明大に敗戦後、悔しい表情を見せる早大 青春の蹉跌(さてつ)か。試合終了から1時間余。秩父宮ラグビー場の駐車場エリア。今季最後の早大ラグビー部全員の円陣が解けると、大田尾竜彦監督も部員たちも、泣いていた。4年生の嗚咽が寒風にのる。  12月2…



明大に敗戦後、悔しい表情を見せる早大

 青春の蹉跌(さてつ)か。試合終了から1時間余。秩父宮ラグビー場の駐車場エリア。今季最後の早大ラグビー部全員の円陣が解けると、大田尾竜彦監督も部員たちも、泣いていた。4年生の嗚咽が寒風にのる。 

 12月26日。全国大学選手権準々決勝。早大はライバル明大に15-20で逆転負けし、先の早明戦の雪辱を許した。挑みかかる気概、プレーの厳しさ、精度の差だろう、早大は勝機を自らのミスで何度もつぶした。

 「ただ、ただ、悔しくて......」。スクラムの要、副将の小林賢太は号泣だった。この日、スクラムを立て直すため、左PR(プロップ)から右PRに替わった。1番と3番は似て非なるものである。ここにきてのポジション変更はチームの苦肉の策でもあった。

 そうは言っても、小林は3年生まで右PRだった。先の早明戦から3週間。かつてのポジションに戻り、8人の結束、とくにフロントローとバックファイブ(ロック、フランカー、ナンバーエイト)との連携を磨いてきた。セットアップ(構え)とヒットの反復練習を繰り返してきた。

 ただ、明大FW(フォワード)とは構えた際の間合いが合わなかった。相手と距離を置きたい明大に対し、相手と接近して構えたい早大。駆け引きが続く。組んで相手を突き上げようとする明大に圧され、早大はアーリーエンゲージ(レフェリーの掛け声よりも早く組む行為)、コラプシング(スクラムを故意に崩す行為)などの反則を連続してとられた。

 小林の述懐。

「(3週間前の)早明戦から多少改善はできました。明治大学の強みのスクラムに対して、自分たちのスクラムを組めたのかなと思います。自分のポジション変更に戸惑いはなかった。でも(お互い)自分たちの組みたいスペースの取り合いになって、何本も組み直しがあって、そこで時間を使いすぎてしまいました」

 両チームのFWが不憫でならない。後半30分過ぎまで、スクラムの組み直し、コラプシングがこれほど続くとは。よくわからない笛はともかく、レフェリーのスクラム・コントロールはどうだったのだろう。

 早大の今季のスローガンが『Be Hungry』、この日のゲームテーマは『ドミネイト・ザ・ゲーム』だった。この1年、積み上げてきたものを明大にぶつける。試合を圧倒しよう。接点でも、どこでも相手を圧倒しよう。そういった意味だった。

 試合後の記者会見。大田尾監督は「自分たちのやってきたことをやりきれるかが勝負のポイントでした」と言った。

「トライを取りきらなければいけない時に取りきったチームが勝った。そういうことだと思います」

 先の早明戦は欠場。ケガから復帰したCTB(センター)長田智希主将はこうだ。

「負けたら終わりの選手権。緊張感、プレッシャーはあった。思いきりチャレンジした結果だから......。でも、トライを取りきることができませんでした」

 勝負のアヤをいえば、後半13分頃の早大の攻めだっただろう。スコアが早大15-13の場面。ライン攻撃からSO(スタンドオフ)の伊藤大祐が抜け、WTB(ウイング)小泉怜史につなぎ、ゴール直前でノーマークのSH(スクラムハーフ)の1年生宮尾昌典にパスした。

 これを、宮尾が痛恨の落球。ど真ん中にトライしていれば、おそらくゴールも決まり、スコアは9点差となっていた。両チームに与える精神的インパクトは大きかったはずだ。そのシーンの印象を聞かれ、大田尾監督は苦笑しながら、こう言った。正直だ。

「どう思うかと聞かれたら、"何やってんだ"としか思わなかったですけど、ああいうところで(トライを)取りきれないとなかなか大一番に勝つことはできません。"たられば"ですけど、スコアしていたら、お互いの戦い方、メンタル面のプレッシャーも違っていたでしょう。明治さんはただただ、"ラッキーでした"。うちとしては、"ほんと、痛かったですね"といった感じです」

 そのほかにも、早大は簡単なペナルティーゴール失敗、パスすればトライの判断ミス、タッチキックミス......。ゲームメーカーのSO伊藤はこう、ぼそっとこぼした。

「ワセダが絶対やってはいけないことを、やってしまいました」

 この1年はこの日のためにあった。大田尾新監督を迎えて、ざっと40週間、練習してきた。コロナ禍も工夫して、チーム強化にあたった。昨季の大学選手権決勝においては、天理大にブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で完敗した。

 だから、アトランタ五輪レスリング銅メダルの太田拓弥さんを招請して、接点、下半身の強化にまい進してきた。課題のスクラムは、大田尾監督のヤマハ時代の同僚、元日本代表PRの仲谷聖史さんにコーチになってもらい、きめ細かい指導を受けてきた。

 だが、早大はFW戦で後手を踏んだ。小林副将は、「1年間積み上げてきた接点の部分で正直、明治大学さんが上回っていた」と漏らした。「だから、自分たちのやりたかったラグビーができなかったという印象です」

 今年の4年生は才能にあふれる。エース、FB(フルバック)の河瀬諒介もまた、再三、ラインブレイクをした。

 でも、強引さが目立った。ゴールラインを割ることができなかった。ラグビー場の帰途、河瀬の父、かつて"怪物"といわれた元日本代表の明大OB、河瀬泰治さんと偶然、一緒になった。長男にかける言葉は?

「いろんなこと言われながら、4年間、早稲田でよう、やってくれたわ。ひと言でいえば、"ごくろうさん"やな」

 人は、しょっちゅう失敗をする。チームも時には負ける。要は、そこで、どうするか。屈辱と後悔を、苦闘と鍛錬の先の栄光へと結ぶのか。大学日本一になった時の勝利の部歌、『荒ぶる』へどうつなげるのか。

 2年生のSO伊藤はこう、言った。潔い。

「いろんな失敗はあったんですけど、試合を重ねるにつれて、ちょっとずつ成長できたのかなと思います。勝機はあったけど、目指すラグビーはできなかった。結局は完敗だったのかなと思います」

 ため息をつき、涙声でこう、続けた。

「4年生と一緒にできたラグビーは楽しかった。次は上級生になるので、もっと、もっと、頑張っていきたい」

 荒ぶる復活へ、挑戦は続くのだ。