2021シーズン最終戦アブダビGP。4位でチェッカードフラッグを受けた瞬間、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)はコクピットのなかで力強くガッツポーズを決めた。 表彰台まであとたったの0.519秒。自己最高位の4位。週末を通して僚友ピエール…

 2021シーズン最終戦アブダビGP。4位でチェッカードフラッグを受けた瞬間、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)はコクピットのなかで力強くガッツポーズを決めた。

 表彰台まであとたったの0.519秒。自己最高位の4位。週末を通して僚友ピエール・ガスリーを上回ってのフィニッシュ......。

 だが、角田にとって何よりも大切だったのは、最後にミスひとつない完璧な週末を過ごし、初めて実力をすべて結果につなげることができたという事実だ。



角田裕毅の2021年は想像以上の出来事があった

 1年目のF1シーズンは、想像していたよりもずっと長くて苦難に満ちたものだった。

 冬のプライベートテストと開幕前テストで掴んでいた手応え。開幕戦バーレーンGPでの走り。角田は「F1で華々しい活躍ができる」という自信を掴んでいた。

 しかし、2戦目イモラ(エミリア・ロマーニャGP)の予選で激しいクラッシュを喫し、その自信が過信であったことに気づいた。

 自分がマシンの限界だと思っていたところが限界ではなかったことを知り、完全に支配下に置いていると思っていたマシンの限界がわからなくなった。そこから長いトンネルのなかで、もがいてきたシーズンだった。

 だが後半戦は、イタリア移住や自宅シミュレーター導入によるレースエンジニアとのコミュニケーションを向上させ、各セッション、各ラン、各ラップでやるべきことを意識し、一歩ずつプログラムを進めることで徐々に自信を取り戻していった。また、第16戦トルコGPからは開幕から使い続けてきたモノコックも交換し、不安を取り除いた。

 そして、ようやく"恐る恐る"のドライビングではなく、攻めの姿勢を取り戻すことができてきたのが、シーズン終盤戦の第17戦アメリカGPからだった。メキシコシティ(第18戦)、サンパウロ(第19戦)、サウジアラビア(第21戦)では他車との接触でレースを失ったが、それはオーバーテイクを仕掛けるほど攻めのドライビングができるようになった証でもあった。

 あとは結果だけ。そんな状態で臨んだ最終戦アブダビGPで、角田はついにやってのけたのだ。

【中高速コーナーに自信の表われ】

「とてもうれしいです。今週末は全体を通してペースが非常によかったですし、レースペースもあそこまでいいとは正直思っていませんでした。最後は(バルテリ・)ボッタスを抜いて4位でフィニッシュすることができましたし、この結果にはとても満足しています」

 今季一度も予選で上回ることができなかった僚友ガスリーを、ついにこのアブダビで上回った。ガスリーはここ数戦、マシンの扱いに苦戦しながらも予選Q3までに合わせ込むという綱渡りの戦いを続けていたが、今回はQ2で敗退を喫し、角田が初のアウトクオリファイを果たした。

 中低速コーナーではガスリーと同等かそれ以上の走りを見せ、これまでやや差をつけられていた高速コーナーでもその差をかなり縮めてきた。バンク角のついた新設ターン9も鋭角なV字ラインで巧みにクリアしていた。中高速コーナーの速さはすなわち、マシンへの自信の表われだ。

 決勝ではガスリーもハードタイヤスタートで引っ張り、VSC(バーチャルセーフティカー)のタイミングを利して角田の背後までポジションを上げてきたのはさすがだ。しかし、角田はガスリーを寄せつけずに自分のレースを続けた。

 レース前半は1周目に抜いたメルセデスAMGのバルテリ・ボッタスを抑え、結果的にそれがマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のタイトル争いを大きく援護射撃することになった。ボッタスが14秒以内にいればフェルスタッペンはVSCでもSCでもピットインできず、最後のあの大逆転劇は生まれなかったからだ。

 ボッタスには第1スティントを引っ張られてオーバーカットを許し、それ以降はついていくことはできなかった。しかし、ピットアウト直後の勢いを生かしてインに飛び込んできたフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)はうまく避け、次の周に冷静に抜き返してみせた。その後のペースは大きく違い、アルファタウリ勢は7位・8位で後続を大きく引き離した。

【角田にはまだ伸びしろがある】

 その後、ランド・ノリス(マクラーレン)がパンクを喫したことで脱落し、53周目のセーフティカー導入ではボッタスの14秒以内にとどまっていたことで、自分たちだけがピットインしてソフトタイヤに交換できる幸運を得た。これは、フェルスタッペン対ハミルトンとまったく同じ構図だった。

 そして最終ラップには、ターン6で3位のカルロス・サインツ(フェラーリ)と争っていたボッタスのインに飛び込んでやや強引ながらもパス、3位さえも視野に入れて加速した。ただ、シフトパドルに触れてしまったのか一瞬5速から4速にシフトダウンしてしまう不運もあり、その後はガスリーを抑えるのが精一杯だった。

 それでも角田にとっては、レース週末を通して自信を持ってドライビングでき、メルセデスAMGやフェラーリ、マクラーレンを相手に互角の走りをし、4位でフィニッシュしたことが何よりも大きな収穫になった。アルファタウリのマシンと同等かそれ以上の実力を持つマシンたちと戦うことでしか見えてこない世界、自分の優れている点、自分にまだ足りない点が見えてくるからだ。

「今シーズンでベストな結果を残せたこともそうですが、特に今週は自信を取り戻すことができました。今シーズンを通してずっと、僕の最大の課題は自信でした。ずっと自信を持ってドライブすることができませんでした。自信を確立してドライビングすること、そしてマシンへの理解を深めることは本当に難しかったんです。

 でも今回は初めて、バーレーンの時以上の自信を持って走ることができたのです。最終戦でようやくここまで辿り着けたのはちょっと遅すぎたかもしれませんが、こうしてシーズンを終えることができたのは、来年に向けてもよかったと思います」

 最終戦でようやくガスリーに勝った。ただ、これは1勝21敗なのではなく、角田がガスリーと同等のレベルにまで成長してきたという意味だ。そして角田には、まだまだ伸びしろがある。

【2022年は楽しみばかり】

「今年はこのアブダビだけが、昨年のヤングドライバーテストでF1マシンを経験したサーキットでした。その経験があったからこそ、FP1からうまくアジャストすることができました。来年は95%のサーキットが経験済みのサーキットになるわけですから楽しみです」

 開幕直後のつまずきで、必要以上に遠回りをしてきたシーズン。しかし、遠回りをしたからこそできた経験もたくさんあり、たくさんの経験をしたからこそ強くなれたはずだ。そして、ここまで辿り着いた。

 このスタートラインから、角田裕毅がどんな飛躍を見せるのか。2022年シーズンが楽しみになってきた。