ついにこの時が来てしまった。ホンダF1最後のレース。2015年から7年間に渡って彼らが挑んできた戦いは、この週末に終わりを告げる。「ついに最終戦が来たなという感じです。今まで毎回『残り何戦でどうですか?』と聞かれてきましたが、その時はまだ…

 ついにこの時が来てしまった。ホンダF1最後のレース。2015年から7年間に渡って彼らが挑んできた戦いは、この週末に終わりを告げる。

「ついに最終戦が来たなという感じです。今まで毎回『残り何戦でどうですか?』と聞かれてきましたが、その時はまだまだ先だし最後までやるぞという気持ちでした。さすがに最終戦になってこれで最後の1戦だとなると、いろいろ思うところはあります。

 ですが、チャンピオン争いも含めて最後まで全力を尽くすだけ、という感じです。我々のメンバーは当然、最終戦ということで気合いが入っています。ただ、だからといって浮き足だったところはありませんし、私からは『最後まできっちりと仕事をして、チームと一丸となって全力を尽くしましょう』という話をしました」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。



フェルスタッペンは最終戦でどんな走りを見せるのか

 しかしまだ、最終戦にしんみりとするような暇はなかった。サウジアラビアGPのあとはすぐにアブダビへと移動し、この最終戦に向けた準備に忙殺されていたからだ。

「月曜にアブダビへ移動し、火曜・水曜はサウジアラビアGPのレビューをしてパワーユニットの使い方などを見直しました。特にサウジは特殊なサーキットでしたから、我々としてもいろいろ学んだことがありました。

 そのあたりをHRD SakuraやHRD MKと会議をして、この最終戦に向けてパワーユニットのパフォーマンスをできるだけ上げるという観点から、どういうことができるのか、そのためにはどういうセッティングをしていけばいいのか、準備していました」

 ハードウェアはもう変えられない。しかしそんななかでも最後の最後まで、0.1馬力でも多く絞り出し、1/1000秒でも速く走るための努力は惜しまない。

「できることはすべてやり、悔いのないかたちでシーズンを終えたい」

 開幕時にそう語っていたとおりの9カ月間を、ホンダは過ごしてきた。だからこそ、最終戦を前に両タイトルを争う位置にいる。

【フェルスタッペンの主張は?】

 少々残念なのは、ここ数戦の荒れたレース内容で、マックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンのタイトル争いの周辺に雑音が多いことだ。

 前戦サウジアラビアGPではフェルスタッペンの度重なる強引なドライビングの末に、両者が接触するアクシデントが発生して波紋を呼んだ。

 フェルスタッペンにはペナルティが科され、スチュワードは「違反」と断じたものの、フェルスタッペン自身はそれを「受け入れられない」としている点にも不安が残る。両者リタイアとなれば、同点ながら勝利数でフェルスタッペンが王座を獲得するとあって、過去に何度か演じられてきたような安易な決着は避けようと、FIAがポイント剥奪の可能性にも言及するまでの事態となった。

「レース週末を迎えるにあたって、ドライバーとしてそういうことは考えないよ。チームとともに全力を尽くすことと、もちろん勝つことだけを考えている。ふたりとも勝ちたいと思っているし、論争を呼ぶような裁定によってではなく、コース上でのアクションによってね」(フェルスタッペン)

 サウジアラビアGPのバトルに対する裁定を巡って、フェルスタッペンにはルールを正しく理解していないのではないかと思われる言動が多々見られた。

 そしてレースを多角度から見直し数日経った今でも、その考えに変わりはないとフェルスタッペンは明言した。

「間違ったことはしていないと思っている。僕らは2台ともターン1で白線を割ってコースオフし、僕のミスだと判断された。僕はそれに同意できない。もうひとつのペナルティ(ブレーキングに対する10秒加算ペナルティ)もだ。その点にも同意しない。

 その後、彼は僕を押し出したんだ(43周目のターン27)。彼はターンインしていかず、僕を白線の外に押し出した。でも、それに対して警告もなかった。間違いなくそれはおかしい。フェアではないよ」

 しかし、37周目のターン1でハミルトンがコースオフしたのは、フェルスタッペンのレイトブレーキングによって押し出されたからだ。フェルスタッペンはコース内に留まりきれないほどのブレーキング、つまりミスを犯したが、その飛び込みがなければハミルトンはコース内に留まることができるラインでターン1へと入って行けた。だから、フェルスタッペンの解釈は間違っている。

【ルールが公平ではない?】

 43周目のターン27についても、ハミルトンは直前にフェルスタッペンを抜いて前に出ており、入り口でマシンの大部分を並べることができていないフェルスタッペンに対してスペースを残す義務はない。そしてハミルトン自身は、ターン1のフェルスタッペンと違いコースの外へは飛び出していない。

 やはりルールを正しく理解していないのか、もしくは実際には理解していて、あのようなドライビングをするつもりはないものの、ハミルトンに対して引かない姿勢を見せてプレッシャーをかけようとしているのか。

 後者であれば、接触でタイトルが決まるといった、誰も望まない結末にはならないだろう。

 しかし、フェルスタッペンのジェスチャーを見るかぎり、そうではなさそうだ。

 様々な質問が記者たちから投げかけられるたびに、フェルスタッペンは自分だけが不当な扱いを受けているという主張を繰り返した。

「明らかなのは、ルールが全員に公平に適用されていないということだ。ディフェンスの仕方という点で、僕と同じことをやったドライバーがふたりいたけど、彼らはペナルティどころか審議の対象にもなっていない。ほかのドライバーと比べて、僕には違うルールが適用されていると思う。僕は自分に何をやっても構わないのかわかっているけど、ほかのドライバーには許されることが僕には許されないんだ」

 そして、サウジアラビアGPやサンパウロGPで取ったような戦い方のスタイルを変えるつもりはないと語った。

「ほかのドライバーたちと同じことが僕には適用されていない。彼らが(ペナルティが科されておらず)間違っていないのなら僕は間違ったことはしていないのだから、なぜ僕が何かを変えなければいけないんだろう? あのようなレースの仕方が彼らに許されるなら、全員に許されるべきだ」

 フェルスタッペンが例に挙げたひとつは、ランス・ストロール(アストンマーティン)とジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)の追い抜きシーンだ。

【アイツがやっているから僕も】

 ストロールは1周目のターン7で混雑のなかで行き場を失い、ライン外からラッセルを抜いている。しかし、ストロールは3周目のターン27手前で右端に寄ってバックオフしてラッセルにポジションを譲り返した。その後、ラッセルを先行させたことでDRS(※)を得たストロールはメインストレートで抜き返している。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 まさに、フェルスタッペンがハミルトンに対してやろうとしたことを、ストロールは綺麗に実行した。フェルスタッペンも右端に寄ってブレーキングをしていれば、ハミルトンは先行せざるを得なかったはずだ。つまり、これは「違う扱い」ではなく、こうするべきだったというお手本でしかない。

 フェラーリの2台は22周目のターン1で、まさにフェルスタッペンとハミルトン(37周目)のような攻防を繰り広げていた。だが、前方で角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)がセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)に接触したことで黄旗が出て、ターン1アウト側にいたルクレールはランオフエリアに逃げてカットするかたちでポジションをゲインしている。

 ここまではフェルスタッペンと同じかたちだ。だが、直後にVSC(バーチャルセーフティカー)となり、フェラーリはレースコントロールの許可を得てVSC中の翌23周目のターン2出口でふたりのポジションをスワップしている。

 仮にほかの事例があったとしても、「アイツがやっているから僕もOK」ではなく、並んでターンインしていったバトルで相手に1台分のスペースを残さないのは「アウト」だ。ほかの全ドライバーが理解して守っているルールをフェルスタッペンも理解していれば、こんな主張にはならないはずだ。

 なにより、目の前のタイトル決定戦で勝つことに集中すると宣言しているのなら、そこはエネルギーを注ぐべき場所ではない。

【勝負はコース上で決するべき】

 フェルスタッペンに自身のドライビングをあらためる意思がない以上、同じような状況に直面すれば、これまでに何度かあったことはまた起きる。クリーンなタイトル決定のためには、フェルスタッペンとハミルトンが大きく離れるほどのマシン差があることを願うしかない。

 2021年シーズンはレッドブル・ホンダとメルセデスAMGの激戦が繰り広げられ、22戦を戦い、フェルスタッペンとハミルトンが同点で並んだ。結果以上にレース内容のドラマチックさという点で、70年間のF1史上でもベストなシーズンのひとつではないか。

 そんなシーズンの結末は、ぜひともそれにふさわしいものにしてもらいたい。勝負はルールの範囲内で、つまりコース上で決するべきだ。

 レースを終えた時、ここまですばらしいシーズンを戦ってきたふたりがお互いに健闘を讃え、握手を交わせる、そんな結末であるべきだ。

 フェルスタッペンも、レッドブルも、そしてホンダもここまで全力で戦ってきた。どんな結末であったとしても、それは数字上の結果でしかない。ここまでに彼らが努力と情熱を注ぎ、F1史上最高の高みまで登り詰めたという事実は変わらないのだから、チャンピオンであろうとなかろうと胸を張ってチェッカードフラッグを受けてもらいたい。

 そんな7年間の結末が見たい。