サーキット・オブ・ジ・アメリカズでこれほどまでに緊迫した戦いが繰り広げられることになろうとは、誰も予想だにしなかっただろう。 2014年の現行ハイブリッドパワーユニット導入以来、メルセデスAMGが圧倒的な速さと強さを誇り続けてきた場所だ。…

 サーキット・オブ・ジ・アメリカズでこれほどまでに緊迫した戦いが繰り広げられることになろうとは、誰も予想だにしなかっただろう。

 2014年の現行ハイブリッドパワーユニット導入以来、メルセデスAMGが圧倒的な速さと強さを誇り続けてきた場所だ。事実、金曜の段階ではメルセデスAMGが圧倒的に強かったように見えた。



フェルスタッペンとハミルトンが一進一退の好バトル

 しかし、バンピーな路面に彼らが手を焼いた土曜には、レッドブル・ホンダが見事に逆転を果たした。

 そして日曜も、マックス・フェルスタッペンはポールポジションからわずかに出遅れてルイス・ハミルトンに首位を奪われたが、1秒以上離されることなくついていくことができ、ペースは明らかにレッドブルに分があった。前にさえ出てしまえば、あとは独走勝利が可能なのではと思わせるほどだった。

 そこでレッドブルは、10周目という早い段階で動き、先にピットストップを済ませて前に出る戦略に出た。

「ずっとDRS(※)圏内にとどまることができたから、ミディアム(タイヤ)では僕らのほうが速そうだということはわかっていたんだ。でも、ハードタイヤに交換してすぐにそれまでほどの速さがないかもしれないことがわかって、これはちょっとビックリだった」(フェルスタッペン)

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 レッドブルはセルジオ・ペレスを使ってハミルトンにプレッシャーをかけ、13周目にピットインするよう仕向けた。しかし、ハードに換えたハミルトンのペースは速く、ギャップは6.5秒から3秒へと、あっという間に縮まってしまった。

 これは、先にピットインされれば"アンダーカット"を許してしまう距離。つまり、最後のスティントで後方に回ることになる。

 フェルスタッペンは29周目に再び先手を打たざるを得なかった。

「僕らは最初のピットストップですごくアグレッシブな戦略に出て、第2スティントもルイスがアンダーカット圏内にずっととどまってきたから、僕らもそれに対して反応しなければならなくて、また早めのピットストップを強いられたんだ。今日はタイヤの摩耗がものすごく酷かったので、それがうまく機能するかどうかはわからなかった。最終スティントはすごく長かったし、特にこの暑さのなかだからね」

 フェルスタッペンをピットインに追い込んだハミルトンは、今度はタイヤセーブの走りに切り替えて、37周目まで保たせたうえで2度目のピットストップを行なう。つまり、フェルスタッペンよりも8周フレッシュなタイヤで最終スティントを戦う状況を作り出した。

 フェルスタッペンの9秒後方に戻った最終スティントのハミルトンは、1周0.5〜1秒速いペースでその差を刻々と削ってくる。

 今年のアメリカGPでのメルセデスAMGは、明らかにレッドブルに後れを取っていた。しかし、レース戦略を巧みにコントロールすることによってフェルスタッペンよりも8周フレッシュなタイヤを履き、最終スティントにはマシン差をひっくり返して、余りある差を生み出してしまったのだ。

 一方、早めのピットストップを余儀なくされたフェルスタッペンも、ハミルトンのその戦略は熟知していた。だからタイヤを酷使しないよう、高速コーナーでタイヤを滑らせないように走って、最後の勝負にグリップの余力を残すことだけを考えて走っていた。

 残り2周。周回遅れのミック・シューマッハ(ハース)がフェルスタッペンの前に現われ、なかなか彼の背後に追いつくことができない。乱流でタイムロスを強いられるものの、1.2秒後方に入らなければ、周回遅れに対してポジションの入れ換えを指示するブルーフラッグは振られない。

 結果、フェルスタッペンは大きくタイムロスを喫し、1秒後方にハミルトンが迫る。ターン19の先でミックが道を譲り、最終ラップへ入っていくフェルスタッペンとハミルトンのギャップは、ついに1秒を切って0.987秒。

 バックストレートでDRSを使われれば、抜かれる。それがわかっていたからこそ、フェルスタッペンはセクター1の最速を塗り替えるほどの限界ギリギリのプッシュをして、ハミルトンから逃げる。

 そしてターン11の手前にあるDRS検知ポイントまでに、なんとか1.119秒差まで引き離すことに成功。これによって、ハミルトンにバックストレートでDRSを使わせず、オーバーテイクのチャンスを与えなかった。

 守るべき時に守り、攻めるべき時に攻める。

 まさにフェルスタッペンもハミルトンも、それぞれが完璧な戦略と完璧な遂行能力によってマシンパッケージのすべてを引き出した総力戦だった。

「最後に2周ほどハース(ミック・シューマッハ)が前にいて、最終セクターに入っていく時にまだ彼が前にいたから、磨耗が進んだタイヤでフォローしていくのは厳しかったよ。彼が前にいてくれたおかげで(56周目のメインストレートで)DRSが使えたのはラッキーだったし、それで失った分と得た分でプラマイゼロという感じかな。最終ラップはセクター1とセクター2の序盤をうまくまとめることがすべてだった。タイヤはもう完全に終わっていたから簡単ではなかったけど、こうして優勝できて本当にすばらしい気分だよ」(フェルスタッペン)

 チャンピオン争いを繰り広げるふたりが、異次元のドライビングを見せてくれた。



表彰台でドライバーから祝福されるホンダの山本雅史

 表彰台には優勝コンストラクターを代表して、ホンダの山本雅史マネージングディレクターが上がった。前戦トルコの特別カラーに続いて、レッドブルのホンダに対する特別な思いを表わした行為だった。

「今週末のUSGPはフルにお客さんが入って3日間述べ40万人という状況で、グランドスタンドだけでなくメインストレートまでお客さんがなだれて込んで来て感無量でした。レッドブルがホンダへの感謝の思いも込めて表彰台に立たせてくれたわけですから、ホンダを代表してHRD Sakura、HRD MKなどパワーユニットを開発してここまで育ててくれたみんなへの感謝と、レッドブルのみんなが『行け、早く行け!』と声をかけてくれたのもうれしかった」(山本マネージングディレクター)

 後方では、アルファタウリ・ホンダの角田裕毅も好走を見せた。

 予選ではソフトタイヤを使ってなんとかQ3進出を決めたが、決勝では戦略面で大きな不利を背負う可能性があった。

 しかし、スタートでソフトのグリップ優位を最大限に生かして2台を抜き、その後はバルテリ・ボッタスやキミ・ライコネン(アルファロメオ)らとバトルを演じ、最終スティントは好ペースを保って9位入賞を果たしてみせた。

 後半戦から採り入れた慎重なアプローチ方法に加えて、このレースからはエンジニアたちとのコミュニケーションをさらに密にし、ランごとにできるだけ速くマシン状況やフィーリングをフィードバックすることでセットアップ改善のペースを速くするトライを試みた。つまり、レース週末の中のステップバイステップの歩みをさらに加速させようとしているわけだ。

 それがうまくいき、決勝でも好ペースを刻むことができた。これは角田にとって極めて大きな意味を持つ。

「裕毅、今シーズンのベストレースだ。僕たちはここから強くなれる。とても重要なポイントだ」

 9位でチェッカーを受けた角田に、レースエンジニアのマティア・スピニが声をかけた。自己最高位は6位だが、レース週末全体の内容としては間違いなく、これまでのベストだった。

「周りと違ってソフトタイヤでスタートしなければならなかったので厳しい状況でしたが、1周目のグリップにはアドバンテージがあったので2台を抜いて、そのアドバンテージを最大限に生かせたと思います。そのあとはとにかくタイヤをセーブすることに専念しました。

 チームメイトがリタイアしたので自分がポイントを獲らなければならないという責任も感じていました。コンストラクターズ選手権5位争いを考えれば、とても重要なことですから。最終的に長い間できていなかったポイント獲得が果たせたことはとても満足していますし、チームのみんなに感謝しています」

 前戦トルコで果たせず悔しい思いをした入賞をやり遂げ、ようやく角田は長いトンネルから抜け出そうとしている。

 シーズンは残り5戦。中南米に続いて、初開催の2戦と大幅なコース改修が施された最終戦アブダビまで中東3連戦が続く。

 短いようで、まだまだ先は長い。レッドブル・ホンダも、角田裕毅も、2021年に果たすべき仕事はまだまだたくさんある。