ゲーム主将としてチームをまとめた早大・小林賢太 ハードワークの勝利である。とくにディフェンス、接点、我慢の勝利である。伝統のラグビー早明戦。主将不在の早大が17‐7で明大に競り勝ち、3年ぶりの勝利を挙げた。宿敵を1トライに抑えたところにチー…



ゲーム主将としてチームをまとめた早大・小林賢太

 ハードワークの勝利である。とくにディフェンス、接点、我慢の勝利である。伝統のラグビー早明戦。主将不在の早大が17‐7で明大に競り勝ち、3年ぶりの勝利を挙げた。宿敵を1トライに抑えたところにチームの成長が見てとれる。

 晴天の12月5日。秩父宮ラグビー場には、新型コロナ禍の入場制限下、1万人余の観客が詰めかけた。試合終了直前、交代でピッチの外に出たゲーム主将のPR(プロップ)小林賢太は泣いていた。実直、誠実。顔をくしゃくしゃにしながら、ブレザー姿の長田智希主将と肩を抱き合った。

 記者会見。涙のワケを聞けば、ゲーム主将はエンジ色のマスク下の顔をほころばせた。

「過去、2年間、早明戦ではなかなか勝てなくて、すごく悔しい思いをしてきたので、勝って本当にうれしくて。まだノーサイドではなかったけれど、セーフティーリードだったので、感情が表に出てしまいました」

 勝負の分かれ目は、後半中盤の早大ゴール前ピンチの明大ボールのスクラムだった。点差はわずか3点。スクラムでは強力FW(フォワード)の明大に圧倒されていた。だが直前、早大はスクラムの要の右プロップを1年生の亀山昇太郎から4年生の木村陽季に代えた。これが奏功した。

 左プロップの小林ゲーム主将の述懐。

「あそこで(スクラムを)押されてしまったら、ペナルティートライだったり、トライをとられたりされてしまうので、8人全員が意思統一して、押すマインドを持ちました」

 まずセットアップだ。早大FWが結束して、ヒットした。右プロップの木村がぐっと沈んだ。ボールイン。明大が押す。それまで早大の右プロップはあおられていたのに、代わった木村はまだ元気だ。我慢した。一瞬、相手を抑え込んだ。明大は押しながらも、ボールコントロールを失った。

 ボールは明大ロックの足に当たって、早大側にこぼれ出た。早大SH(スクラムハーフ)の宮尾昌典がこれを拾って、ピンチを脱した。

 確かにスクラムは全体として圧倒された。でも、8人の結束マインドまでは崩壊しなかった。小林ゲーム主将は言った。

「自分たちが1年間、積み上げてきたセットアップのところ、8人全員が固まってヒットできた時には、そこがうまくいった。逆にうまくいかなかった時には、自分たちのセットアップのぶれであったり、8人がまとまれなかったりして、明治大学さんのプレッシャーを受けてしまいました」

 『バトル』、これがゲームテーマだった。とくに接点。1対1では、フィジカルに自信を持つ明大には負ける。ならば、明大1人に対し、早大は2人がかりで勝負する。4本の足を使って、対抗した。ポイントはレッグドライブ(足をかく)だった。「足の力」である。

 早大は昨季の大学選手権決勝において天理大にブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で完敗した。新チームが結成されたとき、全員で決勝戦のビデオをレビューし、その改善を課題とした。上半身に頼りすぎて、下半身の力を使っていなかった。レッグドライブが足りなかった。課題を克服するため、ヤマハ発動機でも指導した1996年アトランタ五輪レスリング銅メダルの早大OB・太田拓弥さんを招請し、週2日、早朝練習に取り組んできた。

 また、先の早慶戦では後半、長田主将が交代すると、ディフェンスが乱れた。だから、この2週間、ディフェンスを整備してきた。大田尾竜彦監督は言った。

「1年間、こういう接点を目指してきました。今日に関しては、全員で補い合っていく姿が見えたことが収穫かなと思います。タックルして、立ち上がったあと、みんなで"あっちいけ"とか、"こっちいけ"とか、声を掛け合っていた。選手を誇りに思う。頼もしいなと思いました」

 明大の戦術分析もうまくいっていたのだろう。相手の攻め手をほとんど封じた。いわば読み勝ちだった。ベースは、豊富なワークレート(運動量)だ。これは練習の賜物。タックルしても、倒れてもすぐに立ち上がり、走って、次のプレーに備えた。そう言えば、早大のアカクロジャージにはGPS(全地球測位システム)がつけられている。ワークレートの数値は明大を凌駕したことだろう。

 攻守で目立ったのは、早慶戦に続き、ナンバー8の佐藤健次とSH宮尾の1年生コンビだった。1年前の全国高校大会決勝で戦った桐蔭学園高(神奈川)と京都成章高(京都)のそれぞれのエースだった。これも縁か。

 佐藤は再三、好突破を見せた。伸び盛りの18歳。初めての早明戦に、「スタンドに明治の旗が多くて、これはすごいアウェーだなと感じました」と記者を笑わせた。

「最初のコンタクトでイケるなと感触を持った。自分のテーマは、"1メートル1センチのところにこだわる"ことでした。トライをとられた瞬間は"やべえ"と思ったんですけど、でも焦ることもなく、自分たちのアタックをしていれば、いつかトライをとれると思っていました」

 大きな舞台になればなるほど、1年生ナンバー8はより力を発揮する。いわばプレッシャーゲームに強いタイプだ。なぜ?

「ビッグマッチと言うと、自分としてはまず、試合を楽しもうと決めているからです」

 宮尾は快足を飛ばし、好フォローから早大1本目のトライを挙げた。佐藤評を聞かれると、「花園(全国高校大会)の時は相手にいてイヤだなと思っていたけど、いまは心強い」と言った。

「ブレイクダウンでプレッシャーがあって、ボールをさばききれないところがあった。ただディフェンスをしていても、あまり(陣地を)下げられているイメージはありませんでした」

 かたや、4年生のFB(フルバック)河瀬諒介は、「しんどかったですね」と漏らした。

「長田キャプテンがいなくて、4年生の責任もあったので、そういう部分でもしんどかったかなと思います」

 いざ大学選手権に挑む。早大は対抗戦2位が確定し、初戦(12月26日)では明大対天理大の勝者と戦うことになった。

 河瀬は言った。「自分たちができることをしっかりやって、最後は笑って終わりたいと思います」と。

 小林ゲーム主将はこうだ。

「まだまだディフェンスやアタックの部分で細かなミスがあるので、修正していかないといけない」

 この日欠場した長田主将は短い言葉に力を込めた。「これからが本番です」

 おおきな勝利だ。チームはまとまり、上昇傾向に乗っている。次は長田主将も復帰する。課題はスクラム。そこさえ互角に持ち込めば、覇権奪回が見えてくる。