コロナ禍でマスクを着けることが必須となって、清涼感のあるミントへの注目が急速に高まった。かつて日本はミントの一大産地であり、北海道北見地方が、世界の70%ものミントを生産し、輸出していたことをご存知であろうか。今回はこの「ミント」をテーマに…

コロナ禍でマスクを着けることが必須となって、清涼感のあるミントへの注目が急速に高まった。かつて日本はミントの一大産地であり、北海道北見地方が、世界の70%ものミントを生産し、輸出していたことをご存知であろうか。今回はこの「ミント」をテーマにしたスポットをめぐったサイクリングをご紹介したい。

ミントは日本語でハッカ(薄荷)と呼ばれる。すなわち、ミントとハッカは同じものなのだが、大きくペパーミント、スペアミントなどが代表する洋ハッカと、日本で栽培されてきた和ハッカと、ミントの種類は豊富なのだ。同時にミントは東洋医学でも西洋のアロマテラピーでも、効果が認められており、炎症を抑えたり消化を促進したりするとともに、イライラを収め、集中力を高めるなど、メンタルへの効果があると言われており、このストレスの高まった環境には、救世主ともなりうる存在。マスクスプレーをはじめ、ミントを使った製品も増え、全国いたるところでミント(ハッカ)製品が販売されるまでになった。

今回のサイクリングでは、ハッカ(この記事内では、あえて「ハッカ」と呼ぶことにする)の清涼感を満喫し、おいしく味わい、また走行の爽快感も味わえる行程が用意された。ピーチアビエーションの女満別-関西線の就航で、関西エリアからのアクセスとコストが劇的に改善されたことを受け、こころさんと里美さん、ふたりのモニター参加者が大阪から招かれ、北見を走った。



いざ、出発!里美さん、こころさん、ガイドの真由子さんの3名で走行する

北見バスターミナルに完成したばかりのサイクルステーションでレンタサイクルを借り、いざ、スタート!

まず目指すのは、ハッカ蒸留館。ミニ蒸留器の実演もあり、ハッカの蒸留の仕組みを知り、ハッカ製品のショッピングも楽しめる人気の施設だ。館内に足を踏み入れると、全身がハッカの香りに包まれる。気持ちもすっきりするから不思議だ。



ハッカ蒸留館に到着。サイクルラックも準備されていた



蒸留システムのミニチュアに囲まれ、アロマスプレー作りに没頭する2名

この日はアロマスプレー製作体験に挑戦した。講師を務めてくれたスタッフの丁寧な説明を受けながら、注意深く材料を混ぜていく二人。行程はシンプルで、問題なく、上質のスプレーが完成した。



いい香り!二人とも仕上がったスプレーには大満足だった

「このスプレーをベースに、好きなエッセンシャルオイルを加えていただいても楽しめますよ」と講師のスタッフ。「小分けにして、ラベンダーやシトラスを入れてみようかな」「マスクスプレーにも使いたい!」と、二人は目を輝かせていた。



菓子店「清月」に到着!

次なるスポットでは、ハッカのおやつを購入! 向かうのは、平昌五輪でカーリングチーム「ロコ・ソラーレ」がもぐもぐタイムで「赤いサイロ」を食べ、一躍有名になった「清月」だ。だが、今回目指すのはハッカが効いた「薄荷葡萄サンド」。



いただきまーす!



ハッカがアクセントとなったクリームと、しっとりとしたビスケットが一体となり、絶妙な風味の薄荷葡萄サンド

一見普通のレーズンバターサンドなのだが、ここにミントとホワイトチョコレートが加わることで、清涼感が加わり、同時にレーズンの旨味もしっかりと引出され、味わい深いスイーツになっているのだ。パクリと口にした二人は、「おいしい!!」と思わず声を上げた。「なんやこれ、止められない!」。ペロリと一瞬で完食。まさに北見にしかない味! これからの行程に期待が高まっていく。

ここからは地中化したJR石北線の上に作られた緑地スペースを抜けていく。



紅葉が始まった緑地帯をゆく

今年は秋の訪れが早く、葉がかなり色づいていた。落ち葉を踏みしめ進む。想像していなかった秋の風景を早くも楽しめて、得をした気分だ。

続いてたどり着いたのは、「北見ハッカ通商株式会社」の本社だ。ペパーミントグリーンを基調とし、赤く「ハッカ油」と描かれたパッケージを見たことのない人は、今や稀だろう。百貨店などで扱われる日本で最も有名なハッカ製品を扱う会社なのだが、意外や意外、長い歴史を持つ会社ではないのだ。合成ハッカが台頭し、輸入自由化が導入され、北見のハッカ生産が衰退し、ハッカ工場が閉鎖された後に「ハッカの灯を消してはいけない」と設立された会社なのだという。だからこそ、いろいろな試みに挑戦ができるのだと合点がいった。



株式会社北見ハッカ通商本社に到着!白く気高く、まるで宮殿のよう

本社には白を基調とした美しいショールームが設営されている。扉を開けると、ハッカのすっきりとした香りに出迎えられる。胸の奥まで空気を吸い込みたくなる! 宮殿のような天井の高い真っ白なホールに足を踏み入れ、一同、ワクワクが止まらない。



白を基調としたショールーム。チョコミントを連想させる色使いの柱が印象的だ



製造ラインを見学。製品をパッケージに詰める工程のようだ

中にはハッカの歴史や、薄荷工場のミニチュアなどが展示され、ガラス越しに製品の瓶詰めなどの工程を見学することができる(ライン稼働は平日のみ)。
ガラスケースに入れて飾られていた白い氷のような物体が気になって眺めていると、業務推進室長の井家さんが「ハッカの結晶です」と教えてくれた。和ハッカやペパーミントからは、ハッカオイルの他、l(リットル)-メントールという清涼感の元になる物質が精製できるのだとか。l-メントールは、「結晶缶」を使って油を抜き、結晶化するらしい。「2年前の缶ですが、まだ香りがしますよ」と言われ、のぞき込んでみると、確かにハッカの香りが強く漂っている。力強さに感動する一同。



結晶缶の香りを嗅ぐ一同。2年前の物にもかかわらず、まだ強い清涼な香りが残っていた

井家さんが小瓶を持ってきてくれた。うち1本の蓋を開け、差し出した。「これ、『どこかなつかしい香り』って、皆さんがおっしゃるんです」。さっそく香りを嗅いでみると、どこかマイルドで、甘みを連想させる、なじみ深いハッカの香りがする。「昔の板ガムの香り?」「歯磨き粉?」と、口々に意見を語る。これは、お菓子や歯磨き粉にもよく使われている「スペアミント」とのこと。
さらに、残り2本の小瓶の蓋を開けてくれた。皆、ソムリエみたいな顔をして、香りを嗅ぎ分ける。一つ目は「JM」という和ハッカの一種。メントール成分は多いけれど、鋭くスッとするような風味はないのだとか。



井家さんが持ってきてくださったサンプルオイル。どれもまったく違う芳香が楽しめた

もう一つは、同じく和ハッカの「ほくと」。北見で作られた品種で、清涼な香りが特徴なのだそうだ。連想するハッカの香りよりは、マイルドであるように思う。
これまで和ハッカなるものの存在も意識したことはなかったのだが、香りがこれほどまでに異なるとは驚きだった。がぜん「ハッカ」に興味が湧いてきた一同。



最後はショッピング。チョコミントのクッキーやハッカの効いたフルーツキャンディーなど、ほしいものがいっぱい!

売店エリアは、食用にも使用可能なハッカ油や、カーリングのストーンパッケージのミントタブレット、チョコミントキャンディーなどなど、魅力的な商品が多々並んでおり、全員がそれぞれお買い上げ。満足感に包まれながら、この清涼なスペースを後にしたのだった。

ここからは国道39号に出て、ランチの店舗を目指す。国道とはいえ、クルマが自転車との間隔をしっかり保ってくれるため、走行に不安はない。



花薄荷に到着。ここでお待ちかねのランチタイムだ

ほどなく、カフェレストラン「花薄荷」に到着した。テイクアウトのランチボックスをすでに注文しており、テラスでいただく予定だ。



受け取ったランチボックスを並べてみる。どれもおいしそう!



筆者はホットドッグをセレクト。ハーブ風味のパンに、大ぶりのソーセージがよく合う!

自転車を停め、ランチボックスを受け取る。今回は、サポートメンバーを含め、パスタ、ハーブパンのホットドッグ、ハーブパンのホットサンドをセレクト。皆、テラスに陣取り、空腹状態だったこともあり、いっせいに箱を開けてランチにありついた。「おいしい!」「いい香り!」声が上がる。ハーブを使ったメニューを提供する人気店で、パスタにもしっかりとハーブが生きているという。筆者が頼んだハーブパンのホットドッグは、パンに練りこまれたハーブが、ジューシーなソーセージをさっぱりとさせてくれ、絶妙だった。思わず一気に食べ終え、ホッと一息。自然の景観が楽しめるテラスで、満足できるランチだった。



開放感のあるテラスで、のびのびと食事。優雅な秋のひと時だ

デザートも定評のあるお店なのだが、本日の食後のお茶は、とっておきの場所に確保してある。遅れ気味な進行を取り戻すべく、お礼を言って、早々に店を後にした。

国道から田園風景を貫く道へと入り、青々とした畑と、葉の色を変えつつある木々とが織りなす美しい景観の間を抜けていく。ほんのりと汗ばむ、ゆるやかな上り坂だ。
最後は砂利道区間。もはや自転車に乗る気力はなく、自転車を押して上がる。見晴らしの利くエリアに差し掛かり、細い林道を抜けると、木々の間に立つ品の良いログハウスが見えてきた。
ここは「香遊生活」。北海道で、無農薬のハーブを80種類近くも自社栽培し、手摘みを行い、こだわりのハーブティーなどの製品を作っている。
カフェは、現時点ではフードの提供は休止中で、ドリンクに限定し、要予約で営業をしているそうだ。温かみがあり、心和む居心地のよいカフェスペースに誘導される。これまでの疲れもあり、テーブルにゆったりと座り、ハーブティーを注文した。



心を解きほぐすような香りが立ち上るハーブティー。自然の力がみなぎっていた

お二人はそれぞれ、ペパーミントやローズマリー、フェンネルを配合した「香貴」と、オホーツク カモミールにレモンバームやレモングラスを配合した「RESET」をオーダー。ほどなく運ばれてきたガラスのポットからは、ここまでの緊張をときほぐしてくれる、やさしいハーブの香りが立ち上っていた。



ハーブ類が並ぶ「香遊生活」店内

汗をかきながらたどり着いたはずなのに、温かいハーブティーが心地よく、じんわりと身体にしみていくようだ。「あれ、実は冷えてたんかな。からだがふわーっと温められるみたい」思わず里美さんが声を上げた。
「とてもパワーのあるハーブなので、お湯をつぎたしても1リットルくらいは飲めるんですよ」と香遊生活代表の舟山さんが教えてくれた。300mlあまりのポットだけで立ち去るのが惜しい。いつまでもこの心地よい場所に留まり、ティータイムを楽しんでいたい思いに駆られた一同だった。



香遊生活庭にて。すばらしい環境にみなうっとり。いつまでもここにいたい!

名残惜しく屋外に出て、改めてガーデンを見ると、紅葉した木々や、かなたに広がる景観が合わさり、極上の空間が広がっている。「1時間くらいはいないと、もったいないな」。誰かが、そうポツリと語った。

→北海道北見ミントライド(後編)に続く

画像:編集部