やっと出番が回ってきた。2017年最初の戦いとなるアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)へ挑む日本代表に、知念雄が加わった。 よく通る、野太い声で喜びを語る。「嬉しいです。こういう合宿があることは知っていたので、小瀧(尚弘、東芝の同僚…

 やっと出番が回ってきた。2017年最初の戦いとなるアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)へ挑む日本代表に、知念雄が加わった。

 よく通る、野太い声で喜びを語る。

「嬉しいです。こういう合宿があることは知っていたので、小瀧(尚弘、東芝の同僚)からもどういう感じかを聞いていて…」

 代表の底上げをすべくこの3月に発足したナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)へは、4月10~14日の第4回キャンプから初参加(東京・辰巳の森海浜公園ラグビー練習場)。いまは16日に始まる、代表の沖縄合宿を見据えている。

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は「以前から注目していた」と明言するなか、異色の経歴を持つ身長184センチ、体重125キロの26歳が猛アピールを宣言。普段の練習から、生来の元気、怪力を見せつけるという。

「戦術理解の面では先にいる選手より遅れている。それでも、エナジー、ガッツ、パワーの部分で負けないようにしたいです」

 沖縄・那覇西高、順天堂大、同大学院では、ハンマー投げの選手として全国レベルの実績を残してきた。楕円球界に入ったのは、助っ人参加した順天堂大ラグビー部の試合がきっかけだ。対戦した駿河台大の松尾勝博監督が、東芝の薫田真広(現男子15人制日本代表ディレクター・オブ・ラグビー)にその無印の逸材を報告したのである。

 知念は在学中から東芝の練習に通い始め、卒業した2015年春に正式入部した。国内のトップリーグ(TL)で準優勝を果たすなか、タックル、スクラム、突進で存在感を発揮。翌16年春のARCで、代表デビューを飾った。世界を目指すべく競技転向を決意した巨躯は、ここで新たな目標も見つけた。

「元ハンマー投げの知念ではなく、スクラムの強い知念、身体を当てられる知念、と、別なキャッチフレーズが出る選手になりたいですね」

 しかし、その後のTLではチームが9位と低迷。同年9月に就任したジョセフHCの日本代表、さらには2017年のスーパーラグビーへ挑む日本のサンウルブズからも声がかからなかった。

 厳しい環境で才能を磨くプランは叶わなかったものの、当の本人は翌シーズンに向け気持ちを切り替えていた。

「実力不足です。2016年のトップリーグではスタートで出たのも1試合だけだったので。まずはアピールする回数をもっと…と感じました」

 サンウルブズ加入2季目の具智元が、故障のためNDSから離脱。知念は、その空いた枠に滑り込んだ格好だ。しかし、与えられた状況はどうであれ国を代表できる。高揚感がある。

 ARCの日本代表は、海外遠征中のサンウルブズの戦士などを除く若手中心の編成となっている。今回は23歳の須藤元樹、22歳の渡邉隆之といった年下の選手と正右PRを争う知念だが、東芝では左PRを務めるように両面待ちも可能。この資質も活かし、ベストメンバーが集まる代表へも名乗りを挙げたいだろう。

 そのためのいまを、生きる。

 「エナジー、ガッツ、パワー」はラグビーを始めた頃からの持ち味。自分の生きる道を「エナジー、ガッツ、パワー」に求める潔さや知性もまた、この人の持ち味だ。

 チームは今月22日、ARCの初戦に臨む。敵地の仁川でぶつかる韓国代表は、知念が昨季代表デビューを果たした相手である。(文:向 風見也)