左からカミラ・ワリエワ、アンナ・シェルバコワ、ダリア・ウサチョワ。2020年ロシア選手権にて ここまでロシア勢の独壇場となっている女子フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ。アメリカ、カナダ、イタリアの前半3大会が終了し、新しい勢力…



左からカミラ・ワリエワ、アンナ・シェルバコワ、ダリア・ウサチョワ。2020年ロシア選手権にて

 ここまでロシア勢の独壇場となっている女子フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ。アメリカ、カナダ、イタリアの前半3大会が終了し、新しい勢力図が見えてきた。

 今季、北京五輪金メダルへ向けて一気に前進している選手が、シニア初シーズンのカミラ・ワリエワだ。ジュニア初参戦の2019−2020シーズンには、ジュニアGPファイナルのフリーで高難度の4回転ジャンプを封印した構成ながら、長い手足を生かした着実な滑りでショートプログラム(SP)4位からの逆転優勝を果たした。そして世界ジュニアでは、フリーで4回転トーループ2本の構成に挑み、227.30点で優勝。シニア参戦ができる北京五輪シーズンへ向けて"驚異の戦力"となる予感を見せていた。

 コロナ禍で国際大会が中止になった昨季、ロシア選手権のSPでトリプルアクセルに挑戦し、フリーでは4回転トーループ2本を完璧に決めて合計254.01点を獲得。アンナ・シェルバコワに次ぐ2位と、強力なシニア勢に割り込むまでになっていた。

 ワリエワは今季、トリプルアクセルの精度を上げ、フリーは4回転サルコウも組み込む構成に挑んでいる。シニアのGPシリーズ初参戦となった10月下旬のスケートカナダは、SPで世界歴代2位の84.19点をマーク。4回転サルコウと、4回転トーループ2本(うち1本は演技後半の3連続ジャンプ)を入れたフリーは、トリプルアクセルが回転不足ながらも世界最高を大幅に更新する180.89点を獲得。合計でも世界最高を17.49点上回る265.08点を出して優勝し、北京五輪金メダル候補に躍進した。

 2019−2020シーズンに女子フィギュアスケートを一気に進化させた「ロシア3人娘」は、トリプルアクセルを含めたすべてのジャンプをパーフェクトに跳んだアリョーナ・コストルナヤと、4回転を武器にしたアレクサンドラ・トゥルソワ、アンナ・シェルバコワに二分されていた。だが、ワリエワは両者の武器をバランスよく取り入れた完璧なスタイル。さらに演技構成点もフリーではすべて9点台と、シニア初シーズンにしては異例な評価の高さだ。

 ワリエワのフリー『ボレロ』は難しい曲だ。初挑戦した昨季は、高難度ジャンプに加えてしっかり得点をとるために作られた難しいつなぎもあるプログラム構成をこなすのに精いっぱいで、表現しきれていない面もあった。だが今季は、徐々に克服してきている。シニア初シーズンで五輪女王まで駆け上がったアリーナ・ザギトワが、フリーではジュニアからのプログラムを2シーズン続けて勝負のシーズンに完成させたように、ワリエワは『ボレロ』を磨き上げて五輪シーズンにぶつけようとしている。エテリ・トゥトベリーゼコーチの"勝利の方程式"を再び実践していると言える。

 それに続くのは、昨季の世界選手権優勝のシェルバコワで、11月上旬のイタリア杯では、SPは後半に予定していた3回転ルッツ+3回転ループが、3回転ルッツ+2回転トーループになるミスをして3位だった。だがフリーでは世界歴代3位の165.05点を獲得し、合計を236.78点にして逆転優勝。フリーは4回転を冒頭のフリップだけにする抑えた構成だったが、動きにはキレがあってすべてのジャンプも完璧に降りる、迫力もある完成された演技だった。

 トリプルアクセルがないためSPで出遅れるのが彼女の弱点だが、シニア初シーズンにはフリーで4回転ルッツを2本決めている。昨季からその構成を封印しているが、勝負がかかった時にどんなジャンプ構成になるかも含めて注目したい。

 GPファイナルを考えれば、6枠すべてをロシア勢が独占する可能性もある状況だが、続く3番手争いとなると熾烈な状況だ。足のケガの治療のためにNHK杯を欠場したトゥルソワは、スケートアメリカではSPで77.69点を獲得すると、フリーでは4回転を冒頭のルッツだけに抑えた構成で154.68点をとり、合計232.37点で優勝している。GPシリーズ離脱は北京五輪代表争いへ向けてのものだろうが、体調を整えてくればフリーで4回転4種類5本という驚異のジャンプ構成も持っているだけに、一気に抜け出してくる可能性は大きい。

 そしてトゥルソワに続くのはSPとフリーでトリプルアクセルを3本跳ぶエリザベータ・トゥクタミシェワになる。スケートカナダでは、SPはノーミスで81.24点を獲得し、フリーは中盤の3回転フリップが4分の1回転不足になるミスが出たが合計を232.88点にして2位になっている。自己最高は2019年世界国別対抗戦の234.43点。ジャンプの細かなミスもあり、GOE(出来ばえ)加点がもうひとつ伸びていないのが弱点ではあるが、それを克服してくればベテランの安定感があり、代表争いにも食い込んでこれそうだ。

 そうした勢力を追いかける存在として、今季一気に頭角を現してきたのがシニアデビューとなる15歳のマイア・フロミフだ。2020年世界ジュニアの198.24点で成績は4位と目立つことはなかったが、今年2月のロシアカップファイナルでは、フリーで4回転トーループと4回転サルコウを決めて162.19点を獲得し、合計235.96点でワリエワに2.04点差の2位になっていた。

 その力をしっかり見せたのがGPシリーズ初参戦だったイタリア杯だ。フリーで鋭い回転の4回転トーループを2本決め、中盤の3回転ループの回転不足がありながらも154.31点を獲得して合計226.35点で2位になった。ステップはレベル2とまだ若さが見える演技だったが、細かいミスがなければ230点に乗せる力は十分にある。SPの構成は後半のジャンプが3回転フリップ+3回転トーループでまだ高得点を望めないのが弱点でもあるが、冒頭のダブルアクセルをトリプルにし、フリーで4回転サルコウを入れて4回転3本の構成にできれば一気に点が伸びる可能性も。コーチはトゥトベリーゼだけに、進化には目が離せないものがある。

 また、コストルナヤはスケートカナダでは少し重い滑りで、SP、フリーともにトリプルアクセルが回転不足になって3位になっていた。パーフェクトな演技の復活に期待したいところだ。

 今季も、強力なロシア女子の滑りに、注目が集まる。