今年4月、世界国別対抗戦でフリー『天と地と』を演じる羽生結弦 10月22〜24日のスケートアメリカで開幕した、2021-2022シーズンのフィギュアスケートグランプリ(GP)シリーズ。男子は世界選手権3連覇中で、2018年3月の世界選手権か…



今年4月、世界国別対抗戦でフリー『天と地と』を演じる羽生結弦

 10月22〜24日のスケートアメリカで開幕した、2021-2022シーズンのフィギュアスケートグランプリ(GP)シリーズ。男子は世界選手権3連覇中で、2018年3月の世界選手権から出場する大会で連勝を続けていたネイサン・チェン(アメリカ)が、3位となる驚きの結果から始まった。

 チェンのショートプログラム(SP)の演技は衝撃的だった。冒頭の4回転ルッツで転倒。続くトリプルアクセルはしっかり決め、フライングキャメルスピンもレベル4と動揺は見せなかった。だが、後半の4回転フリップの着氷でバランスを崩し、間をおいて1回転トーループをつけるも連続ジャンプにならず。4回転ジャンプふたつのミスで82.89点の4位発進。SP80点台は2018年11月のGPシリーズ・フランス杯以来で、82点台はすべてのジャンプでミスをして17位発進となった2018年平昌五輪以来だった。

 結局、フリーでも2本の4回転ジャンプがパンクするなど、269.37点にするだけで逆転優勝とはならなかったが、驚いたのはその演技構成だった。

 エントリー時点では、昨季の世界選手権と同じ、4回転を4種類5本の構成だったが、演技前に出したプランは冒頭に4回転ループを加え、4回転5種類6本の構成。しかも後半最後の2本には4回転トーループ+1オイラー+3回転フリップと、4回転トーループ+3回転トーループを入れていた。そして冒頭の4回転ループは、『モーツァルトメドレー』のピアノの静かな曲調の音のなかで、軽い跳び上がりからきれいに決めたのだ。

 そのあとの4回転ルッツは2回転になり、4回転フリップ+3回転トーループは余裕をもって決めたが、4回転サルコウはともにパンクで2回転になった。そこは羽生結弦もよく話しているような、エッジ系ジャンプとトー系のジャンプの切り替えの難しさなのだろう。それはSP1位のヴィンセント・ジョウ(アメリカ)との14.54点差を逆転するための選択だったと見られるが、この構成を用意していたのは驚きだった。

 連戦で挑んだ10月29〜31日のスケートカナダで、SPは最後のジャンプを4回転トーループ+3回転トーループにしてノーミス。フリーは4回転を3種類4本へとレベルを下げ、わずかなミスはありながらも307.18点と立て直してきた。だが4回転6本の構成は、4回転アクセルを導入しようとしている羽生がそれを完成させてきた時の対抗策として準備していたものでもあるのだろう。

 羽生は今季、世界選手権3位で出場大会選択の優先権もなかったため、第4戦のNHK杯と第6戦のロステレコム杯に出場する予定だ。チャレンジャーシリーズの出場を回避しているのも見れば、国内でじっくり4回転アクセルの練習に取り組み、初戦からぶつける覚悟を決めていると思われる。

 そして10月に羽生は、テレビ朝日を通じて「今まで『進化』とか『挑戦』とか言ってきましたが、毎日できることは違うし、苦しんだり、楽しかったり、幸せを感じたり、悲しみを感じたり、いろんな感情はありますが、できることをひとつずつ丁寧に積み重ねていきたいと思っています。自分の一番の目標は4回転アクセルを完成したいということなので、そこに向かって今、全神経と、全気力を使っている感じです」というコメントを発表した。

 羽生にとって今季初戦となるNHK杯は、SPの初披露ともなる大会。7月のアイスショー「ドリーム・オン・アイス」に向けてのインタビューでは、曲名は明かさずに、「羽生結弦ならではのプログラムにしたいと思っています」と回答していた。昨季も当初はピアノ曲を探していながらも納得できる曲がないことと、見ている人を笑顔にしたいとロック調の『レット・ミー・エンターテイン・ユー』とした。

 だが、今季はフリーの『天と地と』を、4回転アクセルを入れた勝負のプログラムにするなら、SPにはピアノ曲を持ってくる予感がする。過去に『バラード第1番ト短調』と『SEIMEI』という、"クラシック"と"和"で挑んだように、テーマ性が高く、力強さも見せていく"和"の『天と地と』と組み合わせるなら、繊細な音を丁寧に表現するピアノ曲になるだろう。

 ジャンプ構成にも注目だが、4回転アクセルを入れたフリーを思いきりできるようにするためにも、最初から高い完成度でのノーミスの演技は頭にあるはずだ。そう考えれば、SPでは完璧な演技で111.82点を出した2020年の四大陸選手権のような、4回転をサルコウとトーループにする構成が考えられる。

 またさらに注目は、4回転アクセルを冒頭に持ってくるであろうフリー『天と地と』のジャンプ構成だ。昨季は前半で4回転ループを跳んで次は4回転サルコウ。そして3本目と4本目は「風を感じさせたい」と、トリプルアクセルに両手を上げた2回転トーループを跳び、すぐあとを3回転ループにしていた。その流れを重視したいなら、4回転アクセルのあとの2本目に4回転ループを入れて後半は単発の4回転サルコウと、4回転トーループは連続ジャンプと3連続ジャンプにする2本。合わせて4種類5本の4回転にするのか。

 と......、いろいろ想像してみるのは楽しいことだ。11月12日に開幕するGPシリーズ・NHK杯でベールを脱ぐ、羽生結弦の新たな挑戦。その戦いの開幕が、今から待ち遠しい。