GPシリーズ第1戦スケートアメリカ・フリー演技の宇野昌磨 今の自分が跳べるすべてのジャンプを駆使して世界のトップに追いつきたいと、心に決めてシーズンインをした宇野昌磨。10月22〜24日に開催されたスケートアメリカでは、2018年12月のフ…



GPシリーズ第1戦スケートアメリカ・フリー演技の宇野昌磨

 今の自分が跳べるすべてのジャンプを駆使して世界のトップに追いつきたいと、心に決めてシーズンインをした宇野昌磨。10月22〜24日に開催されたスケートアメリカでは、2018年12月のファイナル以来のグランプリ(GP)シリーズ表彰台となる2位に入った。だが、その表情は冷静なままだった。

 心に秘めた気迫は、ショートプログラム(SP)からうかがえた。身体は指先までに太い芯が通ったような、これまで以上の力強さを感じさせる動き。『オーボエ協奏曲』に入り込むだけではなく、曲自体を制御するような滑りだった。最初の4回転フリップはパンクで2回転となって0点だったが、慌てなかった。

 失敗のあとは落ち着いた滑りから4回転トーループ+3回転トーループを成功させると、最後のトリプルアクセルも不安のないジャンプに仕上げた。コンビネーションスピンの取りこぼしはあったが、演技構成点も全選手中最高の44.78点で、合計は89.07点。ヴィンセント・ジョウ(アメリカ)に8.36点差の2位発進だったが、ミスがなければ確実に100点は超えられる力をしっかり見せる演技だった。

 そして宇野は演技についてこう話した。

「いつもなら4回転フリップを失敗したあとは、もう失敗したくないと思って4回転トーループやトリプルアクセルに挑み、ちゃんと跳べたら終わったあとでホッとしていました。でも今回はホッとしたり失敗を悔しがるのではなく、フリップがどういう失敗だったか、次はどうすればいいかだけを考えていました」

 翌日のフリーでは、SP4位発進だったネイサン・チェン(アメリカ)が、4回転5種類6本の構成に挑んだ。複数のミスを出してしまい、合計得点は269.37点に終わった。

 そのあとの演技となった宇野は『ボレロ』を演じた。SP演技後に「フリーで必要なのは、4回転トーループとトリプルアクセルを成功させること。あと、4回転ループと4回転サルコウをどんな気持ちで挑むかがカギ。失敗してもそれを受け止めたい」と話していたような滑り出しになった。最初の4回転ループは回りきりながらも着氷で手をつくミスが出て、次の4回転サルコウはダウングレードの両足着氷。

 次の4回転トーループからの連続ジャンプを4回転+2回転にして確実に降りると、次のトリプルアクセルは軸が斜めになったが立って1.83点の加点を取った。だが後半の4回転フリップは着氷で尻が下がってしまい、0.63点の減点。そのあとの4回転トーループ+2回転トーループはきっちり決めた。トリプルアクセルからの3連続ジャンプは最後の3回転フリップで焦りが出たのか、4分の1の回転不足で2.29点の減点となった。フリーの得点はチェンより4.87点低い181.61点にとどまったが合計は1.31点上回る270.68点で、2018年世界選手権から続いていたチェンの連勝記録をストップさせた。

 最終結果は、5本の4回転を降りたジョウには逃げきられる2位だった。しかし、プログラム全体を見れば進化はあった。10月2日のジャパンオープンでは、曲調が静かな前半はその音に乗りきれないような印象だったが、今回はしっかり音をとらえた宇野らしい滑りで完成に一歩近づいていた。

 それでも宇野は、淡々とこう振り返っていた。

「2位は光栄だし、これだけレベルの高いなかでのこの成績はすごいと思いますが、まだ自分の求めているレベルまで到達していないことを確認しました。今回はヴィンセント選手がすごかったですが、練習での彼の姿と安定したフリーの演技を見て、何回も何回も練習しているんだろうなと感じたので。僕はまだジャンプに気がいってしまってプログラムとしてはまだまだなので、僕ももっと練習できるなと感じました」

 宇野はアメリカへ来て感じたことがある。自身がフリーで挑む4回転5本のジャンプ構成を「難しいもの」と考えていたが、世界を見れば他の選手も挑戦していて、特別に構える必要はないと思ったのだ。

「もちろん(4回転5本の構成は)難しいことだとは認識しているし、失敗すれば今まで以上に順位変動はあります。ただ僕はもっと簡単な構成でもここ数年はまとめられなくて、ノーミスの演技もほとんどしていないので。それなら難しい構成を練習して挑んでいきたいというのを心がけているけど、世界のレベルはどんどん上がっている。今はそれが、素直にうれしいなと思います」

 自分だけではなく、多くの選手が挑んでいる。そこに自分がいられる満足感や、競技者としてのプライドを感じているのだ。

 2位という結果に満足するのではなく、すぐに11月のNHK杯へ向ける意識を高めていた宇野。彼にとってこのスケートアメリカは、挑戦することの楽しさを感じ、挑戦できる自分を誇れるような気持ちになれた大会になったのだろう。