フィギュアスケート・宮原知子インタビュー前編「フィギュアスケート人生」11月上旬に開催されたGPシリーズ・イタリア杯の宮原知子 宮原知子(23歳、木下グループ)は、現役日本女子フィギュアスケート選手として比類のない実力・実績の持ち主である。…

フィギュアスケート・宮原知子
インタビュー前編「フィギュアスケート人生」



11月上旬に開催されたGPシリーズ・イタリア杯の宮原知子

 宮原知子(23歳、木下グループ)は、現役日本女子フィギュアスケート選手として比類のない実力・実績の持ち主である。

 全日本選手権4連覇は金字塔であり、10大会連続6位以上という記録も瞠目(どうもく)に値する。グランプリ(GP)ファイナルでは2度、2位に入り、世界選手権には5度出場し、四大陸選手権では優勝の経験がある。そして2018年の平昌五輪に出場し、日本選手最高位の4位という成績を残している。

 記録もそうだが、「記憶に残る表現者」と言えるだろう。研ぎ澄まされたスケーティング技術は完璧性を感じさせ、レベル4連発でほとんど隙がない。世界中から絶賛を受け、氷上の芸術の域にまで入っている。

 スケート人生に芯が通っているというのか。江戸時代に厳しくしつけられた上級武士の娘のように、自分を律した言動が目を引く。迷いがなくなるまでの地道な鍛錬が、たおやかさとなってにじみ出るのだ。

 来年2月の北京五輪に向け、女子フィギュアスケート界をけん引してきた宮原はどのような心境か?

 GPシリーズ、イタリア大会から帰国した彼女はひとり、英気を養っていた。リモートでのインタビュー。律儀な彼女は、一つひとつの質問に丁寧に答えている。

ーーまずは目をつむって、そこに映し出されるフィギュアスケートと出会った記憶を思い出してもらってもいいですか? 氷の上で感じた「楽しさとの邂逅(かいこう)」を。

宮原知子(以下、宮原) 自分のなかでは、一歩目を滑れた時、その感触がよかったのは覚えています。でも始めて滑った時より、貸し靴ではなく自分の靴を履いた時にワクワクしていましたね。言葉で言い表すのは難しいんですが、小さくジャンプする、気持ちが弾む感じで。水色の衣装を着ていたと思いますけど、"自分がスケートしている!"というのがすごく楽しかったんです。

ーー何色の靴でしたか? 

宮原 たしか4歳の時で、白い靴でした。(両親に対して)「貸し靴じゃ嫌だから買って」って言ったらしいんですけど(笑)。あまり記憶にないんですが、一度滑ってから、すぐにほしがったみたいです。初めて氷の上に乗ってから、数カ月くらいで「スケート教室も始めるからほしい!」ってせがんだみたいで。だから、靴を手に入れてうれしかったんだと思います。

ーーその後のスケートは技を身につけ、極める楽しさだったのでしょうか? 

宮原 最初は、"これだけ滑れるんだ"っていうのが単純にうれしくて。"できるようになったんだよ"というのを見せたくて、ずっと滑っていたのかなって思いますね。自分から進んで"ちょっとこれできるから見て"って言いに行ったりはしなかったんですけど、心のなかでは"ちょっと見てくれないかな、見てくれたらうれしいな"って(笑)。

ーー表現者としての目覚めだったんでしょうか? 

宮原 表現者と言っていいのか、わからないですけど(笑)。自分は海外選手のように"私を見て"ってアピールするようなタイプではないと思うんですが、心のなかでは"スケートをする自分を見せたい"って常にあったと思いますね。

ーー以来、スケートに打ち込んで、他のことに目移りはしませんでしたか? 

宮原 今、思い返してみると、あまりなかったですね。ダンスを習ったり、水泳というか、ただぷかぷか浮いたりしていただけですが、教室までは行かなくていろいろやったと思います。でも、スケートみたいに"これ"って思ったことはなくて。スケートを始めて初めて経験したワクワク感の強さは特別で、どれにも負けなかったかな、と。

ーーその「好き」が競技者としての原動力になった、と。 

宮原 自分の場合、"試合でこの選手に負けたくない""結果を出したい"よりも、"こういう演技をしたい"、"これだけやってきたことをしっかり本番でも伸び伸びできたら"と思って演技したほうが、自分らしい滑りができていると感じるので。競争心よりもスケートに対する「好き」って本当の気持ちを出したほうが、自分らしく滑れると思います。

ーー2018年、全日本選手権のフリーで最後のジャンプでミスが出て、惜しくも優勝を逃した時、悔しさをかみ殺す姿が印象的でした。それほどスケートに人生を懸けているんだな、自我を抑えているからこそ出てきた衝動に惹かれました。 

宮原 昔は"無"というか、あまり感情が出なくて。でも最近は自分を観察してきて、実はどちらかというとわかりやすい、顔に出ちゃう人かなとも思っています(笑)。無意識に、自分で自分を押し殺していたのかもしれません。だから、最近は自分の感情に素直になることにしています。練習でも本番でも、感情が表に出てくるようになってきた感覚があるし、表現の面でもすごく大事かなって。

ーー昨今はロシア勢を中心に「4回転時代」に入ったと言われ、スケーティングそのものよりもジャンプの色合いが強まってきました。宮原選手は、どう時代に立ち向かうのでしょうか? 

宮原 自分もジャンプは"ちゃんとやっていかないと"っていう気持ちはあるんです。でも、だからと言って自分のよさを失くしてしまっては意味がないので。立ち向かうっていうよりは、自分のよさを磨いて、しっかり見せられるようになればいいのかなって。何かに対抗するんじゃなくて、自分らしさを存分に出せるように。

ーースケートに出会った4歳の「知子ちゃん」にタイムマシンで会えるとしたら、なんと声を掛けますか? 

宮原 (しばし黙考した後で)「こんなに楽しいことを見つけてくれてありがとう」って。なんて返してくるか? んー、「そんなに楽しいの?」って(笑)。性格はシャイで、内弁慶な子で、当時は教室でもかなり変わっている生徒でした。先生に「みんなで手をつないでやりましょう」って言われても、誰とも手をつながず、全然違うことをひとりでやる感じで。たぶん、自分のやりたいことがあって、それをしたかったんだと思いますが。

(後編「五輪への思い」につづく) 

【Profile】 
宮原知子 みやはら・さとこ 
1998年、京都府生まれ。4歳からフィギュアスケートを始める。2014〜2017年の全日本選手権で4連覇。2015年世界選手権2位。2018年には平昌五輪に出場し、日本選手最高位の4位。今季は、GPシリーズのスケートアメリカで7位、イタリア杯で5位。