髙橋藍インタビュー 後編 前編:海外挑戦への思い>> 現在、日体大2年の髙橋藍は、当然バレーだけでなく学業にも力を注いでいる。主に学んでいるのは、トレーニング学や運動の力学などで、それらを練習に取り入れることもある。日本代表の活動期間中も、…

髙橋藍インタビュー 後編 前編:海外挑戦への思い>>

 現在、日体大2年の髙橋藍は、当然バレーだけでなく学業にも力を注いでいる。主に学んでいるのは、トレーニング学や運動の力学などで、それらを練習に取り入れることもある。日本代表の活動期間中も、今年はコロナ禍の影響でオンライン授業が多かったため、それほど授業内容に遅れることはなかったようだ。


東京五輪とその後について語った日体大2年・髙橋藍

 photo by Matsunaga Koki

 それよりも変化があったのは周囲の環境だ。東京五輪後、初めて大学に行った時のことを、「すごく写真を撮られました」と笑顔で振り返った。

「当然、僕が日体大に在学していることはみんなが知っていますから、すれ違う学生と目が合うとすぐにバレてしまいますね。街中でも、公共の交通機関を使っている時に声をかけられることが多くなりました。驚きもありますが、たくさんの人から期待され、応援していただけるのは嬉しいです。そんな方たちに、少しでも多くの勇気や感動を与えられたらと思います」

 髙橋のSNSも注目されるようになり、インスタグラムのフォロワーは90万人を突破。海外のファンも多く、特にタイからの応援がすごいという。

「(9月に行なわれた)アジア選手権では、タイ代表の選手に声をかけられることもありました。タイでは日本バレーの人気が高いようで、東京五輪の選手村にいたタイ人のボランティアの方に聞いた話では、頻繁にニュースでも取り上げられているそうです。春高バレーも見ているようなので、日本のファンの方よりも詳しい人もいるかもしれませんね(笑)」

 日本だけでなく、海外からも注目される選手になった高橋の気分転換の方法は、音楽と動画を見ることだという。

 音楽はシチュエーションによって聞き分けている。気持ちを落ち着けたい時には、最近では『ドライフラワー』が大ヒットした優里の曲がお気に入り。逆にテンションを上げたい時は、「曲のリズム感が、気持ちを高めるのにすごく合っている」というBLACKPINKの曲を聞くという。

「動画に関しては、アメリカドラマの『プリズン・ブレイク』が好きです。シーズン5まであるんですが、もう2週目に入っています(笑)。その中で出てくる『勇気と信念が世界を変える』という言葉は、バレーにもつながるいい言葉だなと思います。

(週刊少年)ジャンプの作品も大好きで、『ハイキュー‼』もよく見ますよ。アタッカーたちも魅力的ですが、僕は烏野高校のリベロ、西谷夕(にしのや・ゆう)が好きです。あれくらい神がかったレシーブをたくさん上げてみたいですね」

 今年度の代表期間中は、東京五輪を共に戦った早稲田大3年の大塚達宣(たつのり)が大きな支えになった。



日本代表のチームメイトで、関東大学リーグではライバルでもある早稲田大の大塚(右) Photo by YUTAKA/AFLO SPORT

 大塚は高橋と同じく2020年度に初招集され、新戦力として注目を浴びた。東京五輪ではプレー時間が少なかったものの、大会前に西田有志がケガの影響でプレーできなかった期間には、サイドアタッカー、オポジットの両方で存在感を示した。髙橋とは1歳違いということもあり、話をする機会が自然と多くなったという。

「練習や試合のあとに、2人でプレーの反省をすることも多かったです。攻守の両面で『どのくらいチームに貢献できたか』『どうすればミスをなくせるか』といった感じで、互いに意見を出し合うんです。客観的な視点が入ると、自分が見えていないところに気づくことができる。僕が『手応えがなかったな』と思った試合後でも、大塚さんが『そんなことない』と言ってくれたりすることで、メンタル面もすごく楽になりました。

 東京五輪の期間中も、バレー以外のことも含めてたくさん話をしました。僕は今年、日本代表で今持っている力を十分に発揮できたと思いますが、それは大塚さんがいてくれたことが大きいです。大学リーグではライバルですが、とても尊敬している選手ですね」

 東京五輪後も親交は続き、2人はSNSで「#たつらん」とそれぞれの名前を組み合わせたハッシュタグを使っている。大塚が授業を受けている最中に、髙橋が電話をかけてしまうハプニングもあったようだ。

「ずっと大塚さんからメッセージが来ていて、それを返せていなかったので『今なら時間があるかな?』と思って電話してみたんです。そのコールには反応がなくて、あとから『授業だったんだけど』とツッコまれました(笑)」

 その大塚と切磋琢磨する場所である大学バレーについて、髙橋はどう捉えているのか。

「大学のバレー部は、普段から一緒に過ごす仲間がいる楽しい場所です。ただ、東京五輪などの舞台と比べてしまうと、プレーのレベルで追いつけない部分があるのは事実です」

 その言葉どおり、パワー、高さ、スピードといったあらゆる部分で、日本代表で戦ってきた海外の強豪国とはレベルに差が出てくる。これは大学生だけでなく、代表経験がある多くのVリーガーも切り替えに苦しんできた。

「そこで僕が意識していることは、まず世界と戦えるだけのフィジカルを作ること。じっくり筋力トレーニングの時間は、大学のほうが確保できると思います。もうひとつは、大学生の中で"頭ひとつ抜けた選手"になることです。

 大学での試合も、世界のブロックを想定してスパイクの通過点を上げ、コースを打ち分けられるようにする。また、サーブレシーブからスパイクの助走に入るといった、細かいことのひとつひとつを徹底していきたいです」

 最年少の選手としてプレーした日本代表とは違い、チームを牽引する役割も求められる。日体大の山本健之監督からも、代表で学んだことをチームに伝えることを期待されており、「チームのレベルを上げられるように、できるだけ経験をフィードバックしたい」と語った。

 髙橋はコンディション調整のためにしばらく試合に出ていなかったが、秋季関東大学リーグ(1部)の準決勝と決勝には出場。10月31日の決勝戦では、大塚を擁する早稲田大を退け、14季ぶりのリーグ優勝を日体大にもたらした。

 その結果について髙橋は、「優勝できたことは自信にしていいと思います。ただ、あくまで通過点のひとつ。この先も勝ち続けていくために、さらに進化した、新しい日体大バレーを生み出していくことに焦点を当てて練習をしていきます」と、さらなる高みを目指して全日本インカレの戦いに臨む。

 大学ナンバーワンの選手、日本代表を背負う選手になるために。髙橋の挑戦は続く。