箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、東京国際大学・大志田秀次監督が語る今大会の展望 毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜くのか――…

箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、東京国際大学・大志田秀次監督が語る今大会の展望

 毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜くのか――。「THE ANSWER」では、強豪校に挑む「ダークホース校」の監督に注目。2020年の箱根駅伝で総合5位と躍進した東京国際大学の勢いが止まらない。今年10月の出雲駅伝で初出場初優勝の快挙を達成し、伝統校を脅かす存在となるなか、大志田秀次監督に今大会の展望と駅伝部を率いる醍醐味を聞いた。(取材・文=佐藤 俊)

   ◇   ◇   ◇

 12月10日に箱根駅伝のエントリー16名が発表され、各チームは2022年1月2日、3日の本番に向けて調整中だ。東京国際大の大志田監督も選手のコンディションに気を配りつつ、往路復路の区間配置について思案している。2区など主要区間は決定しているが、ここから選手の調子がどうなるのか。不確定な要素があるなか、箱根当日の調子を見据えて的確に選手を配置していくためには、経験と監督の目利きが必要になってくる。

――各大学のエントリーメンバーは気になりますか?

「私は他大学のエントリーメンバーは見ないんですよ。見ないといけないですけど、それよりも自分の選手をどこに配置するのか、それを考える方が大事なので。区間配置をだいたい決めた後、『他大学のこの選手はこの区間ですよ』とコーチに言われて、『そうなの。ヤバいな』と思ったりしますけど、こっちがビビると選手もビビりますので気にしないです。レースは流れなので、自分たちに集中して、いい流れを作れればと思っています」

――箱根駅伝に向けて監督は3位を目標に掲げています。出雲優勝、全日本5位ときたなか、勝負できる戦力は整っていると思っていたので、やや控えめな印象を受けました。

「勝負の世界なので、選手のモチベーションを上げるために、大口をたたくことも必要かもしれないですが、中大時代に経験したことが今も活きているんです。当時、中大は常に優勝と言われていたんですが、本当に優勝できるチームなのかと思っていたんです。でも、周囲から優勝と言われて、それがすごくプレッシャーになり、結果も出ませんでした。ですから、そこは冷静に自分たちの力を見極めて、身の丈に合った順位を言うようにしています。今年のチームは、優勝するだけの力にまだ足りていない。もちろん優勝する可能性がゼロではないですけど、現状は3位を狙うチームかなと思います」

勝負の分かれ目は「ヴィンセントの次の区間」

 箱根駅伝の下馬評は、全日本大学駅伝で優勝した駒澤大、分厚い選手層の青山学院大が高い。東京国際大もイェゴン・ヴィンセントという大砲がおり、日本人エースもいる。全日本の6区で首位に立ったように力があり、少なくても往路では良い戦いができるはずだ。

――東京国際大にとって勝負の分かれ目はどこになると考えていますか?

「うちで言うとヴィンセントが2区に入った場合、次の3区、4区をどう戦うかでしょうね。ヴィンセントは1区でよほど遅れがない限り、3区にトップで襷を渡すことになります。その3区をどう戦うのかによって次の区間の走りが変わってきます。出雲のように全員が設定通りに走ってくれれば計算も立ちますが、そう上手くいかないのが駅伝ですから。ただ、上手く流れに乗れば昨年の創価大のようなことが自分たちにも起こる可能性がゼロではないので、そこは楽しみでもあります」

――箱根駅伝が終わった後は、レースをしっかり分析するのでしょうか?

「そうですね。箱根駅伝で一つ結果が出るわけですが、私自身、トラックシーズン(4~7月)、そして夏合宿や秋の取り組みを振り返った時、どうだったのか。自分なりに検証して、来年の方向性を決めていこうかなと思っています」

――大志田監督は東京国際大を今後、どんなチームにしていきたいと考えていますか。

「今、うちは新興チームと言われているんですが、箱根に出続けることで常連校になりつつあると思うんです。そうして、いずれ強豪校になり、3大駅伝で常に優勝を争い、たまに優勝できるようなチームにしていきたいですね。また、実業団に行って、五輪に出たり、走ることを職業にできる学生を輩出していければと考えています。そうして地道に実績を重ねていけば、『東京国際大に行けば成長できるよな、伸びていくよな』ということで学生たちが集まってくると思うんです。チームをより強くして、長く駅伝や陸上に携わることができたら楽しいなって思いますね」

駅伝監督の楽しさは「大会の結果を選手と共有できること」

 大志田監督は本田技研でコーチを辞めた後、10年ほど社業に専念して、2011年に東京国際大の駅伝部監督に就任、陸上の世界に戻ってきた。「取り柄が陸上しかなかったので、ありがたいなと思いますね」と笑みを浮かべるが、一度、陸上を離れたからこそ、その存在の大きさを実感することができたのだろう。実際、大志田監督は陸上の話をしていると非常に楽しそうだ。駅伝部監督が、まさに天職のように見える。

――駅伝部の監督の面白さとは、どういうところにありますか?

「箱根駅伝という日本中の皆さんが注目する大会に出られるということ。その大会の結果を選手と共有できることですね。1年間やってきて、この結果で良かったな、残念だったなと、結果に応じて気持ちが浮き沈んだり、活力をもらえたり、いろいろですが、やっていて楽しいです。もちろん大変なこともあります。土日は練習やレースがあり、夏は合宿なのでどこにも行けない。箱根が終わってもスカウティングがあります。365日、休みがありません。でも、苦じゃないんですよ。また、春に新しい選手が入って来て、次の目標に向かって一緒に頑張っていく。その繰り返しですが、走ることが好きと言いますか、楽しいんですよね」

――生涯、駅伝監督ですね。

「本田技研で走っていた頃、『若さとはなんだ?』と聞かれたんですが分からなくて、その時『若さとは年齢ではなく、考えることができるかどうかだ』と教わったんです。常に考えること、何かを求めることが若さなので、ここで監督をやる以上はボケちゃいけないなって思いますね(笑)」

 東京国際大の躍進は、10年の積み重ねもあるが、選手よりもたぶん走ることが好きな監督がいるからではないだろうか。優し気な表情の裏にある極めて冷静な視線と陸上への情熱で、レースで結果を出せるチームを作り上げてきた。

 出雲駅伝優勝は、序章に過ぎない。

 優勝候補として最初に名前が挙がる大学になることが、大志田監督が目指すチームになる。(佐藤 俊 / Shun Sato)

佐藤 俊
1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。