一人の記者が届ける「THE ANSWER」の新連載、第12回は女子ゴルフ・上田桃子 2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」を…

一人の記者が届ける「THE ANSWER」の新連載、第12回は女子ゴルフ・上田桃子

 2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」をスタートさせた。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、12月1日から毎日コラム形式でお届け。第12回は、女子ゴルフの上田桃子(ZOZO)が登場する。4月には国内ツアー・KKT杯バンテリンレディス(熊本)に出場。自然災害に見舞われた故郷・熊本を想いながら、堂々とプレーする姿があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 見てくださる方に勇気や感動を与えられるようにプレーしたいです。

 聞き慣れたフレーズほど人の心に響きづらい。そもそも本心なのか疑念を抱いてしまう時でさえある。取材に慣れていない若い選手の中には、その場の空気感で“言わされる”なんて人も。ましてや長く続いたコロナ禍。嫌味に聞こえてしまう人もいるだろう。

 東京五輪の開催可否に揺れる中、選手たちはスポーツへの批判的な声を想像し、必要以上に発言に気をもんだ。たとえ心の底から思っていても、「勇気や感動を与えたい」と言いづらい時代。そんな中、堂々たる姿にカッコよさを感じさせる選手がいた。

「元気な姿で戦っているところをお見せしたい。『このショットが見たかった』と思ってもらえるものを打ちたい」。最大震度7を観測した熊本地震からちょうど5年の今年4月15日。地元大会を翌日に控えた上田の言葉は熱を帯びた。言い回しは少し違うかもしれないが、根底にある想いは同じ。故郷にパワーを与える腹づもりだった。

 2016年大会は開幕前夜に地震が発生し、中止に見舞われた。上田も熊本市内の実家で被災。家の壁は崩れ、建て替えを余儀なくされた。翌週から試合に出場し、募金活動などに奔走。年末に更地となった実家を見ると「全てが消えた気がした」と心に刺さった。

「やるしかないよ!」。16年オフに触れ合った地元の人たちは明るく笑っていたという。上田は与えるはずの元気を逆にもらい、17年大会に出場。「熊本の人の前ではしっかり前を向いてプレーする」。懸命な姿はギャラリーに熱をもたらした。相乗効果で増していく熱気。16年に被災し、17年大会も取材した私は、上田と「火の国」の力強さを見た。

コロナ禍で迷った全英出場「いつも挑戦していたい。それを見せるのも大事」

 結びつきの強い両者。20年8月、上田は全英女子オープンの出場を決めた時も強い想いを抱えていた。帰国後は2週間の自主隔離で国内ツアー2試合に出られない。感染リスクもある。出場権が舞い降りてきた時期は、熊本が記録的豪雨に見舞われていた。

 迷った末に挑戦を決断した。一回り年下の若手と第一線に立つ35歳。いまだ冷めない情熱がここにある。

「何でも決断する時は『自分がどうしたいか』を大事にしている。(日本で)試合もあまりないし、それだったら向こうで頑張って、ちょっとでも『熊本人、頑張ってるな』と思ってもらえる方がいい。いつも挑戦していたい。海外に行くことには家族の反対があったけど、いつもチャレンジしている姿を伝えるのも大事。いろいろな意見はあるだろうなと想定しつつも、チャレンジしたところを見せたいという気持ちの方が大きかった」

 海外メジャー自己最高の6位。豪雨災害を受けた地元へ、獲得賞金から1000万円を寄付した。

 熊本地震から5年が経っても、400人以上が仮設住宅だった。上田は今年も3日間を全力でプレー。「身近な人が大変な生活をしていて、自分の両親も熊本で生活をしているので(再び自然災害が起きないか)心配になる。今まで以上に深く、強く考えることがある」。無観客だったが、故郷への想いを胸に「少しでもテレビに映る位置(上位)で回りたい」と戦い抜いた。

 アスリートが頑張ったからといって世間の問題が解決するわけではないが、一歩踏み出す力にはなる。選手にとっても、人が喜ぶ姿はモチベーション。今年5月、上田は2年ぶりの優勝を果たした。言葉でも、背中でも想いを表現するアスリートはカッコいい。強い説得力もある。「勇気や感動を」という想いを“本気で”表現しようとする選手がいたら、真正面から雄姿を見守りたい。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)