2年ぶりのサンパウロは、ホンダにとって思い出深い地だ。 2年前にレッドブルとトロロッソで劇的なワンツーフィニッシュを挙げた地であり、ホンダとともに頂点を極めたアイルトン・セナの母国でもある。 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは火曜の…

 2年ぶりのサンパウロは、ホンダにとって思い出深い地だ。

 2年前にレッドブルとトロロッソで劇的なワンツーフィニッシュを挙げた地であり、ホンダとともに頂点を極めたアイルトン・セナの母国でもある。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは火曜の早朝にメキシコシティから到着するなり、モルンビー墓地に眠るセナのもとへと墓参に訪れた。



思い出の地でホンダは今年も主役となれるか

「月曜発・火曜早朝着のフライトでこちらに来ましたので、火曜のうちに行ってきました。今年でF1活動が終了しますので、よろしくお願いしますと伝えてきました」

 田辺テクニカルディレクターらしく簡素にそう言ったが、ホンダのF1活動が残り4戦となり、胸中には複雑な思いもあったはずだ。

 2年前のここサンパウロでは、何か特別な風が吹いたのではないかと思えるほどにマックス・フェルスタッペンが勝利を掴み獲り、ピエール・ガスリーは最終コーナーからの立ち上がりでルイス・ハミルトンのマシンに並ばれながらも引き離しさえして2位でフィニッシュしてみせた。

 メキシコシティGPを見るかぎり、2年前のような高地でのアドバンテージはもうないかもしれない。しかし中低速コーナーと中低速コーナーが織り交ぜられたインフィールドセクションでは、レッドブルRB16Bに優位性があるだろう。

 悪天候のためメキシコシティからの貨物航空便が遅れ、メカニックたちが整備作業を開始することができたのは木曜の昼になってから。金曜にはたった1時間のフリー走行で予選に臨まなければならないタイトスケジュールが、より一層厳しいものとなった。

 ドライバーズ選手権のリードを19点に広げたフェルスタッペンだが、目の前の1戦1戦を可能なかぎりの力で戦う姿勢は崩していない。19点の差は一度のリタイアで簡単に逆転されうる差でしかないことをよくわかっているからだ。

「ブラジルでどのくらいコンペティティブかを予想するのは難しいよ。標高の高いところでは僕らは強いし、過去にはここでよいレースができている。2019年は優勝したけど、それだってレースを通して接戦だったので、今年もかなり似たような展開になると思う。

 天気がパフォーマンスに与える影響はかなり大きいし、今週はスプリント予選もある。ここまでスプリント予選ではうまくやれているけど、決勝では結果がイマイチだから、今回はそれをひっくり返したい」

 今週は3度目となるスプリント予選が土曜日に行なわれる。

 シルバーストン(第10戦)やモンツァ(第14戦)に比べれば、追い抜きはまだ可能なサーキットとあって、24周のレースに期待がかかる。だが、大接戦のタイトル争いにおいてはリタイアが致命的な結果につながりかねないだけに、上位勢はコンサバティブなアプローチを採る可能性が高い。

 特に過去2回のスプリント予選週末はいずれもリタイアしているフェルスタッペンならば、なおさらだ。

「一番の問題はスタートで、その後は最後までタイヤを保たせることが中心になる。特に上位勢はね。だからオーバーテイクはほとんど起きないし、サーキット特性がどうであろうとあまり関係はないと思う」

 前戦メキシコで2強チームに次ぐ4位の座をしっかりと掴み獲ったアルファタウリ・ホンダは、今回もその座を狙っている。

 2019年に好走を見せたことからもわかるように、アルファタウリのマシンにもよく合ったコース特性だ。

「メキシコに続いて、ここも僕らのマシンに合っているサーキットだと思う。反時計回りで、ストレートも実際に完全なストレートではない。とてもテクニカルなレイアウトで、コクピットのなかでは常に何かをしているようなものすごく忙しいサーキットだよ。僕はそういうところがすごく好きなんだ」(ピエール・ガスリー)

 角田裕毅にとってはここも初めて走るサーキットであり、たった1時間のフリー走行のみで臨まなければならない予選で好結果を記録するのはかなり難しい。

 それでもシーズン後半戦に入ってから採用した慎重なアプローチで徐々に自信を取り戻し、トルコGPからその歩みを速める攻めの姿勢に切り替えた。キレのある走りを見せた開幕当初のような自信が戻ってきていると角田は言う。

「安定した走りをするためにアプローチを変えましたが、それと引き換えにかなりペースを落とさなければなりませんでした。それによってトルコGPまではペースはあまりよくはありませんでしたが、安定した走りができるようになりました。

 それと同時に自信を取り戻していくことができ、トルコGPからはバーレーンGPやエミリア・ロマーニャGPの頃のようなノーマルなアプローチに戻して、リスクを冒さないようにしながらペースを上げて行きました」

 それが結果に結びついたのが、トルコGPの予選であり、アメリカGPの決勝だった。

 ソフトタイヤを履いてでも予選で成功体験をさせて自信をつけさせようというチームの配慮もあり、角田は3戦連続でQ3に進出を果たしている。

「まだ100%ではありませんが、バーレーンGPの頃に近いくらいの自信は取り戻しましたし、この経験を踏まえてまとめ上げることができています。間違いなくコントロールできている度合いは上がっていますし、マシンの限界近くまで攻められるようになっています」

 わずか1時間の走行のみで挑む予選でどこまでポテンシャルを発揮できるかという点にも、このシーズン後半戦の角田の成長が反映されるだろう。そして仮にそこでうまくいかなかったとしても、落ち着いてひとつずつポジションを上げていく心の余裕が今の角田にはある。

 アイルトン・セナの母国で、風はホンダ勢に吹くのか。

「FP1を走行しただけで予選に入り、TD(技術指示書)でエンジンモードの制限をかけられてしまいますから、我々は短い時間のなかでパワーユニットのセットアップを決めなければなりません。チームもドライバーもしっかりと準備を整えて、今度こそ4台入賞・4台完走を目指していきたいと思っています」(田辺テクニカルディレクター)

 今季まだ一度も達成したことのない目標へ向かって、ホンダ勢が走り出す。