F1第20戦カタールGPは、レッドブル・ホンダにとって完敗だった。 不利なストレートは1本だけ。あとは中高速コーナーが連続するレイアウトは、レッドブルにとって有利なサーキットだと見られていた。にもかかわらず予選では0.455秒差をつけられ…

 F1第20戦カタールGPは、レッドブル・ホンダにとって完敗だった。

 不利なストレートは1本だけ。あとは中高速コーナーが連続するレイアウトは、レッドブルにとって有利なサーキットだと見られていた。にもかかわらず予選では0.455秒差をつけられ(7番グリッド)、決勝でもルイス・ハミルトンの背後に迫ることはできなかった。



カタールGPは完敗に終わったフェルスタッペン(左)

 2位でレースを終えたマックス・フェルスタッペンは、自分たちにやれるだけのことはやれたと、清々しい表情さえしていた。

「スタートの蹴り出しがすごくよくて、ターン1に入って行く時点ではすでに4位まで上がった。そこから5周目までに2位まで上がれたので、ルイス(ハミルトン)とのギャップをできるだけ縮めようとトライしたんだ。僕らのレースはうまくいったと思う。ただ、今週末は彼らと戦うだけの速さがなかった」

 前戦ブラジルでは長いストレートで驚異的な車速差があり、メルセデスAMGのマシンにレッドブルは疑いの目すら向けた。だが、カタールGPでハミルトンはパワーユニットを4戦目の中古品に載せ換え、高速コーナーが多いためにリアサスペンションを沈み込ませて空気抵抗を削減するシステムも使いにくく、その効果は薄かった。来季に向けたリアウイングの荷重テストを試験導入したこともあってか、ストレートの車速差はなくなったとレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も認めた。

「決勝でも、ストレートラインスピードはほとんど互角だった。ここ数戦はストレートラインスピードが比べものにならないほどだったが、今回はその差がなくなった。彼らのストレート速度に匹敵できたのは、シルバーストン(第10戦)以降で初めてのことだ、非常に勇気づけられるよ」

 しかし、それでもメルセデスAMGには大きな差をつけられた。肝心のコーナリングスピードで後れを取ったからだ。

「今週末を通して、メルセデスAMGに差をつけられ続けたコーナーがあった。それはターン6だ。金曜から日曜までずっと、そこで毎周0.2秒を失っていた。その点はきちんと分析し理解しなければならず、インプルーブしなければならない」

 得意としているはずの中低速コーナーでも、レッドブルに速さはなかった。最も硬いコンパウンドが投入されたタイヤをうまく使いこなせなかったことも響いた。

 実際のところ、マシンパッケージで僅差にあるレッドブルとメルセデスAMGは、マシン特性とサーキット特性の組み合わせというより、その週末いかに優れたセットアップを仕上げてマシンとタイヤの性能をフルに引き出せるかどうかで勝負が決まっている感がある。金曜から日曜にかけて、セッションごとに、はたまた決勝のなかでもタイヤごとに勢力図が変わることがあるのはそのためだ。

 そういった点で、うまく詰めきれなかったとフェルスタッペンは語る。

「いろいろとセットアップの変更をトライしてみたけど、単純にここは僕たちの有利なサーキットではなかったんだろうね。タイヤの性能を引き出しきれなければ、グリップレベルは大きく違ってしまう。

 ここ数戦は、僕らが勝ったレースですら彼らは非常に強力だった。僕のフィーリングとしては、ポイントを獲得できたレースでもそれを失っていてもおかしくなかったと思う。もっとギャップを大きくしたかったけど、速さがないときには仕方がない。次のレースでいい走りをするべく努力するだけだ」

 金曜からDRS(※)のフラップ作動に問題を抱えて走行時間を失い、土曜になっても修正しきれなかった。そのため予選直前になって、DRS問題が起きないモナコGP仕様のリアウイングをつけざるを得なかった。これもマシンセットアップを煮詰めきれなかったことにつながったのだろう。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 車体だけで負けたわけでもなく、パワーユニットだけで負けたわけでもなく、ドライバーだけでもなく、セットアップだけでもない。メルセデスAMGとの戦いは、あらゆる要素を完璧に近づけなければ勝てないところまで来ている。

「全部ですね。パッケージはサーキットによって合う・合わないがありますし。同じサーキットでも、天候の変化や温度、路面温度、風向きなどにどこまで合わせ込めるか、チームとドライバーまで含めたパッケージすべてだと思います」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)

 一方、アルファタウリ・ホンダは金曜から好調な走りを見せて、予選では4位・8位と、ピエール・ガスリーだけでなく角田裕毅も好結果を手にした。ガスリーは最後のアタックでさらに0.15秒を縮め、3位につけるメルセデスAMGのバルテリ・ボッタスを上回るタイムを刻んでいたほどだ。

 最後に縁石に乗り上げてフロントウイングを壊し、それによって振られた黄旗を無視したボッタスとフェルスタッペンがグリッド降格ペナルティを科された。結果、ガスリーは自己最高位の2番グリッドからスタートすることになった。

 しかし、あまりに予選偏重のセットアップとなってしまっていたのか、決勝になった途端にキレのある速さは消え、アルファタウリは2台ともズルズルと後退。角田は2周目のターン10先で剥がした自身の捨てバイザーがリアウイングに引っかかり、大幅にダウンフォースを失って早めのピットストップを強いられた。

 ふたりともタイヤの摩耗が懸念されるなかで2ストップ作戦を選び、周囲の中団勢とは違う戦略での勝負となった。だが、それが関係ないほどにペースが遅く、フレッシュなタイヤを履いた最終スティントでもガスリーは前のアストンマーティンに追いつくことができず、角田のフリーエアでのペースもフェラーリやマクラーレンほどの速さはなかった。

「第1スティントでのソフトタイヤのペースがとにかく遅すぎました。第1スティントの遅さの理由がタイヤだけでなかったということもありますが......。今週末はずっとペースがすごくよかったのに決勝では大きく低下してしまったので、データをしっかりと分析し、その原因が何だったのかを解明する必要があると思います。残り2戦に向けて、力強さを取り戻す必要があります」(角田)



決勝で苦しんだアルファタウリ・ホンダ

 アルピーヌ勢は1ストップ作戦を選び、粘りのレースで3位・5位を獲得。ランキング5位争いは同点から一気に25点差へと大差をつけられてしまった。

 この3連戦でホンダ勢は、追い風から急に向かい風に直面することとなった。

 シーズンはわずかに残り2戦。サウジアラビアとアブダビでどんな風が吹くのか。追い風であることを願うのではなく、自分たちの力で追い風を吹かせて前に進む力を生み出さなければならないと、田辺テクニカルディレクターは決意を語った。

「いつも追い風に乗っていたいところですが、今年は劣勢の向かい風もあれば追い風もありました。そんななかで1年間戦ってきて、今のポジションがあると思っています。

 この先どんな風が吹くかわかりませんし、さらに向かい風が強くなるのか、今度は逆転して追い風になるのか。そのあたりはパッケージの組み合わせによるところが大きいと思いますので、自分たちで何ができるのか、どうすればいいかを考えたうえで、残りのレースに臨みたいと思います」

 ホンダの戦いは、いよいよ残り2戦となった。結果がどうであろうと、すべての力を出し切り、悔いのない戦いを見せてもらいたい。