NHK杯で2連覇を果たした坂本花織が、3年ぶりにグランプリ(GP)ファイナル進出を決めた。今大会は、優勝候補だったロシアの4回転ジャンパー、アレクサンドラ・トゥルソワと、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器にする紀平梨花のふたりがケ…

 NHK杯で2連覇を果たした坂本花織が、3年ぶりにグランプリ(GP)ファイナル進出を決めた。今大会は、優勝候補だったロシアの4回転ジャンパー、アレクサンドラ・トゥルソワと、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器にする紀平梨花のふたりがケガの影響で欠場。強豪スケーターが不在だったが、大きなチャンスをしっかりとものにしたのが坂本だった。



NHK杯で2連覇を果たした坂本花織

「連覇と言われますが、正直、昨年のNHK杯はほぼ日本人だけの試合だったので、あまりGPという感じはしなかった。今回はGPで優勝したなという実感がありました。シニアに上がって、2018年の四大陸選手権以来の『君が代』を(自分が)流したのが、すごくうれしくて、じわーっときました......。振り返ると、(平昌五輪シーズンからの)この4年間はいろんな寄り道をしたなと思いました」

 GP2戦目となるNHK杯で掲げた目標は、ショートプログラム(SP)とフリーで「ノーミス演技をすること」。初戦のスケートアメリカで、自身の武器である3フリップ+3トーループの連続ジャンプをSPで失敗したことが響いて、わずかな得点差で表彰台を逃していたからだ(総合4位)。

 少しの取りこぼしが勝負の行方を左右することを痛感した21歳は、同じミスをしないと固く誓い、わずかな期間だったが、曲掛け練習を、胸を張れるほどこなしてきた。それが結実して今季ベストを更新する演技を披露してみせた。

「この大会でSPとフリーを揃える目標は達成でき、スケートアメリカよりも点数を更新できたことはすごくよかったです。SPもフリーも今季のシーズンベストを更新して、合計223(.34)点を出せました。

 細かく見ると、フリーはレベルを落としていないですが、ジャンプで回転不足やエッジ不明瞭の2つの(減点)マークがついてしまったり、SPではステップがレベル3だったり、まだまだそこをクリーンにすれば、(GOE)加点も伸びると思うし、自分自身を超える演技ができるんじゃないかなと思っています。まだ直す部分がたくさんあるなと思いました。

 ただ、技術面でミスが出ても、演技構成点で9点台が出ているので、そこは成長しているなと満足している部分もあります。全体的な満足度は85点くらいです」

 リンクを疾走するスピード感抜群のスケーティングと、高さと幅のあるダイナミックなジャンプ、そして安定感のある演技は、十二分に魅力的だった。トリプルアクセルや4回転ジャンプを跳ばなくても、坂本の演技はフィギュアスケートの醍醐味を存分に味わえるものだ。

 現行ルールでは、採点に占めるジャンプの比重が高く、基礎点が高い4回転やトリプルアクセルを跳べば、それだけ得点増を見込むことができる。だからこそ、大技がない坂本は自分がどう戦うべきかをしっかりと見据えている。

「大技がない分、他の(エレメンツの)クオリティを上げていかなければいけないですが、最近は(ジャッジが)評価をしてくれるのでほっとしています。このシーズンはどの試合も大事だし、ひとつも大技がない分、ひとつもミスできない状況で、クリーン(な演技)でやらないといけないと思っているので、ひたすら練習で曲を掛けて、いかに試合でノーミスでできるかを練習の時からやってきました。

 SPもフリーも安定したジャンプを跳ぼうとしているので、いまはスピードをセーブしていてまだ本来のスピードにはなっていない。スピードに乗っていけると、高さと幅のあるジャンプを跳べると思うので、帰ってからの練習でしっかりとやっていけたらいいなと思っています」

 シニアデビューシーズンだった18年平昌五輪で総合6位に入賞してから、坂本は世界トップへの階段を一歩一歩上がってきた。新進気鋭のフランス人振付師のブノワ・リショー氏とタッグを組んできたことが、大きな飛躍の要因のひとつになったと言っても過言ではない。

 リショー氏は、坂本らしさをプログラム作りで存分に引き出し、なおかつ、彼女のポテンシャルを先に導くような難易度の高いプログラムを提供し続けてきた。坂本もリショー氏を信頼して、ユニークで斬新で個性あふれるプログラムを滑りこなしてきた。

 相性が抜群にいい2人が作り上げたプログラムは、毎シーズン、相乗効果を生んでおり、坂本は名実ともに世界のトップで戦えるスケーターになったと言えるだろう。北京五輪シーズンの今季も、坂本の魅力を新たに引き出すような新プログラムのSP『Now We Are Free』とフリー『No More Fight Left in Me/Tris』が出来上がった。

「フリーはすごくメッセージ性が強い曲になっていて、いままでそういう曲をやったことがなかったので、正直、どう表現すればいいか苦労したし、いまもちょっと難しいと思っているんですけど、女性の強さや内に秘めている強い部分を、演技を通して感じ取ってもらえたらいいなと思っています。

 夏頃はこのフリーをやれるかどうか迷いがあったんですけど、滑りこなしていくと覚悟を決めてからは、いい方向に進めていると思います」

 今後の課題は、3回転ルッツでエッジ不明瞭の「アテンション」が付いてしまうことと、SPのステップでレベル4が取れていないこと。ジャンプのGOEを1点台後半にさらにアップさせることになる。ノーミスの演技はできるが、完璧な滑りまではできていない。細かい部分の修正が必要なことは坂本自身もわかっていて、次の試合である12月のGPファイナルまで、しっかりと練習で詰めてくるはずだ。

「まだまだSPもフリーも取りこぼしがあるし、回転不足もルッツのエッジ不明瞭もあったので、そこを修正していけば、まだまだ(得点は)更新し続けられるんじゃないかなと思います。ファイナルでは、今回(NHK杯)の点数以上のものをできるようにしたいなと思っています」

 やる気も自信もみなぎっている坂本に期待したいところだ。