北京五輪に向け、し烈な代表争いが繰り広げられるフィギュア日本女子 グランプリ(GP)シリーズ6大会が終了した2021-2022シーズンのフィギュアスケート。女子は、シニア初シーズンのカミラ・ワリエワ(ロシア)が、2種類の4回転ジャンプとトリ…



北京五輪に向け、し烈な代表争いが繰り広げられるフィギュア日本女子

 グランプリ(GP)シリーズ6大会が終了した2021-2022シーズンのフィギュアスケート。女子は、シニア初シーズンのカミラ・ワリエワ(ロシア)が、2種類の4回転ジャンプとトリプルアクセルを完璧に跳んで異次元の領域に突入し、2大会(スケートカナダとロシア杯)で265.08点、272.71点と世界の歴代最高得点を連発して独走状態を形成している。

 ワリエワに続くのもロシア勢で、イタリア杯で236.78点を出したアンナ・シェルバコワと、232.88点(スケートカナダ)と229.23点(ロシア杯)を出して安定の滑りをするエリザベータ・トゥクタミシェワ。NHK杯を欠場したアレクサンドラ・トゥルソワは、今後の回復次第だが、スケートアメリカでは4回転1本の構成に抑えて232.37点を出している。

 そうしたロシア勢と北京五輪で対戦する日本女子だが、世界から唯一対抗できる存在と見られているのは紀平梨花(トヨタ自動車)だ。今季はケガでアジアントロフィー、スケートカナダ、NHK杯を欠場し12月下旬の全日本選手権がシーズン開幕戦になるが、そのポテンシャルの高さは誰もが認めるところだ。

 紀平の自己ベストは2018年GPファイナルの233.12点でロシア勢に肉薄しているうえに、昨年の全日本は4回転サルコウをきれいに決め、さらに上積みできる可能性も見せている。GPシリーズ2戦を欠場したのも、全日本に照準を合わせ、体調を万全に近づけて臨もうとしているからだろう。今季はまだ実戦を踏んでないとはいえ、北京五輪代表争いのなかで中心選手となる。

 そんな紀平を追いかけるように、GPシリーズ出場組で抜け出す形になったのは坂本花織(シスメックス)だ。NHK杯では、ロシア勢を除きGPシリーズ唯一の220点台の223.34点を出し優勝。今季はトリプルアクセルや4回転の挑戦を回避し、ショートプログラム(SP)、フリーともにより難度を増したブノワ・リショー氏振り付けの新プログラムの完成度で勝負する。

 そして、シーズン最初からSPで演技後半に連続ジャンプを入れ、フリーでも後半に3回転フリップ+3回転トーループと、ダブルアクセル+3回転トーループ+2回転トーループを入れて得点源にする構成に挑んだ。プログラムの完成度を高めるために、10月初旬のジャパンオープンからスケートアメリカまで4週連続で試合に出場するハードスケジュールで臨んだ。その結果がNHK杯の優勝につながったと言える。

 ただNHK杯もSP、フリーとも3回転ルッツの「不明瞭なエッジ」の判定や、フリーでは3連続ジャンプの4分の1回転不足、また、最後の3回転ループの若干の着氷の乱れなどのミスはあり、全体的にスピードを抑えたように感じられた。

「ショート、フリーともに細かいミスはあったが、それでも演技構成点で9点台が出ているので成長したなと思えています。ただ今回は、安定したジャンプを跳ぼうと思ってスピードをセーブしてしまった。自分本来のスピードで跳べるようになれば、高くて幅のあるジャンプになると思うので、そうしたジャンプをどんどん跳んでいけたらいいと思います」

 坂本がこう話すように、微細な修正次第で自己最高の228.07点を更新し、230点台に乗せる可能性もみせている。

 そのふたりに続く3番手となると、混戦模様を呈している。GPシリーズで結果を出したのは、紀平の欠場もあってスケートカナダとイタリア杯を2週連続で戦った三原舞依(シスメックス)だ。スケートカナダでは、SPは小さなミスがあって7位と出遅れたが、フリーはノーミスで210.01点を獲得。総合4位だった。

 体力的に厳しいと思われた翌週のイタリア杯では、ノーミスの演技をそろえて自己最高の214.95点で4位と健闘した。ただ、体調不良による長期休養明けでまだ万全ではなく、滑り全体に力感が出ていない面も。ハードなトレーニングができるようになってきているというだけに、全日本までに体力面を改善できれば、得点の上積みは可能だ。

 樋口新葉(明治大/ノエビア)は、得点はスケートカナダの205.27点が最高と苦しんでいるが、第5戦のフランス杯の3位は204.91点という得点以上にその先が見える結果だった。

 この2大会の間の11月中旬のチャレンジャーシリーズ・オーストリア大会に出場した樋口は、SPにトリプルアクセルを入れた構成にチャレンジし、ノーミスの滑りで79.73点を獲得していた。

「その後の練習でもミスをしていないので、すごく自信を持って臨んだ」というフランス杯でもSPはトリプルアクセルを入れたが、パンクで1回転になり、次の連続ジャンプはセカンドが4分の1回転不足、最後のフリップは「不明瞭なエッジ」と判定されるミスが続き、63.87点で6位発進となった。

 スケートカナダとオーストリア大会ではミスを連発していたフリーは、最初のトリプルアクセルと後半の連続ジャンプのセカンドで4分の1回転不足となり、3回転フリップはエッジエラーと判定されたものの、予定していたジャンプはすべて着氷する滑りをし、自己最高の141.04点を獲得。

 樋口は「トリプルアクセルは自信を持ってやれば大丈夫だと思っていました。回転不足にはなりましたが着氷できたので、すごく落ち着いて滑れた。今までで一番いい演技ができたので今は満足していますが、まだまだ改良できるし、全日本へ向けて課題が見つかった」と笑顔で話した。

 オーストリア大会のSPと、フランス杯のフリーを合計すれば、旧ルールの自己最高を3点以上上回る220.77点になる計算だ。今季のフリー『ライオンキング』は彼女らしさを存分に発揮できる曲調で、本人も「滑りやすい」というプログラム。フランス杯で自信を持てたことで、気持ちが入った練習ができるだろう。細かなところまで意識しながらブラッシュアップもできれば、さらに得点を伸ばし紀平や坂本を追撃する可能性がある。

 またスケートアメリカ7位、イタリア杯5位の宮原知子(木下グループ)は、イタリア杯では得点を209.57点まで上げてきている。課題になっているジャンプの回転不足さえ克服できれば演技構成点で高得点をとれるだけに、円熟した演技を武器にできる。

 続く若手では、河辺愛菜(木下アカデミー)がNHK杯では、SPでトリプルアクセルを入れた構成をほぼノーミスで滑って73.88点を獲得。フリーは冒頭のトリプルアクセルが2回転になって転倒するミスはあったが、そのあとはほとんどノーミスの滑りをして2位になる安定感を見せた。得点は205.44点だが、210点台中盤に乗せられる力はあるだろう。

 また、今季はトリプルアクセルに挑戦しSP、フリーともに基礎点が1.1倍になる演技後半ですべてを連続ジャンプにする構成で望んでいる松生理乃(中京大中京高)。右足首のケガがあってNHK杯、ロステレコム杯ともにトリプルアクセルは封印し、連続ジャンプも一部を前半に移す構成でそれぞれ6位、8位という結果にとどまっている。

 ただ松生本人は、トリプルアクセルや連続ジャンプをすべて後半に入れるのが「本来の自分の構成だ」とも発言している。さらにジャパンオープンは、冒頭の3回転フリップで転倒したあと、ミスは3連続ジャンプのセカンドの4分の1回転不足のみに抑える、ほぼノーミスの演技をして能力の高さを見せている。ケガさえ治れば、上位に一気に割り込んでくる可能性も持っている。

 し烈な日本女子の代表争いに注目が集まる。