残り8分で10−29。万事休すと思われた。だが、そこから"アカクロ軍団"の高速BK(バックス)が本領を発揮した----。 11月3日に行なわれた関東大学ラグビー対抗戦。開幕から4連勝同士の早稲田大と帝京大が…

 残り8分で10−29。万事休すと思われた。だが、そこから"アカクロ軍団"の高速BK(バックス)が本領を発揮した----。

 11月3日に行なわれた関東大学ラグビー対抗戦。開幕から4連勝同士の早稲田大と帝京大が駒沢オリンピック公園陸上競技場で激突した。



果敢にトライを狙う早稲田大のエースFB河瀬諒介

 後半34分、早稲田大のエースFB(フルバック)河瀬諒介(4年)が抜け出し、そのチャンスからWTB(ウィング)槇瑛人(3年)がトライを奪う。さらに38分、今度は河瀬が再び個人技を見せてトライを挙げて、帝京大に7点差と猛追する。

 しかも危険なプレーがあったため、帝京大のひとりがシンビン(10分間の途中退場)となり、早稲田大が数的有利となる。1トライ1ゴールで同点の状況。しかしロスタイム、相手ゴール前まで迫ったものの途中出場のSO(スタンドオフ)伊藤大祐(2年)が足を滑らせてしまい、帝京大にボールを奪取されて追撃もここまで。22−29のままノーサイドを迎えた。

 昨季、大学選手権の決勝で天理大に28−55と大敗して連覇を逃した早稲田大は、今季から元日本代表SOで早稲田OBの大田尾竜彦氏を監督に招聘。早稲田大→ヤマハ発動機(現・静岡ブルーレヴズ)で清宮克幸氏(現・日本ラグビー協会副会長)に薫陶を受けた頭脳派が新たな指揮官となった。

 清宮氏もスタンドから見つめた試合は、3年ぶりに帝京大に敗れる結果となった。大田尾監督は「自分たちの土俵で戦えていなかったことが一番(の敗因)。アタックマインドを持ってこのチームを作り上げ、それを達成するに十分なフィットネス、スキルを持っていたが、それを発揮させられなかった。こちら(コーチ陣)のミス」と唇を噛んだ。

 早稲田大は春からレスリングトレーニングで接点を鍛えたことが功を奏し、夏の練習試合では帝京大に40−24と快勝した。だが、本番の対抗戦では前半からうまくゲームを作ることができなかった。

 風下だった早稲田大は、素早く前に出てくる帝京大のディフェンスに対応するため、自陣からハイパントキックを多用して敵陣に攻める戦術を採った。183cmの河瀬、182cmのWTB松下怜央(3年)といった高身長の選手がいるために有利に戦え、さらには後半勝負のためにコンタクト回数を減らしておこうという狙いもあったかもしれない。

 しかし、実際にはキックで再びボールを獲得することができなかった。しかも、キック処理をミスしたこともあり、敵陣でプレーする時間はほとんどなかった。

「(前半)帝京大さんのエリアでプレーしたのは1分に満たなかった。(ハイパント)キックを使って敵陣で戦おうと指示したのは我々(コーチ陣)。選手は我々の指示に従ってやってくれた。キックチェイス、こぼれ球の最後の詰めが足らなかった」

 試合後、大田尾監督は反省の弁を述べ、キャプテンのCTB(センター)長田智希(4年)も「相手のほうがこぼれ球は反応が早かったので修正したい」と振り返った。

 また、この試合の流れを決めたのは、やはりスクラムだった。

 大田尾監督は就任後、ヤマハ発動機時代の盟友で日本代表経験もある元PR(プロップ)の仲谷聖史をFWコーチとして招聘した。ヤマハ発動機流、つまり現在は日本代表のスクラムコーチを務める長谷川慎コーチのメソッドを導入したというわけだ。

 春からFW(フォワード)の8人で低いスクラムを組み込んできた。将来を見据えて3番から1番にコンバートしたPR小林賢太(4年)も「スクラムが試合を決めると言っても過言ではない。武器にしなければ日本一という目標には届かない」と語るほど、日々スクラムのトレーニングに時間を割いてきた。

 しかしこの日の試合では、帝京大が武器としていたスクラムに1本目から粉砕されてしまう。

 帝京大のキャプテンPR細木康太郎(4年)は「最初のスクラムでプッシュしようと試合前から話していて、ヒットしてから8人が自信を持って足を前に運べた」と破顔。早稲田大は前半だけで3本のスクラムでのコラプシング(スクラムやラック、モールを故意に崩すこと)の反則を犯してしまい、さらにマイボールスクラムでもプレッシャーを受け、こぼれ球を奪われてトライを許してしまった。

 一度傾いた流れは、後半になっても止めることはできなかった。小林は「組む前のHO(フッカー)の間合いなどで自分たちが後手に回ってしまった。また、レフェリーのコールに対して自分たちが一番強い形になりきれず、帝京大の強い形のなかで組んでしまった」と悔しそうな表情を見せた。

 ただ、ひとつ疑問が残った。マイボールスクラムで組んだ瞬間にHOが足をかいてボールを出す「ダイレクトフッキング」を、なぜ使わなかったのか。

 それについて、大田尾監督は「ダイレクトフッキングという変化球を投げるよりも、ストレートに(真っ直ぐ押すことで)勝負した。僕も(仲谷)FWコーチも、やろうとしたことを今日の8人で自信を持ってやった、という捉え方をしてもらえれば」と説明した。

 今回対戦した帝京大だけでなく、対抗戦の好敵手・明治大、関東リーグ戦の優勝候補筆頭・東海大、関西リーグの首位・京産大など、いずれのチームもスクラムに自信を持っている。今後の大学選手権での対戦を見据え、スクラムの強化から逃げては通れない。春から真っ直ぐ組むことにこだわっていた早稲田FW陣は、あえて真っ向勝負を挑んで自分たちの現在地を測ったのかもしれない。

 早稲田大の今季のスローガンは「BE HUNGRY」。

 昨季、天理大に力負けした接点は強みに変わりつつあり、BKの走力、得点力は大学随一である。自分たちの強みを再確認し、課題のスクラムを貪欲にレベルアップさせることができるか。

 対抗戦は残り2戦。11月23日の「早慶戦」、12月5日の「早明戦」で連勝し、優勝を目指す。