昨年の全日本選手権は羽生結弦が優勝、宇野昌磨が2位、鍵山優真が3位だった 来年2月の北京五輪の男子日本代表3枠を争う全日本フィギュアスケート選手権が開幕する。男子シングルは12月24日にショートプログラム(SP)、26日にフリーが行なわれる…



昨年の全日本選手権は羽生結弦が優勝、宇野昌磨が2位、鍵山優真が3位だった

 来年2月の北京五輪の男子日本代表3枠を争う全日本フィギュアスケート選手権が開幕する。男子シングルは12月24日にショートプログラム(SP)、26日にフリーが行なわれる。

 右足首靭帯損傷のため、グランプリ(GP)シリーズのNHK杯とロステレコム杯を欠場した羽生結弦だが、期間が空いても出場する大会ではきっちりと状態を合わせてくる能力は昨シーズンの全日本選手権の優勝で証明済み。シーズン後半へ向け、モチベーションを維持するために、今できる構成で結果を出すことを目標に仕上げてくるはずだ。昨年はループとサルコウ、トーループ2本の計4本の4回転を入れた構成で319.36点を出している。今年も同じくらいの得点をとる準備はしてくるだろう。

【北京五輪もにらんだ見どころ】

 今回の全日本選手権の男子では、今季GPシリーズで結果を出した鍵山優真と宇野昌磨が羽生にどこまで迫れるかが、北京五輪本番のメダル争いをにらんだうえでも大きな見どころになる。

 そのひとつの尺度がSPとフリーの合計300点超えだ。今季の男子トップ選手の得点を見れば、最高得点はスケートカナダでネイサン・チェン(アメリカ)が出した307.18点で、次にスケートアメリカのヴィンセント・ジョウ(アメリカ)の295.56点。そして、NHK杯の宇野の290.15点と、フランス大会の鍵山の286.41点が続いている。

 チェンは例年、滑り出しは得点も抑え気味で、シーズン中盤のGPファイナルから調子を上げて高得点をとるパターンだ。今季も1月の全米選手権、翌月の北京五輪と調子を上げてくるだろう。チェンは自己最高が335.30点で、羽生もそれに迫る得点能力を持っているが、その次の3位争いとなると300点台は必至だろう。300点をとったうえで、さらにどう上積みできるかが、北京のメダル争いでは重要になってくる。

【鍵山は着実な道を選択】

 鍵山はシニアデビューの昨季、世界選手権2位まで一気に駆け上がった。優勝したチェンとは29点強差と力の違いは見せつけられたが、フリーでは終盤のジャンプ2本で着氷を乱すミスをしながらも合計は291.77点にして、300点台への可能性を見せた。今季は、「昨シーズンと同じように挑戦する意識を持って戦いたい」(鍵山)と、フリーの4回転2種類3本の構成をさらに進化させ、4回転ループを入れた3種類4本の構成に挑んでいた。

 コロナ禍で変則開催の昨季とは違い、GPシリーズも通常開催になった今季。鍵山は4回転ループの精度をなかなか上げきれなかったなかで、シニアとして実績を着実に積み上げていくことを選択し、4回転2種類3本の昨季の構成に戻してイタリア杯とフランス杯を連勝。GPファイナル進出を決める結果を残した。

 それでもフランス杯優勝で獲得ポイント1位でのGPファイナル進出を決めたあとは、「ファイナルで優勝を争える実力があるかと言われれば、まだそうでもない。ここまでの2試合を振り返れば、まだまだ実力が足りないなと感じる。4回転ループだったり、後半でももっといいジャンプが跳べるように練習していきたい」と冷静に自己分析していた。

 GPシリーズは昨季と4回転の本数は同じとはいえ、4回転トーループを後半に入れるなど、若干レベルアップした構成。これで4回転ループを入れられるようになれば、要素の基礎点合計は昨季の世界選手権より4点ほど高くなる計算だ。

 SPでは、確実に100点台をとれる安定感を身に着けてきていて、フランス杯は後半のトリプルアクセルでステップアウトのミスをしながらも、昨季の世界選手権で出した自己最高に0.32点まで迫る100.64点。今季はGOE(出来ばえ点)加点を昨季より上積みできるようになっていて、演技構成点も9点台が多くなっている。フランス杯では、滑りや表現の技術を高く評価されているジェイソン・ブラウン(アメリカ)に、SPは1.1点差でフリーは2.52点差と、ジャッジは高く評価した。300点台は手のうちに入れている。

【世界トップへ高難度に挑む宇野】

 一方、宇野は旧ルールでは319.84点を出していて、新ルールでも300点台は当然という実力の持ち主。2019−2020年シーズンから低迷時期もあったが、2019年2月の四大陸選手権のフリーでは4回転2種類3本の構成で終盤にわずかなミスがありながらも197.36点を出し、200点台に乗せる地力を証明していた。また、SPも大スランプから抜け出し始めた2019年の全日本選手権は、連続ジャンプが4回転+2回転にとどまりながらも105.71点を出し、300点台を出せる状態だった。

 今季は再び世界のトップを目指すことを意識し、フリーは2016−2017年シーズンに跳んでいた4回転ループや4回転サルコウなど、今の自分が跳べる4回転をすべて入れた4種類5本の構成に挑戦している。

 4回転5本の構成は2017−2018年の平昌五輪シーズン初戦のロンバルディア杯で、旧ルール自己最高の214.97点を出した時に跳んでいた。ノーミスは難しいと承知はしているが、チェンら行なっている選手がいるからこそ、世界のトップに立つには自分も挑まないといけないという強い決意がある。

 今年のNHK杯は最初の4回転ループと4回転サルコウをきれいに決めたあと、後半の4回転フリップが2回転になり、次の4回転トーループとトリプルアクセルからの3連続ジャンプで着氷を乱すミスがあって187.57点にとどまった。だが、ロンバルディア杯の時の得点からジャンプ1本分と4回転トーループ+2回転トーループの基礎点が1.1倍になっていた分を引けば、207.87点になる計算だ。当時より各要素のGOE加点は高くなっていて、SPでも確実に100点台に乗せる安定感はあるだけに、すべてがうまくいけば310点台に乗せられる可能性がある。

 守る意識はなく、攻めに徹している今季の鍵山と宇野。ふたりがそれぞれに秘めている可能性を大きく開花させる姿を、全日本選手権で見せてもらいたい。