髙橋藍インタビュー 前編 今夏の東京五輪に、男子バレーボール日本代表の最年少選手として出場した髙橋藍は、29年ぶりの決勝トーナメント進出に大きく貢献した。その激闘から数カ月、日体大バレー部に戻って練習をしていた髙橋に、あらためて東京五輪の記…

髙橋藍インタビュー 前編

 今夏の東京五輪に、男子バレーボール日本代表の最年少選手として出場した髙橋藍は、29年ぶりの決勝トーナメント進出に大きく貢献した。その激闘から数カ月、日体大バレー部に戻って練習をしていた髙橋に、あらためて東京五輪の記憶や日本の主将・石川祐希などについて聞いた。



全日本インカレ後にイタリアに渡ることを発表した、日体大2年の髙橋藍 Photo by Matsunaga Koki

 髙橋藍は2020年1月の春高バレーで、東山高校(京都)の主将としてチームを優勝に導き、MVPを獲得。その後、日体大1年時にシニア代表に召集された。それまで髙橋はアンダーカテゴリーの代表にも呼ばれたこともなく、まさに異例の抜擢だった。

「いきなりシニアで通用するのか」という見方もあったが、今年5月の中国とのテストマッチ、紅白戦、ネーションズリーグ(VNL)、そしてオリンピック本番と、日本代表のサーブレシーブの要として活躍を続けた。それにより、石川はよりオフェンスに専念することができるようになり、リベロもスパイクレシーブに優れた山本智大を選出することにつながった。

 いきなりシニアの日本代表で戦うことに不安はなかったのか。髙橋はこう話す。

「いきなり"飛び級"でシニア代表に呼ばれたので、最初は本当に不安でした。レシーブを期待されていましたが、プレッシャーは大きかったです。ただ、高校時代にいろんな試合を経験した中で、『不安に思っていても試合になったらできる』という、ちょっとした自信もありましたね。

 初めての国際試合は中国との親善マッチでしたが、レシーブしてからスパイクするというリズムを作るのは得意だったので、その部分を出せたことでさらに自信を深めることができました。さらに(VNLや東京五輪で)世界各国の選手たちのサーブを受けていくごとに、スキルが向上していったように思います」

 オリンピックが東京で開催されることが決まったのは、小学校6年生の時。小学校2年から、2つ年上の兄・塁(日大4年:サントリーサンバーズへの加入が内定)と共にバレーに打ち込んでいた高橋にとって、東京五輪が「目指す場所」になった。

「本来、東京五輪が開催されるはずだった2020年の夏は、僕は18歳で迎えるはずだったので『ちょっと厳しいかな』という思いもありました。それでも、目標を変えずに努力を重ねて、春高バレーで優勝することができて、同年の代表に選出してもらうことができた。1年延期された東京五輪のメンバーにも選ばれた際には、『まずは楽しもう』と思いましたね。結果がどうあれ、自分が持っているパフォーマンスをすべて出してチームの勝利に貢献したいという考えで大会に臨みました」

 1年延期については、「成長できるということでプラスに捉えていました」というが、「2020年に合わせてピーキングを合わせていた選手は多く、大会延期によって歯車が狂って出場が叶わなかった選手もいます。だから、その選手たちの気持ちも背負って戦わないといけないという責任感も大きかったです」と振り返る。

 同大会で日本代表は、中垣内祐一監督が現役選手として出場した1992年バルセロナ五輪以来となる勝利と予選ラウンド突破を果たした。ベスト8という結果は十分に誇れるものだが、髙橋は表情を崩さなかった。

「僕が海外リーグを経験していたり、国際舞台での経験があったら、チームはもっといい成績が残せたんじゃないかという悔しさもありました。そういう意味で、東京五輪は次に繋がる、『イチから成長しよう』と思うことができた大会でしたね」

 髙橋はバレーボールを始めた頃から、アメリカ代表のエースであるマシュー・アンダーソンに憧れていたが、日本代表にも成長のお手本にしたい選手が何人もいる。その筆頭が、主将の石川祐希だ。

 石川は日本代表で共にプレーする前から目標の選手だった。星城高校で"6冠(インターハイ、国体、春高バレーを2年連続で制覇)"を達成する姿をテレビで見て、「すごい選手が出てきた」と夢中になった。

「まず高校生になったら、石川選手のような大エースになりたいと思っていました。そうしたら2019年に、中央大学で石川選手も指導していた松永理生さんがコーチに就任したんです。その時には『石川選手はどんな選手か。どんな練習をしていたのか』と根掘り葉掘り聞いてしまいました(笑)。それを練習に取り入れていましたね」


日本代表では主将の石川(左)と対角を組んで戦った

 photo by Sakamoto Kiyoshi

 それから間もなく、日本代表で石川と対角を組むことになる。東京五輪前のVNLでは、会場となった現地イタリアのメディアに目標とする選手を尋ねられ、「超えなくてはいけない存在だと思うんですけど、身近にいるすばらしい選手ということで、石川キャプテンをお手本にさせてもらっています」とコメント。今でもそれは変わらないという。

「石川選手は、今季でイタリア・セリエAでのプレーが7シーズン目。世界屈指のリーグで、しかもトッププレーヤーとして活躍されているので、世界のバレーを間近で見られることは刺激になりますし、自分にとって大きなプラスです。そこで石川選手のいいところを取り入れて、自分の能力に加えていきたい。そして石川選手を超えることを目指していこうと思っています。

 石川選手のすばらしいところは、技術だけではなく、メンタル面の強さもあります。経験の豊富さもあるのでしょうが、本当に気持ちが強く、落ち着いている。それが『ここで1点ほしい』という時に決められる勝負強さにつながっているんでしょう。キャプテンとしても、僕がコート上で少し落ち込んでいる時に、すかさず声をかけて鼓舞してくれます。そういったところも見習いたいです」

 髙橋自身も「海外リーグでプレーしたい」という次の目標を持ち、全日本インカレ終了後、イタリア・セリエAのパドバに今季終了まで加入(期限付き)することを発表した。それもやはり、石川が中央大学在学中にセリエAに挑戦したことで意識し始めたという。加えて、イタリアでの石川のプレーを何度も視察した松永から「あのリーグのレベルの高さ、盛り上がりは絶対に経験したほうがいいよ」と言われたことで、その思いを強くした。

「2024年のパリ五輪に向けて、まだ力不足なところがあると感じています。メンバーに選ばれるだけではなく、メダルを獲るための戦力になるには、海外でのプレー経験が必要だと考えています」

 今季のセリエAでは石川だけじゃなく、サウスポーエースの西田有志もプレーしている。

「イタリアに渡ったあとの西田選手と連絡を取った時には、現地の様子についていろいろ話しました。年齢は僕が2つ下で近いですし、バレー以外のこともすごく話しやすく、さまざまな面で頼りにしてます。西田選手はオポジットとしては身長が低いのに、爆発的なオフェンス力がある。体の厚みを見るだけでも、筋力がすごく高いのがわかりますよね。フィジカルの大切さをあらためて感じました。

 西田選手もすでにイタリアで活躍していますが、僕のレシーブ力はセリエAでも"売り"になるんじゃないかと思っています。その上でスパイクの力もつけて、世界レベルのオールラウンドプレーヤーになりたいです」

 今年度の代表でのプレーで見えた課題について、髙橋はブロックと前衛での攻撃を挙げた。特に前衛の攻撃については「海外の高いブロックの前では、パイプ(中央からの速いバックアタック)よりもコースを打ち分けることができなかった。それを少しでも改善したいです」と意気込みを語る。

 10月31日には関東大学リーグで優勝。11月30日からの全日本インカレ(日体大は12月1日が初戦)でも頂点を目指し、そしてイタリアへ。今後の髙橋の動向から目が離せない。

(後編:「たつらん」コンビ・大塚達宣との秘話>>)