箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、帝京大学・中野孝行監督が語る箱根駅伝に向けた調整法 毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜くのか…
箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、帝京大学・中野孝行監督が語る箱根駅伝に向けた調整法
毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜くのか――。「THE ANSWER」では、強豪校に挑む「ダークホース校」の監督に注目。前回の箱根駅伝で総合8位、帝京大学を率いる中野孝行監督に、本番が近づくなかでの選手の調整法とチームマネジメントの極意について聞いた。(取材・文=佐藤 俊)
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帝京大学は、駅伝競走部以外にもラグビー部、空手道部、柔道部、チアリーディング部など“日本一レベル”の部活がある。だが、大学体育会の活動は大学ごとに独立しており、他大学との横のつながりは少ない。帝京大の駅伝競走部は、「多摩川会」に入り、学生の強化に努めている。
――「多摩川会」というのは、どういうものなのですか。
「13年前に大八木監督(弘明/駒澤大)が会長となって、学生を強くして世界へというコンセプトで始まりました。私は今、その会の副会長で、うちを始め、駒澤大、創価大、明治大、国学院大、法政大などが手弁当で、大会の運営や合同の練習会をしたり、新人教育、栄養講座をしたり、多摩川会OBの実業団選手に来てもらって講演してもらっています。こうした大学間の垣根を越えた横のつながりは、すごく大事ですね。実業団も変わりつつあるので、大学スポーツの在り方もどこを目指していくのかを考えつつ、変わっていく必要があると思います」
――箱根駅伝で言うと、昨年4月からユニフォームにスポンサーが入るようになりました。
「うちもフランスベッド社に決まりました。駅伝は合宿を始め、いろいろとお金がかかります。こうしてスポンサーが入れられるようになったのは、大学スポーツが変化するための第一歩かなと思います」
箱根駅伝が近づきつつあるが、12月上旬には箱根駅伝エントリーメンバーが発表になり、下旬には区間エントリーが発表される。この1か月間、選手は故障したり、風邪を引いて不調になったり、いろんなことが起こる。帝京大の中野監督は、「この1か月は、1年で一番選手をコントロールする時期」だという。
本番に向けて選手は「オーバーワークになりがち」
――箱根のエントリーから本番まで、かなり選手を管理していくのでしょうか。
「管理というか、手を抜かせる期間ですよね。11月下旬から合宿に入って12月上旬に終わって、あとはコンディション作りになります。合宿で疲労は溜まっているけど、箱根が近づくとテンションが上がってくるし、緊張感が高まるので、そこからが大変でもあります」
――その状態が続くと、どうなるのでしょうか。
「選手は、もっとやらないといけないと思うので、オーバーワークになりがちなんですよ。彼らは非常に繊細なので、ちょっとでもピークを越えてしまうと、落ちてしまう。なので、メリハリをつけて、無理をさせない。しっかりと蓋をしておいて、爆発させずに本番までの3週間を過ごします」
――区間配置を決める時は、どのように決めるのでしょうか。
「ある程度、エントリーした時点で、頭の中にあります。でも、そこから3週間で体調を崩したり、故障したりする選手が出ることもあるので、私はギリギリまで見極めます。他大学では、早い段階で区間配置を決めているところもありますけど、うちはそれで上手くいったことがないんですよ。決めてしまうと、どうしても安心感が出てしまう。
それが目に見えてしまうと、『箱根を目指している選手が何人もいるのに胡坐をかいている場合か』って怒るんですけど、そうなると上手くいかなくなりますね。逆に緊張し過ぎてしまう選手もいます。常に全力でやっている選手は、とにかく抑えるのが大事。競馬のようにスタートゲートに入る前に、『どうどう』と落ち着かせるようにしていかないといけないんです」
12月下旬に箱根駅伝10区間の区間エントリーがされると、当日変更をにらみながら、あとは静かに当日を待つことになる。
――多くの大学の監督は、この時点で今年の出来高が見えてくると言います。
「エントリー発表から区間エントリーまでの間で、選手がどう変化していくのかは楽しみですよね。中には、さらに磨かれていく選手がいれば、“酸化していく”者もいる。エントリーされた選手だけじゃなく、サポートする側も必死になって応援してくれている。走る選手、サポートする選手が一体化した時は、すごくいいチームになる。そうなると不思議と選手が走ってくれるし、結果もいいんですよ」
出雲、全日本を狙ったチームは「箱根では勝てない」
――良いチームになるために、何か働きかけることはありますか?
「それは、私が関わるということではなく、選手たちが自ら作り上げていくものなんです。最後は、そうした自立した者の集合体になれるかどうかだと思います」
――来年1月の箱根駅伝、どんなレースになると考えていますか?
「私は出雲、全日本を狙っていると言っているチームは、箱根では勝てないと思います。箱根とこの2つの大会はまるで違う。距離が長く、特殊区間もある。出雲、全日本ともに狙わずとも勝ったところが、箱根でも勝つと思います」
大学三大駅伝のうち、出雲駅伝は東京国際大が優勝し、全日本は駒澤大が優勝した。今年は全体的にレベルが上がっており、「戦国駅伝」と称されている。帝京大は“陸上部”ではなく“駅伝競走部”のため、駅伝で結果を残すことが求められるが、いつものように着実に襷を繋いで上位進出を目指す。
■中野孝行(帝京大学駅伝競走部監督)
1963年生まれ、北海道出身。白糠高校卒業後、国士舘大学へ進学し箱根駅伝に4回出場。卒業後は実業団の雪印乳業に進み、選手として活躍した。引退後は三田工業女子陸上競技部コーチ、特別支援学校の教員、NEC陸上競技部コーチを経て、2005年から帝京大学駅伝競走部監督に就任。2008年から15年連続でチームを箱根駅伝に導いている。(佐藤 俊 / Shun Sato)
佐藤 俊
1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。