前回の箱根駅伝の往路。創価大は、有力視されていた駒澤大や青学大が序盤でミスを出すなか、2区の6位以外は区間3位以内でつなぎ、4区でトップに立つとそのまま往路優勝を果たした。復路も10区途中までは先頭を維持し、想定外の快走で総合2位と大旋風…

 前回の箱根駅伝の往路。創価大は、有力視されていた駒澤大や青学大が序盤でミスを出すなか、2区の6位以外は区間3位以内でつなぎ、4区でトップに立つとそのまま往路優勝を果たした。復路も10区途中までは先頭を維持し、想定外の快走で総合2位と大旋風を巻き起こした。



初めての出雲駅伝で6区を走った嶋津雄大。7位ながらも、徐々に創価大の調子は上がってきている

 春先はそのプレッシャーもあってか振るわず、全日本大学駅伝選考会は14位の惨敗で初出場を逃した。このままでは、箱根のシード権獲得も危ないのでは、というマイナスの雰囲気が漂っていた。

「箱根2位のプライドを持った戦い方をしようということで、チーム全体にトラックでも勝負したいという思いがありました。5000m13分台と1万m28分台を8~10名揃えるのを7月のトラックシーズンまでに達成したいと動いたので、必然的に練習でも求めるレベルが高くなったんです」(榎木和貴監督)

 上を目指すことは大事なことだが、その影響でケガ人が出たり、疲労が溜まってレースで結果を出せない選手も多くなってしまった。榎木監督はこの時のチームの雰囲気をこう振り返る。

「例年なら5~6名の1年生が上級生を突き上げるというのがありますが、練習のレベルが上がったことで、上級生とのギャップが大きくなっていました。1~2名は上のグループに入ってきたものの、試合ではまだ14分0秒台や13分台を狙うレベルまでは達していないということで、上級生も危機感を持てなかった部分はありました」

 そんななかでの全日本選考会の惨敗。主将の三上雄太(4年)は「前回の箱根にエントリーされてなかった選手のなかには『うちは強いから、上位の選手に任せておけば何とかなる』というような雰囲気がありました。でも全日本がダメになってやっと『やばい』という気持ちが出てきて、『上の人たちだけが頑張っても、チームとしての本当の強さじゃない』と考えるようになりました。それで夏合宿も頑張ってくれたのだと思います」

【薄底シューズの練習成果】

 その夏合宿で目立ったのは、多くの選手がポイント練習で厚底シューズを履かなかったことだ。元々榎木監督は、足づくりのためには厚底ではなく薄底のシューズを使用したほうがいいと選手たちに話していた。前々回と前回の箱根で結果を出した卒業生の米満怜(現コニカミノルタ)や福田悠一などがいた頃の夏合宿でも、薄底で走っていたのを見たことがある。三上は「みんな極力厚底を履かないようにしていましたし、去年より質の高い練習をこなしました」と話す。

 初出場だった10月の出雲駅伝は、選手たちも他大学の選手に名前負けする面もあって7位に終わったが、その後は夏からの練習の成果が徐々に出てきた。

 11月14日の世田谷ハーフマラソン大会では、前回の箱根でエントリーされながらも走れなかった悔しさをバネに、「今年はロードで結果を出す」と臨んだ副主将の緒方貴典(3年)が1時間03分01秒で4位になり、初めてハーフを走った石井大揮(2年)も1時間03分58秒で走った。このほか3名が1時間4分台の自己新記録を出す結果を残した。

 さらに20日の早稲田大競技会では前半から積極的に走った嶋津雄大(4年)が狙いどおりに創価大の日本人記録を更新する28分14秒23を出して1位になり、27日の八王子ロングディスタンスではフィリップ・ムルワ(3年)が自己記録を15秒以上更新する27分35秒29を出した。そして、翌28日の東海大競技会では7名が新たに28分台に突入したほか、29分20秒台以内の自己新も5名と、一気に勢いづいてきた。

【28分ぎりが大きな自信に】

 日本人エースの嶋津は、「新チームになった時に28分台10人以上という目標がありました。10番目の三上は29分03秒でしたが、非公認では28分35秒を出しているのでチームとしてはちゃんと10人揃って、自信を持って箱根に向かえます」と明るい表情を見せる。

 そして、三上もうれしそうにこう話す。

「以前は『目標は3位以内』だったのですが、(今は)各自の記録も出て地に足がついたという感じです。ようやく自信を持って『3位以内を狙います』と言える感じになりました」

 その創価大の強みは、山の区間で卒業生がいないため、前回の経験者が揃っていることだ。榎木監督は「他大学もレベルを上げてくるだろうから安心はできない」と警戒するが、前回5区で区間2位の三上は11月の激坂最速王決定戦で5位になり、手ごたえを感じている。

「夏以降状態を落としてしまったので、あまりガツガツいかず、体を慣らす気持ちで走りました。それでも優勝した去年とは20秒差なので、今の状態から考えれば上出来。去年は調子がよく、いい流れのなかでのレースでそんなにきつさは感じなかったですが、今年はきついなかでも粘って走れたので、この1年間でしっかり足づくりができているのかなと感じました」

 また、前回は6区で区間7位ながら58分49秒で走っている濱野将基(3年)は、「前回はつなぎの6区という感覚で走ったのですが、今回はしっかり稼ぐ勝負の区間にしなければいけない。最低でも58分20秒は切って、区間5位以内で走りたいです」と意欲を持つ。

 そして、その条件のひとつにあげていた1万m28分台突入も、11月28日に28分37秒06を出したことでクリアしている。さらに2区には、榎木監督が「今回は1時間6分0秒前後で走れる力はつけている」と評価するムルワがいる。前回終盤で東京国際大のイェゴン・ヴィンセント(3年)に突き放されたのが悔しく、休みの日にも寮の前で坂道ダッシュを繰り返し、最後の上りの克服に意欲的だったうえ、1万mも大幅な自己記録更新をして臨める。

【往路優勝も見えてきた】

 そんなチームをさらに勢いづけたのが、前回3区で区間3位の快走以来はケガで苦しんでいた葛西潤(3年)の復調だ。10月から本格的な練習を始めると、11月20日の早大競技会5000mで自己記録に迫る14分06秒74で1位になり、その8日後の東海大競技会では途中の6000mを引っ張り、28分43秒40でゴール。過去2年は日本人エースが走っていた1区を任せられる状況になってきた。そうなれば箱根で目覚ましい走りをしている日本人エースの嶋津を前回と同じ4区で使える。

「3区と7区はつなぎの区間のイメージ」という榎木監督は、その両区間には将来のエース候補と考える1~2年生を起用したいだろう。それでも1区をうまく出られれば、4区の嶋津と5区の三上でトップに立ち、昨年に続く往路優勝というシナリオもあり得る。

 さらに復路も、今年はロードで確実に走り、苦手意識のあったトラックでも28分42秒44を出した緒方を中心に人材はいる。4年の中武泰希は昨年、座骨の故障があったものの、今年の夏からは、いい練習が積めてきている。

 ほかにも世田谷ハーフを1時間03分58秒で走っている石井やチーム内のハーフのタイムトライアルで嶋津に1秒差の1時間3分台でゴールした松田爽汰(3年)など、8、9、10区候補は5人ほどいる状況。

 速さより強さを求めた今年は、練習でも交互に先頭を引っ張りきつさを経験させたり、レースでも常に積極的に走ることを指示して実践させてきた。その成果は箱根でも十分に出せそうだ。