毎年恒例の青学大・原監督による作戦発表。今回は「パワフル大作戦」 この時期に開催される箱根駅伝の前回上位校や有力校の監督が真面目に楽しく舌戦を繰り広げる「トークバトル」。例年、恵比寿のホールで一般のファンを入れて開催していたが、前回、今年と…


毎年恒例の青学大・原監督による作戦発表。今回は

「パワフル大作戦」

 この時期に開催される箱根駅伝の前回上位校や有力校の監督が真面目に楽しく舌戦を繰り広げる「トークバトル」。例年、恵比寿のホールで一般のファンを入れて開催していたが、前回、今年と2年続けてオンラインでの開催になった。参加したのは、前回2位の創価大・榎木和貴監督、前回3位の東洋大・酒井俊幸監督、前回4位の青学大・原晋監督、そして前回7位、今年の全日本大学駅伝3位の順天堂大・長門俊介監督、前回10位で今年の出雲駅伝優勝の東京国際大・大志田秀次監督の5名だ。

 そのはじまり、口火をきったのは青学大・原監督だ。

 待っていましたとばかり、毎年恒例の作戦名を披露した。

「今回の青学大はエントリ―16人全員が1万m28分台。青学史上最高です。我々は、力がある。パワフルに箱根を駆け抜けたい。そんな思いで、"パワフル大作戦"を発令いたしました」

 原監督のパフォーマンスから始まったトークバトルだが、この日(12月10日)は箱根駅伝出場校で、16名のエントリ―メンバー発表の日でもあった。

 どの大学も大勢の部員がいるなか、16名に絞るのは大変な作業になるが、比較的順当に選考できたと自信を見せたのは、前回、総合2位に躍進した創価大の榎木監督だ。

「今回のメンバーは、1年生から4年生までバランスよく組めたと思います。これからしっかりと上位で勝負できる選手、そして4年生は覚悟を持って箱根に調整してきた3名を選んでいます」

 4年生は、エースの嶋津雄大と山担当の三上雄太に加え、中武泰希が選出されている。

「勢いがあるのは、箱根未経験者で言うと3年の緒方貴典と4年の中武ですね。1年生も先日の記録会で28分台を出して、先輩にチャレンジしていく気持ちの強さがあるので、駅伝でも使ってみたいと思っています」

 東京国際大もエントリーメンバーについては、穴のない構成になっている。大志田監督の表情から少しばかり余裕を垣間見ることができる。

「出雲、全日本を走ったメンバーに加え、私は4年生にこだわるので、最後に伸びてきて使いたいなと思わせる選手が出てきたのは大きな力になります。山谷(昌也・3年)はふたつの駅伝を走っているし、彼の存在があるのでうちは大きくオーダーを変えることができると思っています。丹所(健・3年)は出雲後、故障して全日本では少し痛みが残っていたんですけど、今は練習を消化していますので、全体的に思ったような区間配置ができるかなと思っています」

 出雲駅伝、全日本大学駅伝で活躍した1年生の佐藤榛紀を選出できなかったことは、影響が大きいと思われるが、出雲駅伝4区5位の白井勇佑(1年)を含め、3名のルーキーが選出されており、彼らの走りに期待が膨らむ。

 順大の長門監督も出雲、全日本駅伝出場組の選手が全員、箱根駅伝にエントリ―されており、自信を見せた。

「これだけ1万mの記録が出ているなか、本学は記録にこだわらずに1年間、取り組んできていますし、そのなかで勝負強さとか、しっかりとチャンスをものにできた選手をエントリ―しました。3年生に力のある選手が多いので、以前、優勝争いをしていた時、クインテットと呼ばれていたのですが、彼らには『令和のクインテット』になってほしいと思います」

 クインテットとは、五重奏、5人編成の演奏という意味だが、駅伝用語に変換すると力のある選手が結集し、彼らの走りが順大の駅伝の主要メロディを担うというイメージだろうか。期待する選手は、当然だが三浦龍司(2年)だろう。

「三浦は、1万mを走っていないですが、走れば27分40秒は簡単に出てしまうと思います。三浦に期待していますが、四釜(峻佑・3年)と平(駿介・3年)は名前がしゅんすけで『ダブルしゅんすけ』の活躍がキーポイントになってくると思います」

 これから箱根駅伝まで順大がクローズアップされる際は、三浦の他にも「令和のクインテット」「ダブルしゅんすけ」がキーワードになり、何度も登場してきそうだ。

 16名の選考で苦しんだのは、東洋大・酒井監督だ。

「今年はエース級の選手の故障が長くて、非常に苦しいシーズンでした。そのなかで中間層の3年生が力をつけてきたので、この学年のエントリ―が多いです。1年生もオンライン授業で通学する時間をトレーニングに当てることができたので、例年よりも箱根に絡んでくる選手が多いのかなと思います」 

 1年生は、出雲、全日本で区間賞を獲った石田洸介、全日本5区4位と好走した梅崎蓮、吉田周がエントリ―されている。だが、東洋大は、やはり4年生の活躍が欠かせない。そういう意味では全日本大学駅伝でテーピングをしながらアンカーで走った宮下隼人(4年)が戻ってきたのは大きい。ただ、エース候補の松山和希(2年)は全日本7区13位と不安が残る結果になった。

「宮下は、全日本は、70~80%の力で8区6位でした。その後、バランスを修正して、テーピングがいらないほど回復してきています。松山は、宮下と同じように今年、出遅れているんですが、箱根2区のコース適性が非常に高いので、そこで力を発揮してほしいと思います」

 エントリ―を見ると今回は2年生と1年生が中心になりそうで次回以降、力を発揮しそうだ。

 青学大の原監督も「16名を選ぶのに大変苦労しました」と語った。

「うちは1万mで上位10名のうち8名がエントリ―されています。今回、山内(健登・2年)と小原(響・2年)という選手がいるんですが、彼らはトラックの練習で落とした走りだったので16名から漏れました。強化合宿で目片(将大・3年)、鈴木(竜太朗・2年)は非常にいい練習をしていたんですけど、残念ながら外さないといけなかった」

 青学大の場合、正直、誰が走っても遜色ない走りを見せてくれそうだが、原監督が箱根駅伝のエントリーメンバーのなかで期待する選手として挙げたのが、近藤幸太郎(3年)だ。

「青山にはエースがいないと言われますが、近藤が全日本でほぼ同時にスタートした駒澤の田澤(廉・3年)君と最終的に20秒差でおさまった。今年1年でずいぶん成長したなと思いましたし、よりパワフルになってきましたね。岸本(大紀・3年)は、多少、足に痛いところが出ているので、3週間のなかで仕上げていきたいと思います」

 これから本番までの3週間の調整期間は選手のコンディションとピーキングに細心の注意を払って練習を継続していくわけだが、原監督は、ライバル校について、こう語る。

「前回の創価大はまぐれだったなぁと思っていたんですけど、春からえらい力をつけてきたので、マークしないといけない大学になりました。東洋さんは箱根駅伝には滅法強いですし、5区の宮下君の存在が非常に大きい。駒澤の田澤君は、日本で最高のランナーだと思いますので、非常に怖い存在ですね。あと鈴木芽吹君がどれだけ上がってくるのかで、総合優勝が決まるかなと思います。いずれにしても今回の箱根は混戦だと思います」

 混戦──今年の大学駅伝を語る上でのキーワードになっている。出雲は東京国際大が3区から独走したが、全日本大学駅伝は各区間で先頭が入れ替わる激烈な駅伝になった。箱根の前哨戦ともいえる全日本であれだけの混戦となっているので、必然的に箱根も往路を含め、激しいたたき合いになりそうだ。

 その上で、東洋大の酒井監督は、今回の箱根駅伝では「往路優勝、復路『?』 総合3位」という目標を掲げた。

「往路は、前回大会の4人の経験者(児玉悠輔、松山和希、前田義弘、宮下隼人)が残っていますし、昨年も2位になっているので、さらに上を狙っていきたいですね。復路は、その流れのなかで3位になっているので、今回も狙っていきます。ポイントは山ですね。出雲や全日本にはない要素ですので、5区6区はすごく大きなポイントだと思います」

 出雲3位、全日本は10位と沈んだ東洋大だが、箱根でどのくらい巻き返せるのか。

 東京国際大の大志田監督が掲げた目標は、東洋とほぼ同じだ。

「目標は、往路3位、復路は流れで、総合3位内です。往路はヴィンセントがいますし、日本人選手もだいぶいい走りができるようになりました。駅伝は流れを作るのがセオリーなので、往路で順位を確保して、復路は流れで伸び伸びと順位を決めずについていって、総合3位内に入れればいいなと思っています」

 出雲で優勝、全日本では5位だったが6区では一時トップにも立った。選手は自信をつけ、戦える力を持っていることを証明した。「ヴィンセント区間」は、各大学ともお手上げだが、そこでどれだけ差を広げ、次に余裕をもって襷(たすき)をつなげるか。往路は東京国際大が突っ走りそうだ。

 順大の長門監督は、全日本3位になり、三浦を擁していることもあって前評判がいい。

「今回の目標順位は往路3位、復路3位、総合3位です。三浦がどういう走りをしてくれるのか楽しみですけど、まだ上位チームとは差があるのかなと思っていますし、駅伝はデコボコするので安定した走りで3番を狙います」

 3年生を中心に大砲・三浦が昨年1区10位の悔しさを晴らすべく、どんな走りを見せてくれるのか。三浦がいい流れを作れば、「チャレンジングな走りをしたい」という長門監督の願いどおり、おもしろいレースが展開できそうだ。

 創価大は、前回2位という成績だったが、完璧な流れを作った駅伝を見せてくれた。今回の目標について榎木監督は「往路優勝、復路3位、総合3位内」を掲げた。

「往路優勝は、前回は勢い半分なところもありましたので、今回の箱根は狙って往路で優勝したいと思っています。経験者が多くいますし、彼らが1万mのタイムを上げてレベルアップし、選手が往路優勝を狙いたいという気持ちが強くなっているからです。復路は、前回はアンカーで取りこぼしがありましたけど、今回は選手のレベルアップができているので、自信をもって復路も3位内を狙っていきたい」

 たまたまその順位になるのと、狙ってとりにいくのでは意味がまるで異なる。狙っていくという宣言は力がなくてはできないこと。今回の創価は前回同様、往路で流れに乗れば、復路もそのまま流れて総合優勝というのも十分可能だ。

 「史上最強」と自ら語る青学大の原監督は、完全優勝に自信満々だ。

「往路1位、復路1位の完全優勝が目標です。指揮官が2番、3番と言っているようじゃダメ。今のところ順調にきていますし、前回は山でブレーキがありましたけど、その穴埋めは今年十分できると思っています。コンディションが整えば、大会記録の10時間45分23秒の更新もできるんじゃないかなと思います」

 全日本大学駅伝で最後に生き残り、競い合ったのは青学大と駒澤大だった。長い距離になれば地力のあるチーム、選手層の厚いチームが有利になる。この2強に割って入り、駅伝をおもしろくさせてくれるチームは果たしてどこになるのか。それがトークバトルに参加したチームから出ても何ら不思議ではない。