本気のアイルランド代表に、成す術がなかった。 ラグビー日本代表にとって5−60という大差の完敗は、2018年のニュージーランド代表戦の31−69以来のこと。得失点差55点は、2016年にジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が就任して以…

 本気のアイルランド代表に、成す術がなかった。

 ラグビー日本代表にとって5−60という大差の完敗は、2018年のニュージーランド代表戦の31−69以来のこと。得失点差55点は、2016年にジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が就任して以来、最悪の結果だ。

 2週間前にオーストラリア代表との試合で23−32と善戦した日本代表は、11月6日にダブリンのアビバ・スタジアムに乗り込んで世界5位のアイルランド代表と激突した。2019年ワールドカップで19−12と劇的な勝利を収めた相手であり、今年7月には同じ場所で戦って31−39と惜敗だった。



唯一の海外組である松島幸太朗も活躍できず...

 過去の通算成績は1勝10敗。今度こそ、敵地で勝利を----。選手たちはもちろん、ジョセフHCも「相手は我々のセットプレーを狙ってくる。FW戦がひとつのポイントになるが、私たちがボールを持てば、非常にワクワクするようなBKがいてトライを取れる。遂行力の精度が上がれば勝機はある」と闘志を燃やしていた。

 また指揮官は、このアイルランド代表戦で新戦力を起用し、経験を積ませる狙いもあった。

「(コロナ禍で)この2年間、テストマッチを3戦しか行なってきていない。エクスペリエンス(経験)とエクスペリメント(実験)の要素がいる」と語り、実績のある2019年W杯メンバーを11人先発させると同時に、2023年W杯を見据えてFL(フランカー)ベン・ガンター、WTB(ウィング)ディラン・ライリー、WTBシオサイア・フィフィタを先発させ、控えのSH(スクラムハーフ)齋藤直人もグラウンドに送り出した。

 しかし、そんな日本代表の狙い、思惑は一蹴されてしまう。

 アイルランド代表は、2019年W杯の日本代表戦をケガで欠場した主将SO(スタンドオフ)ジョナサン・セクストンにとって通算100試合目のテストマッチ。それを祝うためにも負けられない気迫に包まれていた。また、7月の日本戦には出場していなかったNo.8(ナンバーエイト)ジャック・コナンなどトップ選手6人が先発するなど、ベストに近い布陣を敷いてきた。

「キックを使いながら、ディフェンスのところでプレッシャーをかけて、アンストラクチャー(崩れた状態)でアタックしようと話していた」

 副キャプテンのCTB(センター)中村亮土が振り返ったとおり、日本代表は相手の強い接点を避けるため、キックを使いながら鍛えてきたスピードとフィットネスで勝負に出た。

 しかし、ミスや接点での反則が重なり、なかなか自分たちの意図した攻撃ができない。すると前半4分、ガンターが中途半端に前に出た隙を突かれて、WTBジェイムズ・ロウに先制トライを許す。さらに前半8分、日本代表は敵陣に攻め込むがライリーのノックオンで好機を失うと、前半11分にはモールを起点にWTBアンドリュー・コンウェイにトライを奪われた。

 その後、SO田村優のタッチキックミス、HO(フッカー)坂手淳史のスローイングミスなど、チームを引っ張らないといけない経験豊富な選手にもミスが続出し、一方的な展開となっていく。アイルランド代表は自陣からでもキックを使わずパス主体のアタックに切り替えて2トライを追加し、前半は0−29で折り返した。

 後半、ラインアウトで劣勢だった日本代表は、ペナルティから速攻を仕掛けた。しかし、17分にWTBフィフィタが1トライを挙げるのがやっと。結局、さらに5トライを重ねられて5−60でノーサイドを迎えた。

 新たに日本代表のキャプテンに就任したFLピーター・ラブスカフニは、試合後に肩を落とした。

「アイルランド代表にプレッシャーをかけ続けられたが、残念という言葉だけでは私たちの気持ちを表現しきれない。努力を形にできなかったのが大きい」

 ジョセフHCも反省の弁をこう述べた。

「アタック、ディフェンス、セットプレー、すべてを改善しないといけない。ラインアウトスローで3回、ミスした。ノックオンなども多かった。モメンタム(勢い)を作っていかないと、チャンスを作るのは難しくなる。モメンタムを作ればアタックできるので、その部分をしっかり修正したい」

 指揮官の言葉どおり、スクラムこそ奮闘したものの、ラインアウト、アタック、ディフェンス、接点とほかのすべてで劣勢だった。相手を上回っているエリアも少なかった。ラインアウトの中核を成すLO(ロック)のポジションにケガ人が続出し、本来はFL/No.8のジャック・コーネルセンが先発するほどLO不足だったことも響いた。

 オーストラリア代表戦でも課題となった接点でも常に後手を踏み、13回も反則を繰り返してしまった。中村は「アイルランドが接点でプレッシャーをかけてきて、自分たちがボールを持ってもすぐにターンオーバーされて、ペナルティが起きる状況になった」と唇を噛んだ。

 唯一の海外組であるFB(フルバック)松島幸太朗と、今春ニュージーランドで武者修行したNo.8姫野和樹は、アイルランド代表との実力差をこう振り返った。

「アイルランド代表のひとり目のボールキャリアーにタックルできなかったり、オフロードパスを通されたりして、ラインブレイクされた。アタックで相手のうまさが出ていた」(松島)

「アイルランドがすばらしいアタックをして、それに対して自分たちが受けてしまい、流れをなかなか掴めなかった。自分たちがいけなかった理由は、気持ちが足りなかったから。マインドセット(心構え)が足りなかった。それに尽きる」(姫野)

 2023年W杯に向けて残り2年を切ったなか、敵地でのテストマッチは厳しいレッスンとなった。キャプテンのラブスカフニは「まずこのゲームから、より強くなるために学ばないといけない。私はこのチームを信じている。今をちゃんと見て、次の試合にもしっかり集中していかないといけない」と前を向いた。

 ジョセフHCが好んで使っていた言葉がある。精神的抵抗力、不屈の精神を意味する「レジリエンス」だ。11月14日のポルトガル代表戦、そして20日のスコットランド代表戦は、まさしくそれが問われる戦いになる。