8ラウンドに及ぶ過酷な米女子ツアーの最終予選会(12月2日~5日、12月9日~12日/アラバマ州)を20位で突破した渋野日向子。満面の笑みを浮かべて、手にしたツアーカードを大きく掲げた。 そこに記されているのは「INSIDE THE RO…

 8ラウンドに及ぶ過酷な米女子ツアーの最終予選会(12月2日~5日、12月9日~12日/アラバマ州)を20位で突破した渋野日向子。満面の笑みを浮かべて、手にしたツアーカードを大きく掲げた。

 そこに記されているのは「INSIDE THE ROPES Hinako Shibuno」。ロープの中、つまりコース内でプレーできるツアーメンバーである証明を、晴れて渋野が獲得したことを意味している。



米女子ツアーの最終予選会を20位で突破した渋野日向子

「最終日を迎えるのがすごく怖かった」と、ファイナルラウンドでは一日中厳しい表情を見せていた渋野。ファンの声援にも笑みで応える余裕はなかった。

 というのも、前日に「79」とまさかの大崩れ。2週目の第2ラウンドを終えて7位タイだった順位が29位タイまで急降下していたからだ。メンバー資格は45位タイまで得られるとはいえ、実際には20位以内に入らないと優先順位が低くなり、出場できる試合が限られてしまうゆえ、なおさらだった。

 そうして、自ら追い詰める状況を作ってしまった最後の18ホール、渋野は「本当に泣きそうだった」。それでもその重圧のなか、彼女は「69」をマークして、見事に待望の"20位"という結果をモノにした。この"試練"を突破したことは、これからの渋野にとって、大きな糧となるに違いない。

 さて、実際のところ、20位という順位は来季(2022年)ツアーの出場に際して、どれぐらいの優先順位となるのか。まずは、今季(2021年)ツアーにおけるCMEポイントランキング上位80名が最優先され、以降、いくつかの出場資格があって、最終予選会20位というと、おそらく145番目あたりの位置になる。

 通常、いわゆる「フルフィールド」と呼ばれる大会は144名から最大156名が参加できるため、渋野は大半の試合に出場できると考えられる。しかし、冬場など日照時間が短い時期は参戦選手が120名ほどに縮小される。

 現に1月20日から開幕する2022年ツアーにおいて、フロリダ州の開幕戦に参加できるのは過去3年のツアー勝者のみ。さらに、第2戦(フロリダ州)、第3戦(未定)も出場選手が120名に限られる。そうなると、渋野の出場は欠場する上位選手の数次第。現状、デビュー戦の予定はなかなか確定しない状況にある。

 ただ一方で、渋野には2019年の全英女子オープン覇者という大きなアドバンテージがある。シンガポールで開催されるHSBC女子世界選手権(3月3日~6日)や、メジャー初戦のザ・シェブロン選手権(3月31日~4月3日/カリフォルニア州)を含めて年間5大会あるメジャー大会の出場権を保持している。これは、同じ最終予選会から勝ち上がってきた選手の中では、圧倒的に有利な条件だ。

 渋野としてはそうした利点を生かして、例年5月に行なわれる優先順位を入れ替えるリシャッフルまでにCMEポイントを少しでも多く獲得して、優先順位を上げておきたいところ。そうすれば、以降のツアーにおけるフル出場へとつなげることができる。

 では、満を持して主戦場を米ツアーに置く渋野はどれぐらい活躍できるだろうか。

 当然ながら、真のルーキーに比べて米ツアー出場経験は豊富。2020年、2021年とメジャー大会や推薦で出場できる試合に参戦し、今年は4月~6月までみっちり3カ月、アメリカ国内で転戦してきた。

 ということは、東海岸のバミューダ芝、西海岸のポアナグリーンなど、アメリカ特有の芝は体験済み。しかもこの春、米ツアーを転戦するなかで、同ツアーの環境を最大限に生かして練習を積んできた。渋野は「1年間を通じて戦うようになったら、またたくさんの苦労がある」と話すが、そうした経験はツアー本格参戦において間違いなく生かされるだろう。

 そもそも米ツアーメンバーの資格は、2019年の全英女子オープンの勝利で得ていた。しかし当時は、海外への意欲がそこまで高くなく、見送った。渋野が言う。

「あそこでメンバー登録していたら、これだけスイングを変えていなかったかもしれない。Qシリーズ(最終予選会)を2週間やって、ボロボロになることも(苦笑)。でも、足りないものがたくさん見えたので(この挑戦には)収穫しかないと思う」

 2020年12月の全米女子オープンでは第3ランドを終えてトップに立ちながら、最終的には4位という結果に終わった。

「昨年は全米女子でもそうでしたけど、右(に出る)ミスが多く、今回もプレッシャーがかかると、最後にグリーンに乗らない。結局、同じミスをやっている」

 最終予選会においても渋野はそう嘆いていたが、そうした経験をしてきたからこそ、スイング改造に踏み切ったはずで、その成果は徐々に出ているのではないか。現に彼女は、まだまだ完璧ではないかもしれないが、「伸びしろはある」と手応えをつかんでいる。

 実際、大規模なスイング改造を図ったことで、今年のシーズン半ばにはやや不安定なショットも見られたが、10月には国内ツアーのスタンレーレディスで優勝。自身を取り戻すことができた。

 渋野が選んだスイング改造は、トップをコンパクトにしたシャロースイング。飛距離は落ちる可能性があるが、安定した球筋が得られるもの。これは、優勝争いなど重圧がかかった場面で大きな力を発揮するだろう。

 初めてフルで挑む米ツアー。当面の目標を訪ねると、渋野は「やっぱり勝ちたいですね」と即答した。

「メジャーだけではなく、出る試合は勝ちにいきたい。私、大口叩いているけど、大丈夫かな(笑)」

 これから飛び込んでいく世界の舞台へ、ワクワクが収まらない渋野の気持ちが伝わってきた。

 波に乗れば、爆発力がある渋野。目指すツアー勝利は、そう遠くないうちに実現できるのではないだろうか。