先月31日に投開票が行われた第49回衆議院議員選挙で、比例東海ブロックから自民党の公認で立候補した元F1ドライバーの山本左近氏(39)が初当選を果たした。比例区単独での出馬で名簿順位は31位だったが、同ブロックで自民党は9議席を獲得し、最…

 先月31日に投開票が行われた第49回衆議院議員選挙で、比例東海ブロックから自民党の公認で立候補した元F1ドライバーの山本左近氏(39)が初当選を果たした。比例区単独での出馬で名簿順位は31位だったが、同ブロックで自民党は9議席を獲得し、最後の9番目の席に滑り込んだ。

2010年のF1日本GPを走行する山本左近氏。当時の所属はHRT(モビリティランド提供)

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 「今回は支援者の皆さまに最後尾のスターティンググリッドに押し上げて並ばさせていただきました。新しい挑戦の第一歩が始まります。焦らず、でも確実に、皆さんと共に新しい時代をつくっていくためにも挑戦して参ります」とモータースポーツ用語を交えて喜びの談話を発表した。国政選挙への挑戦は2度目。2019年の参院選では自民党から比例区で初出馬するも落選した。

 同じ比例区でも参院選と衆院選では闘い方が異なる。参院選は選挙区選挙と比例代表選挙に分かれ、比例区は全国が対象。投票用紙には政党名か候補者の名前を記載して投票することができ、得票数の多い候補者から当選人が決まる。つまり自分自身を売り込まなければならない。

 一方の衆院選は小選挙区比例代表並立制だ。比例区は全国を11ブロックに分けており、拘束名簿式を採用。さらに小選挙区との重複立候補が認められ、あらかじめ決まっている名簿順位に応じて当選人が決まる。投票用紙へも政党名のみを記載することになっている。だから基本的には政党を前面に押し出して運動をする。

 19年の参院選に初出馬した際は、地元の愛知県だけでなく、東京など全国で遊説を展開。しかも短い期間で各地を行脚しなければならなかった。その後の得票データを調査して思い切って地元に注力して活動をしていれば、当選した可能性もあったとの声もあった。

2019年の参院選に出馬した時の山本左近氏(鶴田真也撮影)


 今回の衆院選は逆に追い風が吹いた。自分よりも上の名簿順位30位までの候補者は全て小選挙区との重複だったが、小選挙区で次々と接戦を制し、選挙区で落選した自民党の候補者はわずか8人。比例単独では名簿最上位だった左近氏に最後にお鉢が回ってきた。そのため、当選の報が届いたのは日付が替わった1日未明だった。

 出身は愛知県豊橋市で、06年にスーパーアグリからF1にデビュー。07年にスパイカー、10年にHRTに所属し、計21戦に出場した。15年には電動車のフォーミュラEにもスポット参戦。F1を退いて以降は医療法人や社会福祉法人の理事を務め、やがて国会議員を目指すようになった。今回の選挙でも質の高い医療と介護の提供を訴え、世界的なモータースポーツイベント招致などの公約も掲げていた。

 「選挙戦を通じて改めて自動車に関わる税制や自動車の未来の在り方など、レーシングドライバーとして育ち、F1の世界で日の丸を背負ってきた山本左近だからこそできることがある」と決意を新たにした。

 元F1ドライバーでは7月に死去した通算12勝のカルロス・ロイテマンさんがアルゼンチンで国会議員を務めた例がある。ちなみに自民党の三原じゅん子参議院議員は歌手、俳優の経歴を持つが、フォーミュラ・トヨタや全日本GT選手権(現スーパーGT)などにも参戦した元レーシングドライバー。モータースポーツの世界では左近氏の先輩にあたる。

 新型コロナウイルス禍で昨年、今年とF1日本GP、世界ラリー選手権ラリージャパン、鈴鹿8時間耐久ロードレースなど、二輪を含めたモータースポーツの全ての世界選手権イベントが2年連続で中止となった。そこでホストサーキット側も東京五輪でも採用されたバブル方式を用いて、外部との接触を徹底的に防ぐ十分な感染対策を綿密に立てたが、関係者の入国ビザが発給できるかの保証がなく、泣く泣くイベントの開催を断念した経緯がある。

 おそらく開催に向けて骨を折った政治家は多いだろうが、最終的には政府の理解を得られなかったと見る向きもある。実際に過去に国会に提出する動きがあった「公道レース法案」もいまだに日の目を見ていない。1年生議員ながらモータースポーツの世界に精通する左近氏の手腕が試されるところだ。

 サーキット場から国会議事堂に職場を移した左近氏が身命を賭して国政にまい進する。大いに期待したい。

[文/中日スポーツ・鶴田真也]

トーチュウF1エクスプレス(http://f1express.cnc.ne.jp/)



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