ホンダF1参戦最終年最終戦最終周、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが、歴代最多の100勝以上を挙げ7度の王者を獲得しているメルセデスAMGのルイス・ハミルトンを抜き去り、ホンダに30年ぶ…

ホンダF1参戦最終年最終戦最終周、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが、歴代最多の100勝以上を挙げ7度の王者を獲得しているメルセデスAMGのルイス・ハミルトンを抜き去り、ホンダに30年ぶりのドライバーズ・チャンピオンをもたらした。いったい、誰がこんな幕切れを予想しただろうか。

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■2020年に突然の撤退を発表

ホンダは2020年10月2日、せっかく勝てるようになったF1の活動を「2021年シーズン限りで終了する」と発表。「マクラーレン・ホンダ」そして、アイルトン・セナとのコンビで80年代後半、87年から91年までドライバーズ・チャンピオン5連覇を果たしたホンダ・パワーユニットながら、その後の挑戦では苦い思い出ばかりだった。

2000年に日本のモータースポーツ・ファンを歓喜させた第3期の参戦では06年第13戦となったハンガリーGPでジェンソン・バトン果たしたわずか1勝のみで08年に撤退。よもやよもやの結末に日本中のファンが臍を噛んだことだろう。

第4期2015年には、かつて黄金期を築き上げた「マクラーレン・ホンダ」として復帰。だが、ここでもフェルナンド・アロンソ、バトンという元チャンピオン・ドライバー2人を擁しながら1勝も挙げられず17年シーズン限りで提携を解消。18年にはトロ・ロッソ(現アルファタウリ)にエンジンを供給、この流れで19年にレッドブルとコンビを組むと、第9戦オーストリアGPでフェルスタッペンがホンダに13年ぶりの勝利をもたらす。このシーズンは3勝を挙げ、コンストラクターズ・ランキングも3位に浮上。20年は2勝に終わったものの、17戦中13度の表彰台を獲得し、ランキングも2位につけていた。そんな最中のF1撤退発表だっただけに、ファンを驚きとともに悲嘆にくれた。

■感謝と感動、そして奇跡の最終戦

こうした迎えたホンダ・ラストイヤーの2021年、18戦終了までにフェルスタッペンが9勝、セルジオ・ペレスも1勝と計10勝を記録しながら、F1史上ただひとり100勝以上を達成している絶対王者ハミルトンの安定かつ卓越したドライビングと意地を見せつけられ、ドライバーズ・ポイント369.5点というまったくの同点で最終戦を迎えた。

この日、フェルスタッペンはポールポジションからのスタートながら、第1コーナーでハミルトンにインを許し、そのまま首位を許す展開。しかも、フェルスタッペンのレースペースは上がらず、45周を終えた時点でハミルトンとの差は13秒程度、残り周回で1周に1秒程度の差を詰めなければ逆転はなく、ここでむしろハミルトン8度目の王者が見え、ホンダ逆転のシナリオは摘み取られたように感じた。

アブダビGPで有終の美を飾ったレッドブル・ホンダ(C)ロイター

しかし、勝利の女神はホンダに微笑んだ。

残り5周でウイリアムズのニコラス・ラティフィがクラッシュ、セーフティカーが導入され、首位との差は帳消しになると同時に、ピットイン作戦を取れないハミルトンを尻目に、フェルスタッペンはニュータイヤに。周回遅れのマシンが首位と2位の間に挟まる奇妙なシーンが続くが、直後の判断でクリアになると残り1周でレース再開。タイヤのアドバンテージを生かしたレッドブルは果敢にメルセデスをパス、そのままチェッカーを受けた。

上位でフィニッシュしたドライバーがチャンピオンを手にする戦いで、2位キープを強いられていたフェルスタッペンとホンダに運が味方したとしか考えられない展開だった。フェルスタッペンも「ジェットコースターに乗っているような気分だった。ラストラップまでチャンスは見えなかった。『最後まで力を出し切るだけ』と思っていたが、それができた」と喜びを爆発させた。

ホンダF1の田辺豊治テクニカルディレクターは「ホンダF1参戦最後の年、最終レース、ラストラップでフェルスタッペンがトップに立ち、チェッカーを受けました。我々の努力と挑戦が報われ、本当に感無量です」と感動をコメントに残している。

さらに最後に「これで我々の挑戦は終わりますが、この経験は将来のホンダの技術に必ず生きると確信しています。ホンダはこの先も、あらゆる領域での技術の調整を続けていきます。本当にありがとうございました」と感謝で締めくくった。

(C)honda

この日、ホンダの公式サイトには、1964年以降F1に挑戦、そのライバルたちへの「ありがとう」というコメントに加え「じゃあ、最後、行ってきます。」と一文が掲載されていた。これに対しSNSには「ありがとうHONDA」のハッシュタグが踊るほど話題に。その「最後、行ってきます」の旅路が、まさかの展開をもたらすとは……。

■有終の美を飾ったホンダのこれから

ホンダは10月7日、F1パワーユニットの技術を「レッドブル・パワートレーンズ」に移管すると発表。また、国内ではホンダ・レーシング・コーポレーション(HRC)がサポートする体制となっている。

それにしてもメルセデスのバルテリ・ボッタスを押さえアルファタウリの角田裕毅が4位とキャリア最高位のフィニッシュ、同じくピエール・ガスリーも5位と「ホンダ黄金期」を彷彿とさせる結果だけに、ホンダさん、本当に撤退?

ホンダ・エンジンがドライバーズ・チャンピオンを輩出するのは91年のセナ以来6度目。これまでにネルソン・ピケ、セナ、アラン・プロスト、フェルスタッペンと4人が戴冠。それにしても30年ぶりとは、今の若い世代は「チャンピオン・エンジン=ホンダ」を初めて目にするに至るのか……感慨深い。さて、ホンダによるチャンピオンの系譜はフェルスタッペンで本当に最後となってしまうのか。

最高の最後を劇的なシナリオで勝ち取ったホンダは、これからどんな歩みを続けていくのだろう。今は日本のファンとしても、この喜びを噛み締めたい。

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著者プロフィール

たまさぶろ●エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

『週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨークで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。

リトルリーグ時代に神宮球場を行進して以来、チームの勝率が若松勉の打率よりも低い頃からの東京ヤクルトスワローズ・ファン。MLBはその流れで、クイーンズ区住民だったこともあり、ニューヨーク・メッツ推し。