宮司愛海連載:『Manami Memo』特別編・前編フジテレビの人気スポーツ・ニュース番組『S-PARK』とweb Sportivaのコラボ企画として始まった宮司愛海アナの連載『Manami Memo』。今回は特別編として、プロフィギュアス…

宮司愛海連載:『Manami Memo』特別編・前編

フジテレビの人気スポーツ・ニュース番組『S-PARK』とweb Sportivaのコラボ企画として始まった宮司愛海アナの連載『Manami Memo』。今回は特別編として、プロフィギュアスケーターの村上佳菜子さんとともにアイスダンスについて語ります。髙橋大輔選手と村元哉中選手の活躍で盛り上がっているアイスダンスの世界。12月22日から開催される全日本フィギュアスケート選手権での各組の演技にも注目です。

宮司 今日はアイスダンスについて村上佳菜子さんにお話を伺いたいと思い、お越しいただきました! ありがとうございます!

村上 こちらこそありがとうございます! よろしくお願いします。

【アイスダンスの魅力】

宮司 まずは「氷上の社交ダンス」と呼ばれるアイスダンスですが、村上さんはどんなところに魅力を感じていますか?

村上 私は選手の頃から本当にアイスダンスが大好きで、試合に出た時は必ずアイスダンスの試合を見に行っていたくらいなんです。やっぱりスケートのよさがあります。もちろんジャンプがあったりスピンがあったりするのもスケートの魅力のひとつなんですが、氷の上で音(曲)を感じながら滑るというのが、アイスダンスの魅力。ひとつの作品のような、ストーリーを感じる演技なので、そういったところが魅力なのかなと思います。

宮司 ひとつの作品というお話がありましたけれども、ふたりで作りあげるわけですよね。ふたりの関係性も演技に表れると思うのですが、そこに関してはいかがですか?

村上 私はシングルしかやったことがないので、うらやましいなと思います。私自身もいつも滑る時にストーリーをみんなにわかってもらえるように滑りたいと思っていたのですが、たとえば『オペラ座の怪人』を滑るとしたら、シングルだと、ファントムを演じるかクリスティーヌを演じるか、どちらかにしかなれない。

宮司 ひとりしかいないですもんね。

村上 だから私はショート(SP)とフリーで『オペラ座の怪人』を滑ったことがあるんです。SPがクリスティーヌでフリーがファントムで、というように同じ曲を使って違うプログラムを演じたシーズンがあったのですが、ひとりだとそのようにしか見せることができない。でも、アイスダンスだと、ひとつのプログラムで物語としてクリスティーヌとファントムを見せることができるので、「魅せる」という部分を追求できて、やっぱり私はうらやましいなと思います。

宮司 アイスダンスをやってみたいという気持ちにはならなかったのですか?

村上 ずっとやってみたいと思っていました。今でもその気持ちはあります。でも、なかなか日本でパートナーって見つからなくて。今、髙橋選手と組んでいる(村元)哉中ちゃんも以前は苦労していましたね。日本はシングルが人気の国なので、そこが難しかったみたいです。

宮司 ちなみに実際にやったことは?

村上 少しだけ。リフトなどはやったことがないですが、スケーティングの練習として滑ってみました。やってみると、やっぱり楽しくて。一緒に滑った男性の選手が上手にリードしてくれて、「このステップってここに(体重を)乗せて滑るものなんだ」みたいな、今までひとりで当たり前のようにやっていたことも、ふたりで組んだ時に新たな発見があると言うか。そこはすごく楽しかったです。

【アイスダンス特有の難しさ】

宮司 逆にふたりだからこそ合わせる難しさもあるのかなと思うのですが、やってみて難しさを感じたことはありましたか?

村上 ありましたね。でもその時はどちらかと言うと一緒にやるのが楽しいという気持ちが大きかったです。その後、一度取材で髙橋選手と組んで少し滑らせてもらったことがありますが、いつも滑っている重心の位置だとなかなかうまくできなくて。自分が思ったよりも(相手に)もたれかかって、重心をうしろにして滑らなきゃいけないんです。

宮司 勇気がいりますね。

村上 そうなんです。その難しさ。これまでの感覚や経験があるから、違うことをする怖さみたいなものもあったりして。やっぱりふたりで滑るのって難しいことなんだなと、その時に改めて感じました。

宮司 実際にやってみないとわからないことだったんですね。

村上 だからこそ、より興味があるという気もします。

宮司 アイスダンスがほかのフィギュアスケートの種目と違うところって、一番はどんなところだと思いますか?

村上 たくさんあると思いますが、やっぱり靴が違うかな。

宮司 そうか、まず靴から違うんですもんね。

村上 エッジの長さもカーブも違います。同じ氷の上を滑っているから同じように見えるんですが、ほぼ違う競技みたいな感じです。全く同じようにはシングルの人は滑れないので。だからこそ、髙橋選手も苦労している部分があったはずです。あれだけ技術があって(質の高い)滑りも持っている人でもあんなにも苦労しているということは、本当に全くの別の競技と考えてもいいくらい違う部分が多いと思います。だからこそ、髙橋選手の挑戦というのはすごいことなんだよというのは、みなさんに知ってもらえたらいいなと思います。

【髙橋大輔選手の進化】

宮司 その髙橋選手はアイスダンスで2シーズン目。今季と昨季を比べての成長や進化についてはどうでしょうか?

村上 めちゃめちゃレベルアップしてるなって思いますね。昨シーズンは、髙橋選手は覚えたことを出すのに必死な感じで、リフトも一生懸命に持ち上げている、という感じが伝わってきていて。まだ髙橋選手のあの......なんて言うんだろう。

宮司 伸び伸びとした表現力。

村上 そう。表現力だったり、髙橋選手の色だったりというのがなかなか見えてこなかったんです。でも、今シーズンは髙橋選手の色がだんだん出てきていて、伝わってくるものがすごく強く、濃くなってきていると思います。普通のスケーターや私だったら何年もかかるようなことが、この短期間でできているというのは、髙橋選手の才能と魅力です。
それにプラスして、村元選手も昨シーズンまでは髙橋選手をサポートしている滑りと言うか、支えてあげている感じがあったんですけど、今シーズンからは、リフトでは安心して体を預けているなというのを感じたので、そういったところが点数や結果に残っているのかなと思います。

宮司 それこそ髙橋選手はシングルを経験されてからアイスダンスという、さっきおっしゃった言葉を借りれば全く別物にチャレンジされていると思うんです。その挑戦について、最初聞いた時はどう思われましたか?

村上 (村元選手とのカップル結成には)びっくりしました。その発表の前に村元選手にパートナーがいないという話を聞いていて、「でもこれでやめちゃうのはもったいないから、いろんなところに行ってアプローチをかけたほうがいいと思う。哉中ちゃんはすばらしい才能や魅力を持ってるから、みんながやってほしいって思ってるよ」と話していて。その何週間後にカップル結成の発表があったので、「エーッ!」と驚きました。

宮司 その時、村上さんはまだ髙橋選手と組むことは知らなかったんですね。

村上 きっと準備は進んでいたかもしれないですが、まだ公表前でしたので。でもまさか、村元選手と髙橋選手が一緒に組むというのは考えてもいなかったので驚きました。こんなふうに驚かされたのは2回目です。1回目は髙橋選手のシングルでの現役復帰の時(2018年)。だから「またやられた!」みたいな感覚はありました(笑)。

【村元・髙橋組の今後の目標】

宮司 びっくりしましたよね。
さて、村元・髙橋組は、今シーズンここまで好成績を残しています。実際どういう目標をおふたりは立てていると思いますか?

村上 やっぱり北京オリンピックに出たいという気持ちはすごく強いんだろうなというのを感じます。ただ、ここまで(経験を)積み上げてきた小松原(美里、尊)夫妻のペアもいるので、私は両カップルの気持ちがわかる。どちらに(五輪代表が)決まってもうれしいし、寂しいし、苦しい気持ちもあるのかなと思います。今できることを2組には頑張ってほしいなと思っています。

【アイスダンス小松原組の魅力】

宮司 小松原組は、外国人にも負けないようなダイナミックなリフトやスケーティングが魅力のひとつだと思いますが、村上さんからご覧になって、小松原組の魅力はどんなところですか?

村上 小松原組のふたりがすごくアイスダンスを楽しんでいるなというのが印象的です。やはり夫婦ですから、息の合った滑りをしていますね。たとえば、美里選手がつまずきそうになった時に、尊さんがパッと支えてあげているところなど。本当に細かいところで息が合っています。7位に終わったNHK杯のあとはちょっとメンタルが弱くなってしまっているようなインタビューの答えもあったんですが、ふたりにはとにもかくにも、これまで積み上げてきたものがあると思うので、それを信じて全力でやってほしいなという気持ちは本当に強いです。

宮司 そうですよね。お互いを信じる気持ちが演技に出るのがアイスダンスなのかなと思います。

村上 滑りってすごくメンタルが出ると思うんですよ。シングルのジャンプはちょっと不安でもグッて力を入れればいけたりすることもあるんですが、本当にその時の気持ちが出てくるので。「あ、不安そうだな」とか「緊張しているから体が硬くて伸びてないな」というのは見ていてわかります。アイスダンスは滑りがメインになってくる競技だから、メンタルってすごく大事だなと思いました。

宮司 でも、そこがふたりでいることで補い合えたりもするんでしょうね、きっと。

村上 どちらかがサポートしてあげるというのが大事なことなのかなというのは、今までたくさんの選手を見てきて感じます。

【アイスダンスが発展するために必要なこと】

宮司 村元・髙橋組と小松原組は、お互いが刺激を与え合う存在になっていると思います。日本のアイスダンス界がこれからさらに進化していくためには、どんなことが必要だと思いますか?

村上 私はシングルで活躍した髙橋選手がアイスダンスに挑戦しているということ自体が、日本のアイスダンスの発展に向けてすでに大きいと思っていて。これで「ちょっと一回やってみようかな」って思う子たちが出てきたと思うんですよ。

宮司 確かに。シングルではなくてまずアイスダンスをやりたいという子もきっと出てきたでしょうね。

村上 あとはもうちょっとカップル種目が練習しやすいような環境が日本にもできてくると、もっともっとアイスダンスやペアは伸びてくるんじゃないかなと。今だと海外に練習しに行かないといけないっていう環境だと思うんです。

宮司 それはアイスリンクの環境が、ということですか?

村上 そうですね。シングルの子たちは一般滑走のリンクでも練習できるけれど、アイスダンスやペアになると危なくて、どうしても滑ることができなかったりします。カップル種目の選手たちが自由に練習できるような環境がもっと整ってくると、もうちょっと気軽にチャレンジしやすいのかなと思います。

【アイスダンスの注目点は?】

宮司 フィギュアスケートにくわしくない方々に、アイスダンスのどういうところを見てほしいと思いますか?

村上 アイスダンスはひとつのパッケージとして、最初から最後まで、どんなストーリーをこの選手たちは見せたいのかなというのを探りながら見てもらうのが面白いのかなと思います。あとリズムダンスのプログラムは、同じリズムだけど曲調が違ったりするのも面白い。たとえば、村元・髙橋組の今季のリズムダンスで「ソーラン節がまさかここでくるとは」って、みんなが思ったと思います。

宮司 「ソーラン節⁉」って。ちょっとびっくりしましたよね。

村上 そう。日本の方はなじみのある曲だけど、まさかアイスダンスで使えるんだ、みたいな。でも、「ソーラン節とこの曲が同じリズムなんだ」とか、そういうのもアイスダンスの面白いところだと思うので、見てもらえたらいいかなと思います。

後編(村上佳菜子さんが現役復帰宣言!?「パートナーを見つけてください!」)に続く>>>

PROFILE
村上佳菜子(むらかみ・かなこ)
プロフィギュアスケーター。94年11月7日生まれ。
愛知県名古屋市出身。血液型:A型。
フィギュアスケート選手(女子シングル)として、ソチオリンピック出場(2014年)、四大陸選手権優勝(2014年)など輝かしい成績を残す。2017年に引退後は、プロフィギュアスケーターやフィギュアスケート解説者として活躍。タレントや女優として数々のテレビ番組にも出演中。
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宮司愛海(みやじ・まなみ)
91年7月29日生まれ。2015年フジテレビ入社。
福岡県出身。血液型:0型。
スポーツ・ニュース番組『S-PARK』のメーンキャスター。スタジオ内での番組進行だけでなく、
現場に出てさまざまな競技にふれ、多くのアスリートに話を聞くなど取材者としても積極的に活動。
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