10月23日・24日に大分県で行なわれたスーパーGT第6戦。2年ぶりの開催となったオートポリスの舞台で、主役の座に立ったのはホンダNSX-GTだった。 ここ数年、ホンダは目を見張るような快進撃を続けており、昨年はシリーズチャンピオンを獲得…

 10月23日・24日に大分県で行なわれたスーパーGT第6戦。2年ぶりの開催となったオートポリスの舞台で、主役の座に立ったのはホンダNSX-GTだった。

 ここ数年、ホンダは目を見張るような快進撃を続けており、昨年はシリーズチャンピオンを獲得。今年もトヨタGRスープラや日産GT-Rの反撃に対し、王者の貫禄で互角に張り合っている。

 しかし、過去のデータを見てみると、ホンダがこのオートポリスで最後に優勝したのは14年前の2007年(伊藤大輔/ラルフ・ファーマン組/ARTA NSX)。久しく同地での勝利から遠ざかっていた。



オートポリスで盤石のレースを披露したナンバー8のARTA NSX-GT

 ただ、ホンダ勢がオートポリスを不得意にしていたわけではない。ミッドシップレイアウトのNSX-GTで戦っていた頃から速さはライバルに負けておらず、2017年から2019年まで3年連続でポールポジションを獲得。決勝でも表彰台を獲得するなど、上位争いに絡む走りは見せていた。

 ホンダは昨年からNSX-GT をFR化したため、今回のオートポリスは新型マシンでの初レースとなる。果たしてFRマシンのNSX-GTは、オートポリスでどんなレースを見せたのか。

 いざフタを開けてみると、予選では笹原右京/大湯都史樹組のRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(ナンバー16)がポールポジションを獲得。4台がQ2に進出するなど、一発の速さでホンダが周囲を圧倒した。さらには決勝でも、野尻智紀/福住仁嶺組のARTA NSX-GT(ナンバー8)が安定した走りを見せ、2番手以下に28秒もの大差をつけて今季初優勝。大分でホンダ勢14年ぶりの優勝を成し遂げた。

 一方、ランキングトップにつける山本尚貴/牧野任祐組のSTANLEY NSX-GT(ナンバー1)も、100kgのサクセスウェイトを背負いながら予選13番手から順位を上げて6位でフィニッシュ。ドライバーズランキングでトップを独走する山本は、早くもチャンピオン獲得に王手をかけた。

 まさしくホンダは、オートポリスで主役だった。14年ぶりに勝利を挙げたことで、ホンダの佐伯昌浩ラージプロジェクトリーダーは安堵の表情を見せていた。

「ホンダとしては長い間、オートポリスでポールポジションは獲得するものの優勝できていなかったので、今年はなんとか勝ちたいと思っていました。ようやく九州のファンのみなさんの前で優勝することができました。8号車が優勝したのはもちろんですが、ポイントリーダーの1号車が6位入賞でポイントを重ねたのも、タイトル獲得に向けて大きな意味があります」

 予選一発の速さでライバルを上回るパフォーマンスを見せるものの、決勝では逆転されてしまって勝利を逃す......。ミッドシップのNSX-GTで戦っていた2019年までのホンダは、オートポリスにおいてそういうレースが多かった。

 それが2020年からFRに変わったことで、今回は決勝でも粘り強い走りを見せるようになった。しかし、強くなった要因を「FRになったから」で片づけるのは早計だ。

 今シーズンのホンダは、FR仕様にタイヤメーカーと取り組んできたことがようやく成果として表れつつある。予選で後方に下がってもポジションを上げてこられるように、マシンだけでなくタイヤや戦略面なども見直したことで総合力が増した。

 たとえば、ランキングトップの1号車。シーズン前半の第4戦・もてぎで優勝を飾った彼らは、早い段階でサクセスウェイトが50kgを超える状況となった。当然、予選では不利な立場となって後方スタートとなったが、それでも第5戦SUGOで表彰台を獲得し、中盤戦は3戦連続でポイントを獲得している。

 決勝での力強さは、今回優勝を果たした8号車も同じだ。オートポリスでは当初マシンのセッティングが思うように合わず、23日朝の公式練習では一時最下位になるなど苦戦していた。しかし、決勝に向けて日が暮れるまでミーティングを行ない、妥協しなかった姿勢が優勝に結びついた。

 8号車の今シーズンを振り返ると、第2戦・富士でも第5戦・SUGOでもトップを走りながら、不運に見舞われて順位を落としてしまった。速さがありながらも決勝で結果を残せない状況に、チームを率いる鈴木亜久里監督も唇を噛み締めた。

 だが、今回は違った。前半を担当した福住はアクシデントが多発した波乱のなかでもポジションを上げて2番手でバトンをつなぐと、後半担当の野尻が30周目にModulo NSX-GT(ナンバー64)を抜いてトップへ。そのまま後続との差をどんどん引き離していき、ついに待望の今季初勝利を遂げた。

 レース後、亜久里監督は苦しい状況でもチームを引っ張り続けたドライバーの頑張りを讃えた。

「このふたりがメカニックやエンジニアを引っ張り、いいクルマを作ってくれた。自分たちで引き寄せないと絶対に(勝機は)こないということを言っていたので、本当に頑張ってくれたし、エンジニアもメカニックもいい仕事をしてくれた」

 ホンダのエースと言えば、昨年スーパーGTとスーパーフォーミュラでダブルチャンピオンを獲得した1号車の山本尚貴という存在がいる。だが、今年は8号車の野尻智紀にも注目が集まっている。今月17日に行なわれたスーパーフォーミュラ第6戦で自身初の年間チャンピオンを獲得し、そして今回のスーパーGTでもチームを優勝に導いた。

 残り2戦となった2021年のスーパーGT。スーパーフォーミュラ王者になって自信を深めた野尻の駆る8号車が"台風の目"になることは間違いなさそうだ。