13万8435人の大観衆が詰めかけたアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは、かつてないほどの大興奮に包まれた。 予選でメルセデスAMGに手痛い敗北を喫したレッドブル・ホンダのふたりが、第18戦メキシコGP決勝で圧倒的な速さを取り戻して逆…

 13万8435人の大観衆が詰めかけたアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは、かつてないほどの大興奮に包まれた。

 予選でメルセデスAMGに手痛い敗北を喫したレッドブル・ホンダのふたりが、第18戦メキシコGP決勝で圧倒的な速さを取り戻して逆襲を果たした。マックス・フェルスタッペンはスタートで首位に立ったあとは独走勝利、そして母国の英雄セルジオ・ペレスはルイス・ハミルトンとの接近戦を制すことはできなかったものの、メキシコ人として初めて母国で表彰台に立ったのだから当然だ。



メキシコ国旗を掲げるフェルスタッペン(左)とペレス(右)

「母国GPで表彰台に立つのは本当に特別なものだよ。もちろん勝ちたかったし、ワンツーフィニッシュなら最高だった。負けず嫌いな人間だから3位では満足はできないけど、今日はこの結果を楽しむべきだろう。これだけ大勢のファンの人たちが応援に詰めかけて楽しんでくれているわけだからね」

 母国で大歓声を浴びたペレスは3位という結果を手放しでは喜ばなかったものの、大観衆の歓喜に笑顔で応えてみせた。

 フェルスタッペンは3番グリッドから前のバルテリ・ボッタスのトウを使い、ターン1に向けてアウト側に並びかけた。メルセデスAMGはタイトルを争うハミルトンを優先しようとするが、加速が鈍かったボッタスはハミルトンにトウを与えることができず、フェルスタッペンをブロックすることもできなかった。

 それを見逃さなかったフェルスタッペンは、最もグリップの優れたレーシングライン上へとマシンを置いて、誰よりも奥までブレーキングを遅らせた。ターン1で勝負を賭けたのだ。

「ストレートエンドではものすごい車速が出ているし、タイヤはスタートしたばかりで冷えているし、ブレーキもまだ熱が十分に入っていないし、かなり正確なブレーキングが必要とされる。イン側だったら普段誰も走らないだけに路面が汚れているからトリッキーになるけど、アウト側ほどはブレーキを遅らせることはできない。もちろん、コーナーに入っていく角度もツラくなるしね。

 僕がブレーキを踏んだポイントは、かなりギリギリのところだということもわかっていた。ターン1の出口では白線ギリギリまで膨らんだけど、もしイン側の誰かがあのくらいブレーキを遅らせれば、間違いなく曲がりきれなかっただろう。そのくらい僕はあそこで勝負を賭けて、それがうまくいった」

 フェルスタッペンはイン側のメルセデスAMG勢をアウト側から一気に抜き去り、トップに立った。

 そこからはフェルスタッペンの独擅場だった。ハミルトンはついていくことができず、ペレスに対して防戦一方となった。

 フェルスタッペンはタイヤをオーバーヒートさせないよう、長いストレートエンドでリフト&コーストと呼ばれるスロットルオフを行ない、丁寧にタイヤを使っていった。前戦アメリカGPの第2スティントで攻めすぎて予定よりも早くタイヤを終わらせてしまった教訓が、しっかりと生かされた成熟のドライビングだった。

「あのターン1の飛び込みでトップに立てたのが、今日の僕にとってものすごく重要なポイントだった。あとはかなりの速さがあったし、自分のペースで走るだけだったね」

 金曜フリー走行では順調な滑り出しを見せながらも、予選では振るわずメルセデスAMG勢にフロントロウを独占されてしまった。

 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)との交錯でQ3最後のアタックを完遂できなかったこともあった。だがそれ以前に、ソフトタイヤのグリップを十分に引き出し切れていなかったのが主たる要因だった。

 それによってレッドブルがパフォーマンスを低下させたのに対し、メルセデスAMGはタイヤをうまく使いこなしてタイムを向上させてきた。その結果として、予選での逆転現象が起きたのだ。

 しかし決勝では、再びレッドブル・ホンダが大きく上回って見せた。メルセデスAMGはマシパッケージで大きな後れを取っていることを認識し、「本来ならば3位を確保するのが精一杯のマシン」(トト・ウォルフ代表)というなかでダメージリミテーションのレースに徹していた。フェルスタッペンとの勝負ではなく、ペレスを抑え込んで2位を死守することに専念するレースになった。

 その逆転劇の要因は、やはりタイヤだったとクリスチャン・ホーナー代表は振り返る。

「今日の我々は、タイヤを正しいウインドウに収めることができたんだと思う。タイヤ温度は非常にセンシティブで、そのせいでQ3では本来の速さを発揮することができず、最終アタックを完遂することができなかった。しかし今日はすばらしくウインドウのなかに収めることができ、両ドライバーともに非常にコンペティティブだった」

 予選でレッドブル勢のアタックを妨害したとしてホーナー代表に非難された角田だが、ターン10で明確に走行ラインを外して譲った角田としてはあれ以外にやりようがなかったと弁明し、ペレスが飛び出したのは彼自身の問題だと指摘。コーナーの先が見えないブラインドの中高速コーナーが連続するセクションで追い着かれるかたちとなり、不運が重なった結果だとホーナーに反論して周囲の賛同を掴んでみせた。

「僕としてはレッドブル勢のアタックを邪魔したとは思っていませんし、彼(ペレス)が自分でミスを犯しただけだと思っています。無線で(後続車両とのギャップ)カウントダウンを聞かされていましたが、僕はすでにセクター2(の中高速コーナーセクション)に入っていて、あれ以上はどうすることもできなかったと思います」

 金曜からピエール・ガスリーと同等に近い走りを見せ、メキシコで角田は速さを発揮していた。予選ではQ3に進出したうえでガスリーにトウを与えるチームプレーに徹しても、なお好タイムを記録していた。ガスリーが予選5位を獲得したように、アルファタウリ自体のパフォーマンスは中団トップだった。

 それだけに戦略的な4基目のパワーユニット投入によるグリッド降格ペナルティが悔やまれた。それでも、それを前提にフリー走行でロングラン最優先のプログラムをこなし、決勝ではこれまでにないレースペースを学ぶ絶好の機会になるはずだった。

 17番グリッドからスタートすることになった角田は、本来の速さを生かしてポイント圏内まで挽回することを目指した。だが、スタート直後のターン1〜2でボッタスのスピンに端を発した多重事故に巻き込まれて、リタイアとなってしまった。



フェルスタッペンは3番グリッドから勝負に出てトップへ

「クルマがいいのはわかっていましたし、かなりポイントを獲るチャンスがあると思っていましたから、ものすごく残念です。僕の横のマシン(エステバン・オコン/アルピーヌ)がサンドイッチされて僕の右リアタイヤにヒットし、僕のマシンが弾き飛ばされたんです。レースではこういうこともつきものですし、とにかく不運だったとしか言いようがありません」

 それでも、ガスリーを上回るほどの速さとチームプレー。この週末に角田が得たものは大きかったはずだ。

 ホンダはF1活動最後のシーズンに、1965年に初優勝を挙げた地で再び勝利を手にすることができた。

 2021年シーズンは残り4戦となり、タイトなスケジュールが続く。ホンダは王座という最終目標へ向けて、そして角田は自身の成長とアルファタウリのランキング5位という目標へ向けて、突き進んでいく。