ラグビー新リーグへの意気込みを語った横浜キヤノンイーグルス・小倉順平(左) 2022年1月7日、ラグビーの新しいリーグ戦である「リーグワン」がスタートする。 参加チームをディヴィジョン1、2、3の3つにカテゴリーに分け、従来のプレーオフを廃…



ラグビー新リーグへの意気込みを語った横浜キヤノンイーグルス・小倉順平(左)

 2022年1月7日、ラグビーの新しいリーグ戦である「リーグワン」がスタートする。

 参加チームをディヴィジョン1、2、3の3つにカテゴリーに分け、従来のプレーオフを廃止し、リーグ戦のみで順位を競う。ディヴィジョン1は、12チームがA、Bのふたつのカンファレンスに分かれ、全16試合を戦う。特徴的なのは、チーム名に地域名が入っていることだ。地域密着で「おらが街のチームを応援しよう」という方向性に舵を取り、Jリーグや野球のように定着していくことが期待される。

「めちゃくちゃ楽しみですね」

 横浜キヤノンイーグルスの小倉順平は、そう笑みを浮かべる。

 小倉は、桐蔭学園高校―早稲田大学と名門校を渡り歩いてきたキャリアを持つ。

 桐蔭学園時代は、主将として花園の高校選手権で東福岡高校と激闘を演じ、両校優勝となり、チーム初優勝に貢献した。松島幸太朗や竹中祥ら個性派をまとめてきたが、高校時代、一番大きな出来事は、自らのラグビー観が変わったことだった。

「小中時代は、ただボールを持って走るというか、戦術とかはなく、ただ監督に言われたことをやって、相手を抜いて走るみたいな簡単なラグビーをしていたんですよ。でも、高校に入るとそんなんじゃ抜けないわけです。2手3手先まで考えてプレーしないといけないですし、戦術的なことでもやることが増えたので、すごく苦労しました。でも、高校時代にベースを作れたおかげで、大学では戦術面で苦労することはなかったですね」

 桐蔭学園で優勝を果たし「45期レジェンド」という伝説を残して卒業、進学した早稲田大では、フィジカル面で苦労した。どうあがいてもどうにもならない体の大きさの違いに直面し、そのなかでどう戦うか、どう打開するかを学んだ。同時に異常な盛り上がりを見せる早慶戦や早明戦を経験した。

「早稲田は、伝統校でみんな試合への思い入れが激しくて、早明戦とかは試合前に校歌を歌いながら泣いているんですよ。フォワードの選手とかはそうして士気を高めてもいいかなって思いますけど、バックスは冷静に試合を見ないといけない。泣いている選手を見ながら自分は試合をどうしようかなって考えていました」

 早大を卒業後は、歴史が浅く、これから伝統を作る過程にあるチームに魅力を感じてNTTコミュニケーションズに入社。当初は社員選手だったが2017年にプロ契約に移行した。その1年前にサンウルブズでプレーし、選手同士で話をするなか、ラグビーをするならプレーに専念できる環境で挑戦したほうがいいとプロへと気持ちが傾いていったからだった。2020年には活動をサンウルブズ1本に絞るが、この時経験した世界との対戦が、自らのラグビー観をさらに広げることにつながった。

「サンウルブズでの経験は貴重でした。海外のラグビーは、戦術面であまり見たことがないことをやってくるので、それをチームメイトと話をして理解し、吸収していったんです。もちろん、うまくいかないこともあるけど、『違うやり方をやったらよくなった』という感じで、トライ&エラーを繰り返して小さなことを積み重ねていった。そうして自分のラグビーの幅が広がっていきました」

 その当時、サンウルブズでコーチングコーディネーターをしていたのが、現在、横浜キヤノンイーグルスで監督を務める沢木敬介だった。サンウルブズが解散したあと、小倉がキヤノンを選択したのは、沢木監督の存在が非常に大きかった。

「サンウルブズでプレーしている時からいろいろ学び、もっと沢木さんに教わりたいと思ったのが大きいですね。沢木監督は、やることを統一させていくのがすごくうまいんです。今、キヤノンは新しいラグビー(の戦術)を(チームに)落としこんでいるんですが、それを言葉で明確に伝え、ダメなものはダメだとハッキリ伝えてくれる。選手にとっては、すごくわかりやすいですし、やりやすいですね」

 小倉のポジションは、スタンドオフである。チームの司令塔とも言われるポジションだ。

「スタンドオフに必要なことは、多彩なキック。パス能力。早い判断力、走力とラグビーをする上で全部の能力が必要です。チームメイトからの信頼も欠かせません。信頼がないと動いてもらえないので。あと、ピッチを上から俯瞰して見ているように指示を出さないといけないんですが、キックの種類が増えているので、今、そこに少し手こずっています(苦笑)」

 チームの同じポジションには、日本代表の田村優がいるが、小倉の特徴はどういうところなのだろうか。

「正直、特徴があまりないんですよ(苦笑)。どうするのかを早めにコールして、自分が抜いていくこともありますが、最近はチームとしてやることがクリアになってきているので自分が抜くシーンは減っていますからね。チームが動きやすいような指示を出すことは心がけています」

 小倉は自らの性格を「楽観的」と言う。試合中、ミスしても気にしない。

「試合中は、ミスして落ち込むと次のプレーの精度が落ちてしまうんで、ミスしたら『悪い、悪い』って笑っています。チームメイトからすると『何、笑ってんだよ』って思うかもしれないですけど、試合中はそうして切り替えています。機会があれば一度、サッカーのクリロナとかに聞いてみたいですね。ミスした時やシュートを外した時、何を考えているのかって(笑)」

 聞いてみたい選手がボーデン・バレットらラグビー選手ではないところが小倉らしい。サッカーが好きで、試合のハイライトをよく見ていると言う。ちなみにクリスティアーノ・ロナウドは喜怒哀楽が激しく、早明戦前の早稲田の選手のように泣いたりもする。「常に平常心」の小倉とは対照的だが、スーパースターのメンタルは、異なるスポーツだがアスリートにとって気になるところなのだろう。
 
 チームは今、来年1月8日の開幕戦であるNECグリーンロケッツ東葛戦に向けて調整中だ。新しいリーグが始まることについて、小倉はどう考えているのだろうか。

「全チームの名前が変わって、地域密着型になったので、もちろん勝つことが大事ですが、地域に何かを還元できるような流れになればいいかなって思います。たとえば、アカデミーをやっていますけど、そこに現役選手が行って指導するとか。子どもたちからするとそれが刺激になると思うし、他のファンサービスもチームが考えていると思うけど、そこにどれだけ選手が乗っかって協力するのかというのも大事になってくると思いますね。そうして、地域を盛り上げていきたい」

 小倉が思い描くのは、2019年に日本で開催されたラグビーW杯の盛り上がりだ。

「日本にW杯がきて、視聴率もすごかったし、異常なぐらいラグビーが注目された。僕は解説でいろんなところに行かせてもらったんですが、本当に1試合ごとに注目度が上がって、人が増えていくのが感じられたんですよ。それは心の底からうれしかった。あの盛り上がりまでは難しいかもしれませんが、新しいリーグが少しでも盛り上がって人気が定着してくれるといいですね」

 そのためには、まずはラグビー自体の面白さが必要になる。横浜キヤノンイーグルスが目指すラグビーは、どういうスタイルなのだろうか。

「ボールが動いて、止まらない。見ていて楽しいラグビー、それを目指していきます。そこで自分が果たす役割は、どれだけスペースにボールを運べるように促すか。それに尽きますね」

 昨年はコロナ禍の影響で試合が大幅に削減され、リーグ戦5位、プレーオフも5位に終わった。今年のチームの目標は優勝だが、強豪チームが多く、「まずはグループの上位に入ることが目標」と冷静だ。自分たちのラグビーを完成させつつ、上位進出を狙う。

「個人としては、長いリーグ戦のなかで、メンバーに入る、入らない時もあると思いますが、チームが勝つためにできることを考えてプレーしたいですね」

 シーズン開幕にあたり、今は厳しい練習が続いている。その最中、チームの完成度、自分の役割、ポジション争いなど、いろいろ考えることもあるだろう。また、結果を出すことはもちろん、日本代表復帰など求められることもいろいろとある。

「まずは、今を生きます(笑)」

 小倉は、明るく、そう語る。

 その姿勢は、ラグビーを始めた時から変わらない「全力少年」そのものだ。