今年もサンパウロではホンダに追い風が吹くのか----。 予選を終えてルイス・ハミルトンのマシンにDRS(※)規定違反が発覚して失格処分となった時、そんな予感がした。※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやす…

 今年もサンパウロではホンダに追い風が吹くのか----。

 予選を終えてルイス・ハミルトンのマシンにDRS(※)規定違反が発覚して失格処分となった時、そんな予感がした。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 雲が低く垂れ込め路面温度が25度にしかならなかった予選ではソフトタイヤをうまく使いこなせずに0.438秒の大差をつけられたものの、陽が照って45度を超える土曜のスプリント予選と日曜の決勝では速さを取り戻せる。ましてやハミルトンが最後尾グリッドに下がれば......。



激しいバトルを演じたハミルトン(左)とフェルスタッペン(右)

 スプリント予選はスタートでバルテリ・ボッタスの先行を許したものの、マックス・フェルスタッペンはリスクを冒すことなく2位でフィニッシュ。ハミルトンは5位まで挽回したものの、今季5基目のICE投入で決勝は10番グリッドに降格となる。

 日曜の決勝は50度近くまで路面温度が上がると予想されるだけに、レッドブルとしては2対1でボッタスに揺さぶりをかけて勝利をもぎ取るだけの速さがあると、自信を持って臨んだ。

 スタートでフェルスタッペンがボッタスのインに飛び込んで首位を奪い取り、セルジオ・ペレスもこれに続いてワンツー体制を構築。ボッタスはついてこられず、これでレッドブル・ホンダの勝利は大幅に近づいたかと思われた。

 しかし、後方ではハミルトンが猛烈な追い上げで1周目に6位、3周目に4位と浮上し、5周目にはチームメイト同士でポジションを入れ換えて、あっという間に3位まで這い上がってきた。

 ペレスはハミルトンの攻勢をなんとかしのいだものの、19周目には陥落。ただ、それでもフェルスタッペンには3.5秒以上のリードを維持し続ける速さがあった。

 26周目にハミルトンがアンダーカットを仕掛けるが、翌27周目にはフェルスタッペンがカバーして首位をキープ。しかし、ハードタイヤに履き替えてからのハミルトンは速さを増し、フェルスタッペンの後方1秒以内に迫って離れない。

「ルイスが背後に迫ってきて、彼のほうがかなり速く、彼と戦うのは難しいことはすぐにわかった。そのなかで僕らは彼のアンダーカットに対してカバーし、すべて正しい決断はしたと思う。ほかにやれることはなかったと思う」(フェルスタッペン)

 先にピットインされればアンダーカットされることが確実な状況のなか、フェルスタッペンは40周目に先に動いて首位を守った。しかし、ハミルトンは3周のタイヤ差をつけて猛攻を仕掛けてくる。

 48周目のターン4でハミルトンがアウトに並びかけて前に出るが、フェルスタッペンはブレーキングを遅らせてインに飛び込み、両者ともにコースオフ。接触がなかったためスチュワードは「調査不要」との判断を下したが、これまでに何度となくフェルスタッペンが見せてきた強引なドライビングにハミルトンはさもありなんとばかりに引き、自身はタイヤを休めつつフェルスタッペンのタイヤがタレるのを待った。

 そして58周目、メインストレートで背後に迫った。ターン1でフェルスタッペンにブロックラインを取らせ、彼の立ち上がりが苦しくなったところをDRSを使って一気に抜き去り、ターン4で並びかける猶予も与えず封じ込めた。これまでに何度もフェルスタッペンの飛び込みに対して譲ってきたハミルトンなりの「回答」だった。

「ターン3を抜けて行く時点で、すでに彼に抜かれるだろうということはわかっていたよ。でも、その2周前から僕はトラクションに苦しみ始めていて、厳しい展開になることもわかっていた。それでも何が起るかわからないから全力を尽くして戦ったけど、僕は動かないカモ状態だったし、一度抜かれてしまったあとはタイヤを最後まで保たせるだけで精一杯だったよ」

 予選失格と5グリッド降格からの大逆転勝利に、ブラジルの観衆は沸いた。アイルトン・セナのカラーリングをヘルメットにあしらったハミルトンが、絶望的とも言える逆境を乗り越え、セナを彷彿とさせるような劇的なレースを見せたからだ。ウイニングランでマーシャルからブラジル国旗を受け取って掲げたハミルトンに、今年のブラジルの風は吹いた。

 メルセデスAMGはストレートで圧倒的な速さを見せ、ライバルたちをごぼう抜きにした。トウの効果を除けば、最高速が極端に速いわけではない。実質的な最終コーナーであるターン12からの加速が速く、最高速に到達するのが早かった。だから、バトルでの競争力が高い。

 投入したばかりの新品ICEの威力に加えて、一定の速度からリアサスペンションが沈み込んで空気抵抗を減らす機構も効いていると見られる。

「トト・ウォルフ代表が話しているように、彼らのICEは性能劣化が大きく、新品投入によってそれが回復したのであれば、メルセデスAMGのもともとストレートが速い素性に加えて新品ICEの相乗効果であの速さになったのかなと思います。

 特に昨日のスプリント予選は驚異的な速さでしたし、ペナルティのハンディを完全に拭い去っての優勝ですから、とにかく速さを見せつけられたと思っています。メルセデスAMGにやられた結果になりました」(ホンダF1田辺豊治テクニカルディレクター)

 レッドブルは完敗を喫したが、それは新品ICEの差だけでなく、タイヤを酷使しなければならないレッドブルのマシン特性およびセットアップ方向性も影響したとフェルスタッペンは見ている。

「彼らが新品のエンジンを投入し、そのアドバンテージが少しはあったと思われる。ここのようにストレートラインのパフォーマンスがすごく重要になるサーキットでは、それが効いてくる。

 それにこのサーキットはコーナー数が少ないにもかかわらず、デグラデーション(タイヤの性能低下)は大きい。僕らのようにセクター2のコーナーでタイムを稼がなければならないマシンにとっては、タイヤを酷使することになってしまう。

 だから、暑いコンディションも僕らには味方しなかった。最終的にはタイヤを使い切ってしまって、なんとかポジションを守ろうとしたけど、守り切れなかった」

 アルファタウリ・ホンダの角田裕毅はスプリント予選が行なわれる週末ゆえに、サーキット習熟が不充分なまま臨んだ予選で13位。ソフトタイヤのスタートダッシュに賭けたスプリント予選はタイヤがタレて15位。そして決勝では再びソフトタイヤに賭けたものの、4周目にランス・ストロール(アストンマーティーン)と接触して後退してしまった。



4周目にストロールと接触した角田裕毅

「リスキーなオーバーテイクであったことは確かです。でも、僕はロックアップなど何も問題はありませんでした。彼は明らかにまったくミラーを見ていませんでしたし、通常のラインでターン1に入ってきたんです。彼が譲らないことがわかった瞬間、さらにブレーキを踏み込んだので少しロックアップはしましたが、僕のオーバーテイクの動き自体には何も問題はなかったと思います」

 角田はそう弁明したが、スチュワードはすでにターンインを開始しているストロールのインにレイトブレーキングで飛び込んだ角田のアクションは「オーバーテイクを仕掛けるにはあまりに遅すぎた」と判断。勝負権がなかった角田には10秒加算ペナルティという、やや重い処分が下された。

 それでも予選までのビルドアップは早くなり、僚友ピエール・ガスリーと比べても差は決して大きくなかった。ただ、ガスリーは仕上がりの不十分だったマシンを予選のランごとに煮詰めていき、最終的には5位まで上り詰めた。その経験値の差がハッキリと見えたことも、今回の学びになったはずだ。

 ホンダ勢としては好結果を期待したサンパウロGPだったが、その期待どおりにはならなかった。

 残り3戦。レッドブル・ホンダとフェルスタッペンはダブルタイトルを争い、アルファタウリ・ホンダはランキング5位を争っている。その目標達成に向けて、もうミスは許されない。