長野県南佐久郡の滝沢牧場を舞台に、シクロクロスレースイベントとして愛されている「スーパークロス野辺山」が、今年は、英国のサイクルアパレルブランド「Rapha」と、サイクルロードレースをテーマとしアニメや漫画で大ヒットしている「弱虫ペダル」を…

長野県南佐久郡の滝沢牧場を舞台に、シクロクロスレースイベントとして愛されている「スーパークロス野辺山」が、今年は、英国のサイクルアパレルブランド「Rapha」と、サイクルロードレースをテーマとしアニメや漫画で大ヒットしている「弱虫ペダル」を冠スポンサーとし、「Rapha弱虫ペダル スーパークロス野辺山2021」として開催された。昨年は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中止だったため、2年ぶりの開催となる。



滝沢牧場に設営された特設コースで開催されたRapha弱虫ペダル スーパークロス野辺山

シクロクロスとは、ロードやマウンテンバイクレースのオフシーズンに開催されるオフロードレースのこと。舗装道路、泥、草地など、様々な路面状況を含めた小ぶりの周回コースを用い、上り階段など「自転車に乗ったまま走破できない」障害物を設定することも条件となる。周回コースで観戦しやすく、飲食等と共に楽しめ、レース自体もドラマックでパワフルであることなどから、本場ヨーロッパの上位レースとなると、数万人の観客を集める人気種目だ。



美しい山々を望む滝沢牧場のコース



会場内には泥だらけになるバイクを洗浄するための設備も

土手や公園などを活用し、コースを設計しやすいこともあり、国内でも開催レースが近年急増している。低速で、路面も柔らかいため、転倒してもケガをしにくく、「大人の障害物競走」的な存在として、参戦する一般参加者の数も年々増えているようだ。
スーパークロス野辺山は、その中でも別格の人気を誇り、毎年多くの参加者、観客を集める大会だ。今年は11月13日~14日の2日間に渡って開催された。未就学児、キッズ、ジュニア、一般男女のレベル別のカテゴリー、マスター、そして男女エリートと、あらゆる層が参加できるレースが開設されており、男女の最上位カテゴリーであるエリートは、2日間共に設定され、2日目はUCI(世界自転車競技連合)の認定レースになっている。
今回は多様な楽しみ方ができるこの大会の2日目の様子をお伝えしよう。

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朝8時、小学1・2年のキッズCK1からレースが始まった。ミニコースを用いた10分ほどのレースだが、子供たちは真剣そのもの! 1分刻みで、小学3・4年のCK2、小学5・6年のCK3とスタートが続く。



学年ごとに設定されるキッズレース。キッズとはいえ、堂々とした走り!



キッズ表彰式。胸にはスイスなどの観客がシクロクロス観戦時に鳴らすカウベルがメダルの代わりにかけられた

このあと、1分後には女性の3カテゴリー、CL3がスタート。シクロクロスは、ドロップハンドルがついたオフロードバイクであるシクロクロスバイクを用いるが、キッズや、2、3などの一般男女の初級カテゴリーは、フラットバーのマウンテンバイクでも参加することができる。この日、CL3カテゴリーは小学生と同じミニコースを使用し、エントリー層でもチャレンジしやすい形に設定されていた。



カテゴリー2の勝者、渡辺将大(CycleClub.jp)

この後は、ショートコースに切替られ、男女の初中級カテゴリー、マスターカテゴリーが開催された。マスターカテゴリーには、引退した有名選手らが多く参戦する。熟練のライダーたちの戦いに、会場は大いに盛り上がった。



未就学児のキンダーガーデン。かわいらしさに大人は釘付けに



完走賞のチョコのメダルを首に、ごほうびの白菜をもらい誇らしげなキッズライダー

そしてホームストレート付近では、大会の名物でもある未就学児「キンダーガーデン」レースがスタート。このカテゴリーは、ペダルなし自転車も参加が許可される。緊張した面持ちでスタートを待ち、一生懸命前に進む姿は微笑ましく、観客たちの温かい拍手を受けながら、ちびっこたちが特設コースを駆け抜けた。



木の根が露出した木々の間を這うコースを抜ける難セクション



低速になるコーナーには多くの観客が集まる

2年ぶりの開催を祝うかのように、この日は多くの観客が滝沢牧場を訪れた。牧場やキャンプ場を利用して設計されたコースは、舗装道路の上り、砂利のコーナー、キャンプ場の中を這わせ、コーナー区間が続くエリア、フライオーバー(立体交差)など、テクニックとパワーを必要と要素が詰まったものだが、同時に観戦を前提に設計されているため、観客たちも大いに楽しむことができる。味自慢のグルメブースが多く並ぶのも特徴で、観客たちはドリンクや食事を楽しみながらレース観戦を楽しむことができるのだ。



人気のグルメブースが並ぶ。飲み食いしながら観戦を楽しむのがシクロクロスのスタイルだ



地元の食材を生かしたグルメが特に人気!

ここからは、コースがフルコースに変わり、UCI認定のカテゴリーのレースが始まる。最初に開催されるのはUCIジュニアカテゴリー。近い未来の日本のトップ選手たちが、例年大人顔負けの戦いを見せるレースだ。



スタート後の第一コーナーを先頭で回る永野昇海(イナーメ信濃山形)



先頭を誰にも譲ることなく優勝した永野

今年は、この前週開催された幕張クロスのジュニアカテゴリーでも優勝した永野昇海(イナーメ信濃山形)が、トップで飛び出し、そのまま独走を続け、フィニッシュするという圧巻のパフォーマンスを見せた。

女子エリートカテゴリーには、21名が参戦。福田咲絵(AX cyclocross team)が飛び出したが、前日のエリート女子を制した渡部春雅(明治大学)が福田をかわし、先頭に立つと、そのまま独走体制に入った。当初の差は5秒程度だったが、渡部はこの差をじわじわと広げていく。



独走態勢に入り、そのまま福田との差を開く渡部春雅(明治大学)



溝区間を跳ぶ松本璃奈(RIDE MASHUN SPECIALIZED)

福田も粘るが、この差を縮めることはできなかった。渡部はこの差を20秒まで開き、独走のままフィニッシュ。



単独でフィニッシュラインを越えた渡部



女子エリートの笑顔の表彰台

福田は2位の座を守り、ダウンヒルの全日本チャンピオンであり、シクロクロスでも全日本優勝経験を持つ松本璃奈(RIDE MASHUN SPECIALIZED)が3位に入った。

大会の最後を飾る男子エリートには、100名の選手が参戦した。スタートが大きな意味を持つシクロクロスで、第一コーナーをトップで回ったのは昨年のシクロクロス全日本全日本選手権を制し、今季はロードでも存在感を見せた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)だった。



男子エリートのスタート。ポイント順に整列するため、前列には強者が並ぶ

沢田の後には、シクロクロスの開幕を待ちわびていた強者たちがぴったりと続く。今季、ロードはスイスに籍を置く育成チームNIPPOプロヴァンスPTSコンチに在籍して走っていた織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、全日本チャンピオンの経験も持つ小坂光(宇都宮ブリッツェン)らが、沢田を追った。



すばらしいスタートを切った沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)。後ろに織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、斎藤朋寛(RIDELIFE GIANT)、小坂光(宇都宮ブリッツェン)が続く



「バニーホップ」でシケイン(障害物)を跳ぶ織田

1日目のエリート男子では、ドライコンディションのハイスピードレースとなり、沢田と織田の2名が長時間にわたり先頭を走る一騎討ちの戦いとなったが、2日目もコースは同様のドライコンディション。前日と同じ、序盤からハイペースでレースが進んでいく。
ただ、この日は早々にレースが動いた。織田が上り区間でキレのあるアタックを仕掛けたのだ。この動きに小坂は対応できず遅れてしまう。
またもや、織田と、前日の覇者沢田との一騎討ちになるかと思いきや、沢田のバイクがメカトラを起こし、ピットインして、バイクを交換することに。



マシントラブル時には自身のスタッフがスタンバイする「ピット」(左側のレーン)に立ち寄り、バイクの交換を行う。交換したバイクで走る沢田を見送るスタッフたち

沢田は追い上げてきた小坂にも抜かれてしまったものの、交換後のバイクで調子を取り戻し、再び小坂をかわし、2位に追い上げる。



小坂と合流し、先頭を追う沢田



単独で先頭を走り続けた織田



溝を絶妙なテクニックでクリアする沢田

この間にも、先頭を独走しながら、スピード区間を全力で走り、黙々と前へ進んでいた織田との差は開いていた。沢田も懸命に織田を追うが、差を詰めることができない。
勝利を目指し、緊張感を保ち先頭を走る織田と、連勝を目指し先頭を追う全日本チャンピオンの沢田。織田は最後の最後まで独走を続け、10秒以上のリードを保ったまま、フィニッシュラインに飛び込んだ。



大会の冠スポンサーでもある「弱虫ペダル」を指差しながらフィニッシュする織田

3位には、同じく序盤からの位置を守って走り抜いた小坂が入った。この日の表彰台には、前日と同じメンバーが1位と2位を入れ替えた形で並び、3名は2日間の厳しい戦いを振り返り、健闘を称えあったのだった。



牧場らしい演出がほどこされた表彰台

100名がスタートしたレースだが、フィニッシュまで走り切れたのはたったの14名。フルスピードの厳しい戦いとなった。

2日間にわたって開催されたスーパークロス野辺山は、男子エリートの表彰式をもって閉幕。最後まで多くの観客が会場に残り、惜しみない拍手を送っていた。
参加者も、観客も、年齢性別やレースへの知識の有無も問わず、皆が大いに楽しんだRapha弱虫ペダル スーパークロス野辺山。来年は、海外からの参戦も復活し、通常開催となり、また見どころ、楽しみどころが増えることだろう。

今季のシクロクロスは、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大を受け、国際UCIレースの開催が減ってはいるが、今後も重要なレースが続く。展開がわかりやすく、レース時間も短く、観戦しやすいため、レースビギナーの観戦デビューにもオススメだ。興味のある方は、AJOCC(一般社団法人 日本シクロクロス競技主催者協会)サイトをチェックし、ぜひ足を運んでみてほしい。

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【結果】エリート女子
1位/渡部春雅(明治大学)
2位/福田咲絵(AX cyclocross team)
3位/松本璃奈(RIDE MASHUN SPECIALIZED)
4位/中島瞳(弱虫ペダルサイクリングチーム)
5位/西形舞(TRC PANAMAREDS)

【結果】エリート男子
1位/織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)
2位/沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)
3位/小坂光(宇都宮ブリッツェン)
4位/竹之内悠(ToyoFrame)
5位/村上功太郎(松山大学)

画像提供: Kei TSUJI /Raphaスーパークロス野辺山
AJOCC(一般社団法人 日本シクロクロス競技主催者協会)