五輪シーズンが本格的にスタートした今季の女子フィギュアスケートでは、シニアデビューしたばかりのロシアの若手が金メダル最有力候補に名乗りを挙げた。グランプリ(GP)シリーズ第2戦のスケートカナダでショートプログラム(SP)84.19点(世界…

 五輪シーズンが本格的にスタートした今季の女子フィギュアスケートでは、シニアデビューしたばかりのロシアの若手が金メダル最有力候補に名乗りを挙げた。グランプリ(GP)シリーズ第2戦のスケートカナダでショートプログラム(SP)84.19点(世界歴代2位)、フリー180.89点(世界最高)、合計265.08点(世界最高)という驚異の得点を叩き出して初優勝した15歳のカミラ・ワリエワだ。



スケートカナダで世界最高得点を叩き出して優勝したカミラ・ワリエワ

 ロシアの「選手製造工場」の総監督として指揮するエテリ・トゥトベリーゼの秘蔵っ子。憧れの選手は同じエテリの門下生で、2018年平昌五輪女王となった4歳上のアリーナ・ザギトワだという。

 前哨戦の10月のフィンランディア杯では、サルコウ(S)とトーループ(T)の2種類の4回転を計3度、それもトーループ2本は4T+3Tの2連続と4T+1オイラー+3Sの3連続のジャンプという高難度ジャンプを跳んでいた。シニアGP初陣でも両手を挙げながら同じジャンプ構成の4回転を3度成功させ、GOE(出来栄え点)加点でも3点前後の高得点をマーク。フィンランディア杯で出した世界最高得点をフリーで6.58点、合計では15.84点も更新させる勢いを見せた。

「プランどおりにできたし、とても興奮しています。もっときれいに滑りたいし、上を目指したい」(ワリエワ)

 スケートカナダでは、4回転のほか、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)にも挑戦。惜しくもステップアウトして成功しなかったが、まだまだ伸びしろはありそうだ。3歳で競技を始め、13歳でジュニアGPファイナルと世界ジュニア選手権の2冠を達成。ザギトワを超える天才少女と言ってもいいのかもしれない。

 だが、新星はワリエワだけではない。同門でやはり15歳のダリア・ウサチョワも、GPシリーズ第1戦のスケートアメリカで総合2位の好成績を挙げてシニアデビューを飾っている。大技のジャンプこそ跳ばなかったが、手足の長さを生かした滑らかな滑りで、ベテラン勢に引けを取らない演技を見せた。

 今から2シーズン前、15歳で鮮烈な世界デビューを飾って一世を風靡した「ロシア3人娘」は記憶に新しいところだが、次から次へと新鋭たちを輩出するフィギュア王国ロシア女子の強さはとどまるところを知らない。

 その「ロシア3人娘」のなかで今季注目を集めそうなのが、スケートアメリカでSP、フリーともに1位の合計232.37点で完全優勝したアレクサンドラ・トゥルソワだ。SPではトリプルアクセルを回避したが、フリーでは、4回転ルッツと2本の3回転ルッツを含む計7度のジャンプをミスなく跳び、全ての要素で加点を得た。

「今日は4回転がひとつだけの簡単な内容でしたが、(次戦からは)もっと内容のレベルを上げていきたいです」と、意欲満々だったトゥルソワは、女子として初めて4回転ルッツや4回転+3回転の連続ジャンプを成功させた。フリーではルッツ、フリップ、サルコウ、トーループの4種類の4回転を計5本組み込み、全て着氷できる能力の持ち主である。基礎点が1.1倍となるプログラム後半、疲れが出始めるなかで難易度の高いルッツジャンプを2本も平然と跳ぶタフさもある。

 現在17歳のトゥルソワは2019-2020シーズンに「時の人」になったものの、身体的な成長からくるスランプに陥って、「3人娘」の他の2人のアンナ・シェルバコワやアリョーナ・コストルナヤに遅れを取ってしまったが、今季は均整の取れたしっかりと鍛えあげた体幹を作って復活。やはり北京五輪金メダル候補のひとりとして期待が高まりそうだ。

 それ以外にもロシアには強豪がいる。スケートカナダで総合2位になった24歳のエリザベータ・トゥクタミシェワは、年齢を重ねるごとに個性的で芸術的なプログラムを抜群の表現力で演じている。SP、フリーでトリプルアクセルを計3本、完璧に跳んでトップ争いに食い込んでくるだろう。

 また、2019年GPファイナル女王のコストルナヤも、昨季の不振を脱してキレのあるジャンプと安定感のある演技を取り戻し、スケートカナダでは3位で表彰台に上った。一方、世界女王のシェルバコワは、シーズンオフに足の指を負傷し、新シーズンに向けた調整が2カ月ほど遅れているという。それでも少しずつ調子を取り戻しているようで、完全復活したら北京五輪女王候補に躍り出るだろう。

 世界のトップ争いを繰り広げるだろうロシア女子スケーターの名前を列挙してきたが、残念ながらそこにザギトワの名前はない。まだ19歳で、現役続行の意思を表明しながらも、今季のロシア代表強化メンバーから除外され、北京五輪への道は事実上、絶たれている。現在はインフルエンサーとして、テレビ番組の司会やモデルとタレントなどの活動に取り組んでいる。

 シニアに転向した後のロシア女子の選手寿命は、日本の女子と比べるとかなり短いと言えるかもしれない。現在もトップ選手として活躍するトゥクタミシェワは例外で、平昌五輪銀メダリストで21歳のエフゲニア・メドベデワは体調不良により今季の競技復帰を見送った。

 ソチ五輪女王のアデリナ・ソトニコワも2015-16シーズンを最後に競技会に出場せず、2020年3月に23歳で現役引退を表明。また、ジュニア時代から輝かしい実績を残してきたエレーナ・ラジオノワも、2018年から活躍の機会を失ったまま、コロナ禍の昨年9月に21歳の若さで現役引退した。新星たちが続々と誕生する選手層の厚さもあって、活躍の場から押し出される20歳前後のスケーターたちが大勢いることは指摘しておきたい。

 北京五輪を控える今季は、苛烈な世代交代を繰り広げてきたロシア女子にとってどんなシーズンとなるのか。どの選手にとっても初出場となる五輪代表切符3枚をめぐる熾烈な争いが展開されることは間違いない。