NHK杯SP演技の宇野昌磨 11月12〜14日に開催されたフィギュアスケートのGPシリーズ・NHK杯で3年ぶりに優勝した宇野昌磨。獲得した合計290.15点は2019年四大陸選手権の289.12点以来、新ルールでの自己最高得点だった。その結…



NHK杯SP演技の宇野昌磨

 11月12〜14日に開催されたフィギュアスケートのGPシリーズ・NHK杯で3年ぶりに優勝した宇野昌磨。獲得した合計290.15点は2019年四大陸選手権の289.12点以来、新ルールでの自己最高得点だった。その結果に宇野は胸を張った。

「この大会というよりも今季のこれまでの3試合をとおして、やっと世界に通用することができる選手に戻ってきた。世界のトップを狙える位置にいるんだなと感じることができました」

 試合前日の取材では、この1年間の成長を問われた。

「すべてです。別人ではないけど、本当に今はすべてが向上している。技術的にも精神的にもスケートにうまく向き合うことができているし、うまくなりたいという気持ちも強くなりすぎず向き合うことができています」

 宇野は自信を秘めた口調でそう話していた。NHK杯初日のショートプログラム(SP)は前戦のスケートアメリカを13.51点上回る102.58点で3シーズンぶりの100点台。しかし、演技後に口をついて出たのは悔しさだった。

 本来の力強さが戻ってきているうえに、しなるような柔軟さも加わってきた滑り。きれいに決めた最初の4回転フリップだけでなく、すべての要素で高い加点をもらっていたが、2本目の4回転トーループ+3回転トーループが4回転+2回転になってしまった。以前から何度もしていたミスだった。



NHK杯を圧勝した宇野

「出来のいい悪いじゃなく、どんな理由であれ、今は演技をまとめていく時期でもないのにコンビネーションを4回転+2回転にしてしまったのが悔しいですね。最初の4回転がぶれてしまって自分がどの方向にいるかわからなくなりましたが、それでも挑めば立てたと思います。映像を見てもあの着氷なら3回転を跳べたと思うし、あそこは自分の挑む気持ちがちょっと足りなかった。

 僕の試合での4回転トーループの成功率は練習に比べると低いから、今年はアイスショーでも練習でもトーループは全部コンビネーションにしてやっていたし、今季は世界のトップで戦えるようになるために、失敗を恐れないシーズンにしたいと思うだけに、成長したいからこそ、挑戦したかったなと思いました」

 その悔しさを晴らそうと臨んだ13日のフリー。SPで90点台後半を出して宇野を追う位置につけていたチャ・ジュンファン(韓国)やスケートアメリカ優勝のヴィンセント・ジョウ(アメリカ)がミスを連発して得点を伸ばせないなか、最終滑走の宇野はこれまでミスをしていた最初の4回転ループと4回転サルコウをきれいに決める滑り出しをした。

「ループは練習のなかで少しずつ確率が上がってきていたし、サルコウもこれまでは跳べなかったが3日前から跳べるようになり、会場に入っても氷の感触がよくて一番跳べるくらいのジャンプになっていた。今回は偶然ではなく、必然で跳べたと思っています」

 そのあとの4回転トーループ+3回転トーループは、「失敗してもいいと思って跳んだが、ちょっと力が入ってしまった」と、最初が少し低めのジャンプになって2回転しかつけられなかった。それでもトリプルアクセルを決めると、スローな曲調のなかでも動きに音のすべてを込めたような、宇野らしい滑りに。

 後半に入ると、SPでは軽々と決めていた4回転フリップがパンクして2回転になり、そのあとの4回転トーループもつんのめるような着氷になって連続ジャンプにできなかった。最後のトリプルアクセルからの3連続ジャンプはしっかり決め、見せ場であるステップシークエンスもレベル3ながらメリハリのある力強い滑りで締めくくった。

「これまでは最初のジャンプを失敗していたので、そこで追い込まれてから我慢する力がついていたと思う。でも今回は最初で成功したから、後半は気持ちのゆるみが出たのかもしれません。これまでの練習でループとサルコウが跳べていなかったのが、試合に出てしまいました」

 こう言って苦笑する宇野のフリーの得点は、2019年四大陸選手権で出した自己最高より10点弱低い187.57点だった。それでもSPの貯金もあって合計は自己最高の290.15点で、2位のジョウには29.46点差をつける圧勝。ジョウとともにGPシリーズポイントを28点にし、3年ぶりのGPファイナル進出を確定させた。

「4回転ループはもっと安定させられるような気がしているので、練習の時の4回転フリップくらいの確率になれば、後半に入れるような挑戦もできる。だからループはどこにおいてもフリープログラムとしてまとまるようなジャンプにしたいですね。4回転サルコウもループと同じで気持ち的には体力に余裕のある1番目にしたいジャンプだけど、今回は何か感覚をつかんだかもしれない。早く中京大に帰って練習をして自分のものにすれば、もうひとつ前に進めると思って、今はワクワクしています。ファイナル進出も大きな大会がもうひとつ増えたということだから、また成長した自分を見せられるようにしたいです」

 2018年平昌五輪までは2位ばかりで「シルバーコレクター」とも言われたが、その頃は2位になる大変さもわかっていたため、嫌だとは思わなかったと言う。だが、その立ち位置は、優勝争いをしたうえの2位ではなく、よくて2位という状態だった。それに満足しているのではないかと思い、トップ争いをする選手になりたいという気持ちが芽生えてきた。

 そこからは苦しい道のりだったが、今、フリーで5本の4回転に挑戦するのは、ネイサン・チェンという存在がいる限り、それが必須と考えるようになったからだ。

「僕はこれまで靴を3週間おきくらいに換えていましたが、それだと1〜2週間は調子を取り戻すことに費やさなくてはならないので、自分の練習ができない状況がこの1〜2年は続いていた。今年はオフの間に毎日靴を調整し続けたことで、今練習できる状態につながっていると思います。跳べているジャンプはもともと跳べていたものだけど、それが今、同時に飛べているようになっている」

 宇野はジャンプの好調の要因をこう語るが、「競技のためではなく、見栄えが悪くなるのは嫌だからと思って始めた」というダイエットで2〜3㎏減量できたことも、ジャンプの調子のよさにつながっているのだろう。

 そんな宇野はこの先の挑戦へ向けてこうも話した。

「今、4種類の4回転をやっているけれど、これ以上跳べるジャンプはひとつも存在していない。以前、挑戦したトリプルアクセル+4回転トーループというのもあるけど、それができたとしても得点は上がらないのは明確にもなっています。今まではこの構成を自分のものにするので一生懸命だったけど、これからは今跳べているジャンプをどう有効な構成にするかとか、また新しいジャンプも考えながらやっていきたい」

 ボロボロになってもやり続けるとまで明言した、今季のフリーでの4種類5本の4回転への挑戦。このNHK杯で「世界のトップと戦えるようになった」という手ごたえを得たからこそ、その先へ向けての思いも徐々に芽生え始めている。