標高2285メートルのメキシコシティは、富士山の5合目と同じ空気の薄さ。それゆえに、人も、マシンも、パワーユニットも平地とは異なるチャレンジに直面する。 初めてメキシコを訪れた角田裕毅は、心拍数と持久力を意識してトレーニングをしてきたとい…

 標高2285メートルのメキシコシティは、富士山の5合目と同じ空気の薄さ。それゆえに、人も、マシンも、パワーユニットも平地とは異なるチャレンジに直面する。

 初めてメキシコを訪れた角田裕毅は、心拍数と持久力を意識してトレーニングをしてきたという。



初めてメキシコシティでレースを経験する角田裕毅

「こんな環境でドライブするのは初めてなので、メキシコシティの標高の高さがどんな影響を及ぼすのか、体験するのを楽しみにしています。

 僕たちはヘルメットを被りますし、首や腕にもいつも以上の負荷がかかって、かなり違うのではないかと思います。一番の違いは心拍数だと思いますが、普段は特に問題を抱えたことがないですが、今回はメキシコGPに向けて持久力を念頭に置いたトレーニングをしてきました」

 1200メートルという長いストレートがあるにもかかわらず、マシンにはモナコGPと同じ最大ダウンフォースの空力パッケージが装着される。それでもウイングから生み出されるダウンフォースと空気抵抗はイタリアGP仕様の極薄ウイングを下回るという。平地に比べて空気の密度が25%も低く、それゆえにマシンは滑りやすく、常にスライドしながらのドライビングを強いられる。

 空気が薄いがゆえに冷却も厳しくなり、ブレーキもパワーユニットも温度の負荷が大きくなる。それに対処するためにボディカウルには大きな穴を開け、空力性能はさらに失われることになる。その妥協点をいかに見出すか、というセットアップのせめぎ合いとなる。

 ドライバーズ選手権をリードするマックス・フェルスタッペンは言う。

「どれだけ理論上有望だったとしても、もっとも大切なのはディテールなんだ。セットアップを徹底的に煮詰めなければならないし、いろんな条件の組み合わせにもかかっている。FP1からそこをしっかりとやり、マシンセットアップの正しい方向性を確実に見定める必要がある」

 パワーユニットに入る酸素の量も減るため、ターボを平地以上に回してなるべくロスを小さくする。その点が2019年のホンダはライバルに比べて優っており、高地で優位に立っていた。

 ただし、それが今年も保たれているかどうかはわからない。

 ホンダ自身のターボ性能のよさに変わりはないが、相対的な性能差はライバル次第だからだ。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「今年は新骨格のICEに合わせて、ターボにも手を入れてきています。全体的に高効率で性能を上げていますので、(今年のメキシコでも)悪くはないと思っています。

 ただし、ライバルがどう改良してきているか、平地に対応する改良だけでなく高地に対する改良をどのようにしてきているのか、わかりません。今年ここまでの戦いをみてもわかるように、絶対優位というのはありませんし、過去に優位だったからといっても走ってみなければわからないと思っています」

 メキシコといえば2015年の復活以来、伝統的にレッドブルが得意としてきたレースだ。それは長いストレートの見た目とは裏腹に、実際には極めてコンパクトでツイスティな中低速コーナーで構成されるサーキットだからでもある。

 初めてここを走る角田も、シミュレーターで走った印象は特殊だったという。

「シミュレーターや車載映像を見ても、メキシコは普通のサーキットとは違ってかなり特殊です。特にセクター1はかなりタイトで、90度コーナーや低速コーナーがたくさんあります。なかには60〜70km/hのコーナーもあるほど。標高の高さのせいで空気が薄く、ダウンフォースがかなり少ないということも聞いているので楽しみにしていますが、僕にとっては簡単なレースにはならないと思います」

 見た目に反して、実はモナコのような特性を持つ。そこに空気の薄さとパワーユニットへの特殊な要求が重なり合うのが、アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスだ。

 今年はセルジオ・ペレスがレッドブル・ホンダをドライブし、すでに1勝を挙げて2戦連続で表彰台を獲得しての凱旋。彼にとっても昨年初優勝を挙げて以来、グランプリウィナーとして母国に凱旋するのはこれが初めてのことになる。

 水曜にメキシコシティのど真ん中で行なわれたデモ走行イベントには、実に14万人もの大観衆が詰めかけた。ペレスは独立記念塔や高級ホテルなどが建ち並ぶレフォルマ通りでドーナツターンを決めて、大観衆を沸かせた。

 今週末のチケットも当然完売で、メキシコのファンの期待は高まっている。

 これまでフェルスタッペンのタイトル争いをサポートする役割に徹してきたペレスだが、もし自身が母国でレースをリードしていてもフェルスタッペンに勝利を譲るのか? チームオーダーは発令されるのか?

 メルセデスAMGは、バルテリ・ボッタスが「僕はもうタイトル争いに加わっていないので、チームプレーヤーだ」と、ルイス・ハミルトンへの援護射撃を宣言している。その一方で、レッドブルはまだその姿勢を明らかにはしていない。

「もしそんな問題に直面することになれば、うれしい悲鳴だね。これまでのレースでもやってきたのと同じように、状況によりけりだと思う。今のところはあまりそういうことは考えていないし、チームでもそういう議論は何もしていないよ。

 まずは、土曜の予選が終わってから話し合うことになると思う。現時点では(予選で好結果を残して)そういう状況になるという保証もないわけだからね。いずれにしてもチーム全体から大きなサポートをしてもらっているし、チーム全員が今週は僕に勝ってもらいたいと思ってくれていると確信しているよ」(ペレス)

 1965年にホンダがF1参戦2年目にして初優勝を挙げた地----メキシコシティで、あの時と同じカーナンバー11番を付けたペレスがどんな走りを見せるのか。

 ここからシーズンは、6週間で5戦という怒濤のクライマックスへと突入する。フェルスタッペンとしても、ホンダとしても、角田裕毅としても、それぞれがそれぞれの思いと目標を抱えてのシーズン最終盤へと挑んでいくことになる。