日本代表戦、3年ぶりの先発で好プレーを残した松田力也 スタジアムに国際試合ならではの熱気が戻った。新型コロナ感染予防で声援はないけれど、激しい拍手、手拍子、そして地鳴りのごとき応援ハリセンを打ち鳴らす音の渦。定位置獲りへの気概と進化を誇示し…



日本代表戦、3年ぶりの先発で好プレーを残した松田力也

 スタジアムに国際試合ならではの熱気が戻った。新型コロナ感染予防で声援はないけれど、激しい拍手、手拍子、そして地鳴りのごとき応援ハリセンを打ち鳴らす音の渦。定位置獲りへの気概と進化を誇示したSO(スタンドオフ)松田力也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)は静かにスタンドを見やった。27歳の言葉に悔しさと充実感がにじむ。

「ほんと勝てる試合だったのに......。すごく悔しい。いいコミュニケーションをとることで、ゲームをうまくコントロールできました」

 10月23日の大分・昭和電工ドーム大分。日本代表にとっては、2019年のラグビーワールドカップ(W杯)以来、実に2年ぶりの国内テストマッチ(国代表戦)だった。観客はほぼ人数制限枠いっぱいの1万7千人。世界ランキング10位の日本は、同3位の豪州を土俵際まで追い詰めた。が、最後は23-32で突き放された。

 スタンドが大いにわいた。前半26分だ。豪州に2トライ(ゴール)を先行された直後だった。蹴り込んだキックオフのボールを確保して、日本は右に左にいいテンポで攻める。10フェーズ(局面)目。ラックからSH(スクラムハーフ)流大(東京サントリーサンゴリアス)が右にパスを出す。

 これを受けた松田が、オープンサイドの右WTB(ウイング)のレメキ・ロマノ・ラヴァ(NECグリーンロケッツ東葛)のコールに反応した。ディフェンスの陣形を瞬時に読み、右足でピンポイントの長いクロスキックを右タッチライン際へ。レメキが好捕し、体をうまくずらして右隅に飛び込んだ。

 松田は「外からいいコールがあったので」と笑顔で振り返った。

「思ったとおりというか、自分のスキルを信じて、コールを信じてプレーした。トライにつながってよかったなと思います」

 直後の難しい位置からのゴールキックを蹴り込んだあと、PG(ペナルティーゴール)も決めて1点差に詰め寄った。この日は持ち前のプレースキックが冴えた。(後半は簡単なPGを1本、外したが)

 試合後のオンライン会見。ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は「10番のリキ(松田)がよかった」と評価した。

「プレー、判断がバランス的にすごくよかった。ラインにボールを持って仕掛けていた。特に(トライを生んだ)クロスキックが象徴的で、リキの成長が読みとれた」

 クロスキック以外でも、持ち前のフィジカルの強さを生かし、タックルでは体を張った。スペースを見つければ、走って、また走った。たとえば、前半の終盤、こぼれ球をSH流からもらうと、右タッチライン際から内側に2度、鋭く切れ込んで前に出た。ボールをつないでいこうとの強い意志が見えた。

 素材は文句なしだ。181センチ、92キロ。名前は京都・伏見工高時代から全国に知れ渡っていた。実直、真摯、誠実。名前の「力也(りきや)」は、病気で早逝した父による「男は力なり」との熱い思いが込められている。

 帝京大では大学連覇に貢献し、2016年、大学4年の時のカナダ代表戦に途中出場して初キャップ(国代表戦出場)を獲得した。パナソニックに進み、FB(フルバック)からセンター、SOと複数のポジションをこなしながら、日本代表では控え選手に甘んじてきた。

 2019年のW杯でも、今年前半の欧州ツアーでも、先発SOの座は32歳の田村優(横浜キヤノンイーグルス)に譲り、松田はほとんどベンチを温めてきた。屈辱だった。緊張と重圧と苦悩はいかばかりか。「納得することができない結果だった」と漏らしたこともある。

 でも、くさらなかった。最後のトップリーグでは、司令塔として、所属チームを日本一に導いた。松田にとって、この試合が3年ぶりの日本代表の先発だった。松田は言った。

「ずっと、ずっと、先発出場がないなかで、自分自身はいい準備をして、待つことしかできなかった。だから、代表活動期間だけでなく、トップリーグ期間も、できる限りの準備をしていた。チャンスがくれば、自信を持ってプレーしようと思っていた」

 そういえば、前回2017年11月の豪州戦(横浜・●30-63)で背番号10のジャージを着たのは、まだ23歳(当時)の松田だった。それから、4年。日本代表は底力をつけたが、松田も進化を遂げた。「成長を実感する部分は?」と聞けば、松田は言った。

「あの(2017年の)試合はまだまだ若かったですし、経験も浅かったので、すごく反省した試合だったということを覚えている。その後、いい経験をさせてもらったので、自分自身、より落ち着いてゲームを進めることができた。冷静に、着実に、成長できているんじゃないかと感じています」

 膨らむ自信、高まる意欲。課題はもちろん、ある。プレーの精度と試合運び、そして何より、仲間からの『信頼』である。

 座右の銘が『one more push』。「次はチームを勝利に導けるようなゲームコントロールをアピールしたい」。短い言葉に実感がこもる。いざ、2023年W杯フランス大会へ、SOの定位置獲得へ。松田はこれからの欧州ツアーでさらなる飛躍をめざす。