GPシリーズ・フランス杯で優勝し、GPファイナル出場を決めた鍵山優真 12月のグランプリ(GP)ファイナル1位進出を決める、シリーズ2勝目。11月19、20両日に開かれたGPシリーズ・フランス杯男子シングルを制した鍵山優真(オリエンタルバイ…



GPシリーズ・フランス杯で優勝し、GPファイナル出場を決めた鍵山優真

 12月のグランプリ(GP)ファイナル1位進出を決める、シリーズ2勝目。11月19、20両日に開かれたGPシリーズ・フランス杯男子シングルを制した鍵山優真(オリエンタルバイオ/星槎)は、フリー演技を終えると悔しそうな表情でリンクから上がった。

 そして、その心中をこう話した。

「(フランス杯は)初めてのGPシリーズの大会なので優勝できたことはうれしいですが、演技に関しては後半がひどかったので......。できることなのにミスしてしまったのは、気持ちだったり根性が足りないのかなと思います。なのでうれしいか悔しいかで言えば、すごく悔しいです」

 フリーで逆転優勝を果たした3週間前のイタリア杯では、ショートプログラム(SP)は最初の4回転サルコウの着氷を乱すと、次の4回転トーループからの連続ジャンプにも影響して3回転の単発になり、80.53点で7位と思わぬ発進になった。

 その失点を挽回すべく、「ショートはノーミス」と決意して臨んだ今大会では、冒頭のジャンプを4回転サルコウ+3回転トーループにし、次を4回転トーループ単発にする構成に変更した。その連続ジャンプのセカンドは着氷で少しだけブレたが、GOE(出来ばえ点)は2.92点の加点。そして4回転トーループは3.66点の加点と、安定の滑り出しをした。

 だが、最後のトリプルアクセルは、「踏切まではよかったが、少し体を開くタイミングが遅れた」と、着氷でステップアウトしてしまうミス。それでも昨季の世界選手権で出した自己最高に0.54点差まで迫る100.64点を獲得し、2位に10.88点差をつける1位発進。

「トリプルアクセルのミスは悔しいですが、ジャンプ構成を昨シーズンのものに戻して臨んだことで、大きなミスはなくうまくまとめられたかな、と。小さなミスがあっても100点台に乗せられたのは、自分の成長だと思います」

 鍵山はそう話し、納得の表情を見せた。

 前戦イタリア杯のSPのミスは、「自分の弱さを経験できた」と整理し、今大会は現地入りしてからの行動も昨季の世界選手権でうまくいった経験を生かし、公式練習から体を多く動かしたり、動きを変えたりした。構成変更を含め、「自分は今何をすればベストか」ということを、コーチでもある父・正和氏のアドバイスを取り入れながら、冷静に分析し実行したのだ。

 その冷静さは翌日のフリーでも、今季から挑戦している4回転ループを入れないという判断で存分に発揮された。鍵山は「自分のなかではショートの結果を見て、4回転ループを入れてもいいかなという感じだったが、考えてみるとまだまだサルコウやトーループのように安定していないので。そこで失敗して後半でボロボロになるより、まとめるほうがいいかなと考えて今回は回避しました」と説明する。

 その構成は出遅れからしっかり結果を残そうとしたイタリア杯と同じで、4回転は2種類3本。最初の4回転サルコウは3.29点の加点をもらうジャンプにしてきれいに決めると、3回転ルッツを挟んで4回転トーループ+4回転トーループも完璧に決め、次のトリプルアクセルからの3連続ジャンプにつなぐ、安定感のあるいい流れを作った。

 だが後半は崩れた。最初の4回転トーループが片手をつく着氷になると、続く3回転フリップ+3回転ループはステップアウト。そして、「後半は体の心配はなかったが、先に脚のほうがきつくなってしまった」と、最後のトリプルアクセルはシングルになるミス。終盤の2種類のスピンはスピードのある回転にして締めくくったが、演技直後は氷に手をついて悔しそうな表情になった。

 結局、フリーの得点はイタリア杯より11.72点低い185.77点だったが、合計は286.41点にしてSP4位から2位に上げてきた同学年の佐藤駿(フジ・コーポレーション)を21.42点上回る圧勝で、GPシリーズ2勝目をあげた。

 それでも鍵山は、初進出となる日本開催のGPファイナルへ向け、慎重に言葉を選んだ。

「今シーズンの目標のひとつでもあるファイナルへ2回優勝していけることはすごくよかったですが、自分はまだファイナルで優勝を争う実力があるかと言われればそうではないので。今回や前回の試合を見ても実力が足りないなと感じているので、もっと練習をして4回転ループだったり、後半にもいいジャンプが跳べるようにしていきたいと思います」

 今季はさらなる進化を求め、4回転ループを導入して4回転3種類4本の構成に挑戦し始めた。そして、初戦の関東選手権では、「ループをやっている分、陸上の回転練習なども含めて練習量を増やしたら、4回転サルコウと4回転トーループがすごく楽に跳べるようになった」とも話していた。だが、GPシリーズに入ってからは、「まだ完成度が高くない」と4回転ループは封印する決断をしている。

 昨季の世界選手権で2位になっているとはいえ、通常の形式で海外勢のトップと戦うGPシリーズは初めての経験。そこで一気に"より上"を目指すのではなく、今できることを着実にこなし、実績を積み上げていく道を選んだのだろう。その一つひとつが自信となって重なることで、本当の強さが求められる、と。

 現状を見れば、GPファイナルでも有力なメダル候補になっている。だが、日本のトップに君臨する羽生結弦や宇野昌磨という鍵山自身の憧れる存在があるからこそ、彼らにじわじわと近づき、彼らのような強さを身につけたいと考える。

 父・正和氏とともに冷静に歩みを進めようとしている鍵山は、このGPシリーズ2戦で着実に自分の足元を固め、次のために向ける大きな土台を作り上げたと言える。