を少し変えました。出雲駅伝を意識したメニューでもあったのですが、そのおかげで比較的疲れが早く取れて、9月の記録会でいい感じになり、出雲駅伝にいい状態で臨むことができたんです」

出雲駅伝の優勝で注目度が上昇「本当にびっくり」

 10月の出雲駅伝は、その練習の成果が出た。3区で丹所がトップに立つと、そのまま独走状態で最後まで駆け抜け、アンカーを務めたエースのイェゴン・ヴィンセント(3年)は余裕のある走りでフィニッシュした。優勝候補の駒澤大や青山学院大を撃破し、史上初となる初出場初優勝の快挙を達成したのである。

「出雲は全員ミスなく、設定通りに走ってくれました。丹所もあのメンバーの中では1万メートルはまだ上位の選手ではなかったのですが、しっかりと走ってくれましたし、佐藤と白井も力を発揮してくれたと思います」

 出雲駅伝優勝で東京国際大の注目度は、一気に跳ね上がり、11月の全日本大学駅伝で要注意されるチームになった。

「出雲優勝で、なんでこんなに注目されるのか。本当にびっくりでした」

 全日本でも5位に入り、6区の丹所のところではトップに立つなど力がついてきているところを見せ、出雲駅伝優勝がフロックではないことを証明した。箱根駅伝に向けて、大志田監督は大きな手応えを得たのである。(佐藤 俊 / Shun Sato)

佐藤 俊
1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。